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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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第15話 三つ全部、バツ

 作業は二時間続いた。


 久我が、白河レナの過去戦闘ログを並べる。

 ナツが、公式会見映像の該当部分を切り出す。

 ハルカが、遺体データと照合する。


 モニター上には、三つの欄が作られた。


 事故当日損傷。

 魔力残留。

 帰還事故再構成痕。


 ハルカは、公式会見の切り抜きを再生した。


 天城セイジが映っている。


 黒いスーツ。

 赤い目元。

 抑えた声。


『白河レナは、帰還事故により死亡しました』


 画面が切り替わる。


 遺体確認済み。

 死亡確認書。

 専門監察医による確認。

 添付遺体データ。


 公式側の説明音声が入る。


『こちらが、白河レナ氏の遺体データです。深層帰還事故による身体情報崩壊が確認されており――』


 ハルカが映像を止めた。


 静止画の一部を拡大する。


 損傷部位の一覧。

 右肩。

 左大腿部。

 肋骨。

 魔力焼灼痕。


 ハルカが赤い枠を入れる。


「この損傷は事故当日のものではありません」


 ナツが画面を見た。


「なんで分かるの」


「治癒反応がある。微量だけど、組織が反応してる。帰還事故当日の即時損傷なら、こうはならない」


 ハルカが最初の欄に赤い表示を出した。


 事故当日損傷:不一致


 ナツが小さく息を吐いた。


「バツ一個」


 次に、魔力残留波形。


 画面左に、白河レナの過去戦闘ログ。

 画面右に、遺体データ。


 線の形が違う。


 専門知識がなくても分かった。


 白河レナの波形は、鋭く立ち上がり、すぐに収束している。

 遺体データの波形は、にじむように広がっている。


「この魔力残留は白河レナさんの戦闘記録と一致しません」


 ハルカが二つ目の欄に赤い表示を出した。


 魔力残留:不一致


 ナツが言った。


「バツ二個」


 最後に、再構成痕。


 その欄には、ほとんど何もなかった。


 久我は画面を見た。


 帰還事故なら出るはずだ。


 転送の失敗。

 身体情報の崩壊。

 再構成の途中停止。


 どれも痕跡を残す。


 ハルカは言った。


「そして、最も大きい矛盾があります」


 部屋が静かになった。


「この遺体には、帰還事故による再構成痕がありません」


 画面に、三つ目の赤い表示が出た。


 帰還事故再構成痕:検出なし


 ナツはモニターを見たまま言った。


「三つ全部、バツ」


「そう」


「つまり、傷も、魔力も、帰還事故の痕も、全部レナと合ってないってこと?」


「そう」


 ハルカはマウスから手を離した。


「これは白河レナさんの遺体ではない」


 久我は記録を保存した。


 ハルカの発言。

 画面。

 拡大箇所。

 比較データ。

 時刻。


 手は震えなかった。


 震えてはいけない。


 これは白河レナを帰すための証拠であると同時に、誰か別の人間の死だった。


     *


遺体の正体は、すぐには出なかった。


 ハルカは椅子の背にもたれた。


「身元照合は、私だけでは無理」


 ナツが言った。


「え、専門家なのに?」


「専門家だから無理と言う。公的な歯科データ、未帰還者DB、装備片照合。どれも権限がいる」


「じゃあ詰み?」


「詰みではありません」


 久我は言った。


「公開されている未帰還者記録ならあります」


「公開分だけで当たる?」


「普通は当たりません」


「じゃあ」


「でも、低ランク探索者の事故報告は、削除管理が甘い」


 ハルカが久我を見た。


「どういう意味」


「有名探索者の事故記録は、広報資料として整えられます。低ランク探索者の事故は、事務所報告、保険申請、掲示板の事故スレ、古い公社告知に断片が残る。整えられていない分、矛盾も残ります」


 ナツが顔をしかめた。


「嫌な強み」


「消された記録は、完全には消えません。別の場所に、処理漏れが残ります」


 久我は古い事故データを開いた。


 探索者登録番号。

 事故日。

 所属事務所。

 最終探索階層。

 回収状況。

 保険申請の有無。

 事務所閉鎖履歴。


 ナツが別画面で古い事故スレを探す。


「三年前あたりで、遺体未回収、低ランク、女性探索者。範囲は?」


「広いです」


「嫌な広さ」


 ハルカは遺体データから、特徴を抽出した。


 骨格特徴。

 古傷。

 魔力残留。

 装備片の金属成分。

 身長推定。


 久我が候補を絞る。


 十五人。

 八人。

 三人。


 久我は、三人の事故報告を並べた。


 一人目。

 事務所報告と公社告知が一致している。


 二人目。

 装備片の金属成分が違う。


 三人目。


 羽村サキ。


 所属事務所の事故報告では、装備回収なし。

 だが、保険申請の添付欄にだけ「左腕部プロテクター破片回収」と残っている。


 久我は、遺体データの装備片成分と照合した。


 同じだった。


 さらに、事故スレに残っていた一枚の画像。


 ぼやけた配信画面。

 左腕のプロテクター。

 角の欠け方。


 遺体データの装備片と、形状が合う。


「この人です」


 久我は言った。


 ハルカが照合結果を開く。


 骨格特徴。

 古傷。

 装備片。

 魔力残留。

 歯科特徴の公開断片。


 照合率、九十八・七パーセント。


 数字は冷たい。


 だが、その下に名前があった。


 羽村サキ。


 その瞬間、遺体データは「別人」ではなくなった。


 人間の名前になった。


 ナツが声を落とした。


「この人?」


「可能性は極めて高い」


 ハルカは言った。


「ただし、公開前に家族へ確認が必要」


 久我はうなずいた。


「会います」


 ナツが久我を見た。


「久我さんが行くの?」


「はい」


「なんで」


 久我は少し黙った。


 理由は簡単ではなかった。


 羽村サキを死亡処理したのは久我ではない。

 遺体データを流用したのも久我ではない。


 だが、これから久我は羽村サキの名前を使う。


 白河レナを帰すために。


「使うからです」


 久我は言った。


 ナツは何も言わなかった。


 ハルカも止めなかった。


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