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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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第12話 まだ、見られてる

 夜になっても、ネットは燃えていた。


 黒峰の謝罪配信。

 ナツの比較動画。

 公式アーカイブ改ざん疑惑。

 久我の中止申請。


 全部が混じり、分かりやすい怒りの形を失っていた。


 久我は自宅に戻り、ログを整理していた。


 証拠一。

 白河レナの生存音声。


 証拠二。

 天城セイジのメッセージ。


 証拠三。

 事故直前のゲート登録番号異常。


 証拠四。

 ナツ保存版と公式アーカイブの音声差異。


 証拠五。

 中止申請削除。


 並べると、事件の形が少しずつ見える。


 だが、中心がまだ見えない。


 誰がゲートを差し替えたのか。

 なぜ白河レナを死亡扱いにしたのか。

 転送先の第零階層外縁とは何か。

 天城はどこまで知っているのか。


 久我は、事故直前の装備ログを開いた。


 支援班の位置情報。

 帰還ゲート起動時刻。

 白河レナの座標。

 同行新人二名の帰還完了。

 別ルート支援班の後方待機。


 その中で、一つだけ動きがあった。


 映像の端に何度か映っていた男だった。


 鷹宮リョウ。


 白河レナの相棒。

 深層攻略で、何度も彼女と並んで戦ってきた探索者。

 今回の大型配信では、別ルートの支援班に入っていた。


 事故の七秒前。


 鷹宮リョウの位置だけが、帰還ゲートから離れている。


 ゲートから、三・二メートル。

 五・六メートル。

 八・九メートル。


 支援班全体ではない。


 彼だけだった。


 久我は、画面を見つめた。


 偶然かもしれない。

 配置かもしれない。

 ログの乱れかもしれない。


 だが、記録に残った疑問は消えない。


 久我はファイル名を変更した。


 証拠六。

 鷹宮リョウ位置ログ。


 その時、端末が鳴った。


 通知音は一度だけだった。


 送信者不明。

 添付ファイルあり。


 久我は、すぐには開かなかった。


 端末をネットワークから切る。

 仮想環境を立ち上げる。

 添付ファイルを隔離する。

 再生前にメタデータを見る。


 ファイル名は、壊れていた。


 拡張子だけが、映像ファイルであることを示している。


 作成時刻は、現在時刻より三分未来になっていた。


 久我は再生した。


 画面は暗かった。


 最初は、何も映っていないように見えた。


 次に、光が揺れた。


 街だった。


 だが、普通の街ではない。


 ビルのような影が並んでいる。

 道路のようなものがある。

 街灯に似た白い柱が、何本も立っている。


 空は見えない。


 上には黒い天井のようなものがあり、そこに無数の小さな画面が埋まっていた。


 配信画面に似ていた。


 コメント欄のような文字が、壁を流れている。


 ――声になったコメント――

 《死ね》

 《神回》

 《逃げるな》

 《もっと見せろ》

 《泣いた》

 《ざまあ》

 《帰ってこい》

 《嘘だろ》

 《レナ様》

 《死ぬな》


 それが声になっていた。


 人間の声ではない。

 合成音声でもない。

 何千人分ものコメントを、無理やり空気にしたような音。


 画面が揺れる。


 誰かが歩いている。


 白い探索スーツ。


 肩のロゴは、泥と血で汚れていた。


 髪が乱れている。

 左腕を押さえている。

 足を引きずっている。


 白河レナだった。


 久我は、呼吸を止めた。


 レナが振り返る。


 顔には血がついていた。

 目は生きている。

 疲れている。

 怯えている。


 それでも、まだ周囲を見ている。


 逃げ道を探している顔だった。


 彼女の唇が動く。


 音声はほとんど壊れている。


『……久我、さん』


 ノイズ。


『ここ……普通の……階層じゃ……』


 背後で、コメントの声が膨らむ。


 ――声になったコメント――

 《死ね》

 《神回》

 《逃げるな》

 《もっと見せろ》

 《もっと》

 《もっと》

 《もっと》


 レナが何かから身を隠すように、壊れた壁の陰へ入る。


 壁には、過去の配信画面が映っていた。


 白河レナが笑っている。

 白河レナが戦っている。

 白河レナが帰還している。

 白河レナの追悼配信が流れている。


 その横に、今のレナがいた。


 血まみれで、息を殺しながら。


 映像は、そこで大きく乱れた。


 最後に、一瞬だけ彼女の声が入った。


『まだ、見られてる』


 画面が黒くなった。


 久我は動かなかった。


 部屋の中は静かだった。


 冷蔵庫の音がする。

 換気扇が回っている。

 外で車が通る。


 普通の部屋だった。


 だが、画面の向こうは違った。


 白河レナは、生きていた。


 だが、そこは生きている人間のいる場所ではなかった。


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