第13話 死亡確認の根拠
白河レナは生きていた。
少なくとも、死んではいなかった。
久我蓮は、届いた映像を保存した。
元ファイル。
複製。
音声分離版。
メタデータ保存版。
それ以上は、今は増やさなかった。
映像は強い。
暗い街。
空のない天井。
壁を流れるコメント。
血まみれの白い探索スーツ。
そして、白河レナの声。
『まだ、見られてる』
久我は再生を止めた。
白河レナは生きている。
だが、この映像だけでは公式死亡確認を崩せない。
公式は、こう言えばいい。
合成映像。
悪質な生存偽装。
白河レナの尊厳を傷つける行為。
映像は、燃える。
証拠にもなる。
商品にもなる。
だから、次に見るべきものは別にあった。
死亡確認の根拠。
白河レナの遺体確認書。
*
「遺体確認書って、一般人が手に入れていいもの?」
猫田ナツは、画面越しに言った。
寝不足の顔だった。
髪が少し跳ねている。
だが、作業画面だけは整っていた。
公式アーカイブ更新履歴。
黒峰ユウマ謝罪配信の切り抜き。
ナツ保存版の事故直前音声。
掲示板検証班の時系列画像。
全部、フォルダ分けされている。
「通常は無理です」
久我は答えた。
「じゃあ無理じゃん」
「通常でなければ可能です」
「冷蔵庫が犯罪予告みたいな言い方してる」
「違法取得はしません」
「じゃあどうするの」
「公式発表時に配布された資料を探します。記者向け。スポンサー向け。関係機関向け。黒峰ユウマに渡った資料もあります」
「また黒峰さんの資料」
「資料は残ります」
「言い方」
ナツは別ウィンドウを開いた。
「こっちはファンネットワークに当たる。レナの古参、記者アカ、スポンサー資料を持ってそうな人。あと、黒峰謝罪後に公式から距離取り始めた人が何人かいる」
「危険です」
「もう燃えてるから、火加減の問題」
「火傷はします」
「知ってる」
ナツは、少しだけ黙った。
「でも、レナの最後の声を消したやつを、ここで止めたい」
久我は返事をしなかった。
その必要はなかった。
画面の向こうで、ナツが指を動かす。
「ただ、出どころは守る。情報くれた人まで燃やしたくない」
「同意します」
「そこは即答なんだ」
久我は、証拠フォルダを開いた。
削除前ログ。
公式アーカイブの音声差し替え。
中止申請削除。
異常映像。
時系列順に並べれば、どれも同じ方向を向いている。
白河レナは、死んでいない可能性がある。
だが、公式はすでに死亡を出している。
死亡を出した側は、死んだと見なすための紙を持っている。
なら、その紙を見るしかない。
*
資料はすぐには出なかった。
最初の一通は、黒塗りが多すぎた。
署名欄も、遺体データ番号も、確認時刻の一部も潰されていた。
次の資料は、別の意味でおかしかった。
記者向けとスポンサー向けで、死亡確認時刻が十三分ずれている。
さらに、署名欄の位置も違う。
同じ書式のはずなのに、罫線の幅が一ミリずれていた。
久我は二つを重ねた。
完全には合わない。
ナツが画面を見て言った。
「これ、どっちかが偽物?」
「どちらも偽物かもしれません」
「地獄の選択肢増やさないで」
「ただし、資料番号は公式発表と一致しています」
「つまり?」
「公式側から出た資料の中に、加工されたものが混じっています」
ナツは、しばらく黙った。
「それ、かなりまずくない?」
「はい」
「じゃあ、もっと掘る」
三つ目の資料が届いたのは、翌朝四時十七分だった。
ナツのメッセージは短かった。
来た。
多分、本物。
でも、これ見たあと寝られないやつ。
添付は三つ。
白河レナ死亡確認書。
遺体確認補足資料。
生体残留データ照合表。
久我は、いつもの手順で開いた。
ネットワークを切る。
仮想環境を立てる。
メタデータを見る。
改変履歴を見る。
作成者欄を見る。
資料番号は、公式発表の通し番号と一致した。
作成時刻も合う。
黒塗りはない。
署名欄があった。
死亡確認者。
探索者専門監察医。
瀬戸内ハルカ。
久我は、その名前を検索した。
すぐに出てきた。
探索者専門監察医。
帰還事故、魔力汚染死、深層障害、遺体再構成不全を扱う専門家。
公社の外部協力医。
過去に、探索者事務所側の死亡発表を否定したこともある。
評判は悪くない。
ただし、好かれてもいない。
掲示板の過去ログには、こう書かれていた。
瀬戸内ハルカ、口悪いけど仕事はする
遺族に優しくはないが、書類には厳しい
公社にも事務所にも噛みつく
死因欄の鬼
この人に死亡確認されたら、たぶん本当に死んでる
久我は、その最後の一文を見た。
なら、会うしかない。




