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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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20/60

第20話 白河レナは、死んだ方が完成される

 天城セイジは、ホテルのラウンジにいた。


 逃げていなかった。

 隠れてもいなかった。


 窓際の席。

 黒いジャケット。

 水だけが置かれたテーブル。


 周囲には人がいる。

 だが、誰も天城に気づいていないように振る舞っていた。


 久我は向かいに座った。


 ナツは少し離れた席にいる。

 スマホをいじるふりをして、録音している。


 天城はそれを見ても、何も言わなかった。


「猫田ナツさんは優秀だね」


 第一声がそれだった。


「レナの映像を、よく残していた。ファンの愛は、時に企業の保管体制より強い」


「本題を」


「相変わらず短い」


 天城は笑った。


 柔らかい笑みだった。

 怒りも焦りもない。


「君はログを読む」


 天城は言った。


「私は人間を読む」


 久我は黙っていた。


「君は、時刻、座標、番号、欠損、改ざん履歴を見る。正しい。実に正しい。だから君は安全管理に向いていた」


「白河レナは未帰還です」


「そうだね」


 天城はあっさり認めた。


 久我の指が止まった。


 認めると思っていなかった。


「ただ、世間が求めている白河レナは、もう未帰還の探索者ではない。伝説だ」


「本人が帰っていません」


「人は、本人より物語を先に見る」


 天城は窓の外を見た。


「白河レナは、最後に仲間を帰し、自分は深層に消えた。全員生還率一〇〇パーセントの探索者が、最後まで帰還を願って消えた。美しいだろう」


「美しくありません」


「君にはそうだろう」


 天城は、久我に視線を戻した。


「でも、多くの人間には美しい。泣ける。語れる。買える。支えられる。共有できる」


「商品ですか」


「物語だよ」


「同じです」


「近いが、同じではない」


 天城は水を一口飲んだ。


「生きている探索者は壊れる。失敗する。炎上する。老いる。人気が落ちる。発言を間違える。誰かを傷つける。白河レナも、いつかそうなった」


「だから死んだ方がいいと」


「違う」


 天城は即答した。


 怒ってはいない。


 むしろ、丁寧に訂正する教師のようだった。


「私は、彼女に死んでほしかったわけではない。白河レナを、もっとも美しい形で残したかった」


 ナツの席で、スマホを持つ指が止まった。


 天城は続けた。


「彼女が一度でも新人を見捨てたら、君たちは失望する。一度でもスポンサーを怒らせたら、切り抜きが回る。一度でも笑えなくなれば、白河レナは白河レナでいられなくなる」


「人間だからです」


「そう。人間だから不完全になる」


 天城は、少しだけ目を細めた。


「だが、最高の瞬間に止まった物語は、不完全にならない」


「それは保存ではありません」


「では何だい」


「帰還不能です」


 天城は楽しそうに笑った。


「君なら分かるはずだ。白河レナは、生きているより、死んだ方が完成される」


 久我は、すぐには反論しなかった。


 録音中。

 時刻。

 音声状態。

 周囲雑音。


 先に記録する。


 怒りは、あとでいい。


「彼女は完成品ではありません」


「もちろん。人間だからね」


「なら、帰す対象です」


 天城は、少しだけ嬉しそうにした。


「そこが君のいいところだ」


「あなたのいいところは、まだ見つかりません」


「冷蔵庫が冗談を言うと、部屋の温度が一度下がるな」


 天城は笑った。


 久我は笑わなかった。


「メイズリンクの外部モジュールに欠陥があります」


「証明できるかい」


「します」


「なら、次に考えるべきは、誰が潰れるかだ」


 久我は天城を見た。


 天城は静かに言った。


「真実は人を救うとは限らない。真実で燃える人間もいる」


「脅しですか」


「忠告だよ。私は君を評価している」


 天城は立ち上がった。


「君は正しい。だが、正しさには通路が必要だ。出口のない正しさは、人を閉じ込める」


 天城が去ったあと、ナツが近づいてきた。


「録れた」


「保存してください」


「してる。三重にしてる。あと、今の天城、最悪だった」


「はい」


「でも、言葉だけは強い」


 ナツは悔しそうに言った。


「そこがまた最悪」


 久我は、録音ファイルを保存した。


 証拠九。

 天城セイジ発言。


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