第29話 帰れなかった探索者たち
世間の反応は、完全には変わらなかった。
久我蓮は人殺し。
久我蓮は危険人物。
久我蓮は公社の邪魔をした。
久我蓮が混乱を招いた。
その声は残った。
だが、別の声も出た。
久我がいなかったら風穴ランナーズは死んでいた。
公式発表より久我配信の方が早かった。
信用していいかは分からない。
でも、今回は必要だった。
白河レナ事故も、久我の言う通り未帰還だったのではないか。
黒峰ユウマは短い動画を出した。
『久我蓮氏の配信が救助に寄与したことは、認めなければなりません』
ナツはそれを見て言った。
「今回は短い」
「学習しています」
「いいことだけど、腹立つね」
瀬戸内ハルカからも連絡が来た。
救助者四名、全員生存。
低体温、骨折、打撲。
帰還事故特有の再構成痕なし。
つまり、飛ばされたのではなく閉じ込められた可能性が高い。
白河レナ事故と完全一致ではない。
だが、帰還補助装置の異常起動は酷似。
久我は返信した。
了解しました。
医療ログの公開可能範囲を確認してください。
ハルカからすぐに返る。
冷たい。
でも必要。
確認する。
ナツが横で見ていた。
「ハルカ先生まで冷蔵庫慣れしてきた」
久我は、救助映像をもう一度見た。
北側排水管理路。
崩れた壁。
奥から漏れたライト。
そして、レナの声。
そこじゃない。
下にいる。
白河レナは、どこから見ていたのか。
久我には、まだ答えを出せなかった。
ただ、白河レナの声は、第二事故の閉じ込め位置を知っていた。
*
風穴ランナーズの四人が、短い会見に出たのは翌日の夜だった。
病院内の会議室。
カメラは一台。
音声も最低限。
公社が同席している。
所属事務所のスタッフもいる。
医師の判断で、会見は五分だけと説明された。
南雲タクミが代表して話した。
「救助隊、公社、現地の皆さん、視聴者の皆さんに感謝します」
声はかすれていた。
顔色も悪い。
それでも、目ははっきりしていた。
「配信を見て、情報を集めてくださった方々にも感謝します。自分たちは、あの配信がなければ見つからなかったと思います」
公社職員の表情が少し動いた。
南雲は、わずかに間を置いた。
「久我蓮さんの配信を見た人が、北側ルートを救助隊に伝えてくれたと聞いています。あれがなければ、自分たちは見つからなかった」
久我は画面を見ていた。
自分の名前が、救助された側から出た。
罵倒でも、告発でもなく。
必要だったものとして。
久我はその言葉を保存した。
会見はそこで終わるはずだった。
だが、片瀬ユイがマイクへ顔を近づけた。
隣のスタッフが止めようとする。
南雲も一度、彼女を見た。
ユイは震えていた。
怪我のせいではない。
「私、見ました」
会見場の空気が変わった。
記者の一人が聞く。
「何をですか」
ユイは、唇を噛んだ。
言っていいのか迷っている顔だった。
それでも、言った。
「白河レナさんを」
会場がざわついた。
公社職員が前に出ようとする。
南雲が小さく手で制した。
ユイは続けた。
「下に、人がいました」
声が震える。
「帰れなかった人たちが、こっちを見ていました」
久我は、指を止めた。
ナツも何も言わない。
「その中に、白河レナさんがいました」
ユイの目から涙が落ちた。
「帰れなかった探索者たちが集まる場所で、白河レナさんを見ました」
会見は、そこで打ち切られた。
画面は黒くなった。
久我は録画を保存した。
白河レナは、帰れていなかった。
彼女は、死者の側にいた。




