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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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11/11

第11話 謝罪配信に追い込まれる

 黒峰ユウマの謝罪配信は、翌朝に設定された。


 タイトルは、白河レナ事故に関する発言についてのお詫び。


 生配信だった。


 コメント欄は、開始前から荒れていた。


 ――コメント欄――

 《謝罪枠きた》

 《録画じゃないんだ》

 《逃げなかったのは評価する》

 《逃げられなかっただけでは》

 《結果的に待機》

 《不確かな情報待機》

 《断定は避けます待機》


 配信が始まった。


 背景は白。

 黒峰はスーツを着ていた。

 机の上に手を置き、深く頭を下げる。


「このたびは、白河レナさんの事故に関する私の配信において、結果的に、不確かな情報をもとに断定的な発言をしてしまいました」


 結果的に。


 不確かな情報をもとに。


 断定的な発言。


 言葉は丁寧だった。


 丁寧すぎて、責任の輪郭がぼやけていた。


「久我蓮氏、および関係者の皆様に、ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします」


 黒峰はもう一度、頭を下げた。


 コメント欄が流れる。


 ――コメント欄――

 《迷惑?》

 《人殺し扱いは迷惑で済むのか》

 《結果的にって何》

 《不確かな情報って誰が確かな顔で読んだの》

 《昨日の自分に言え》

 《責任を曖昧にしてはいけないんだよな?》


 その時、別窓で同時視聴していた検証班が、短い切り抜きを流した。


 黒峰の断罪配信。


『僕たちは、怒りに任せて個人攻撃をしてはいけません。ただし、責任を曖昧にしてもいけない』


 現在の黒峰の謝罪画面。

 過去の黒峰の声。


 責任を曖昧にしてもいけない。


 コメント欄が一気に加速した。


 ――コメント欄――

 《自分で言ってる》

 《責任を曖昧にしてはいけない》

 《過去の黒峰、現在の黒峰を殴る》

 《黒峰ユウマVS黒峰ユウマ》

 《昨日の自分が最強の敵》

 《これは逃げられない》


 黒峰の目線が、コメント欄へ落ちた。


 一瞬だけ、顔色が変わる。


 彼は用意していた紙へ視線を戻した。


「今回、私が参照した資料は、公式に提供されたものであり――」


 そこで止まった。


 資料は。


 黒峰の視線が、手元の紙の右下へ落ちる。


 [画面]資料提供、オーロラゲート広報部。


 前日の配信でも映っていた文字。


 黒峰の口が少し開いた。


「資料は――」


 続かなかった。


 言えば、公式を疑うことになる。

 言わなければ、自分だけが燃える。


 その沈黙は、昨日の沈黙より長かった。


 コメント欄が答えを先に出した。


 ――コメント欄――

 《言えよ》

 《公式資料に乗せられたって言いたい?》

 《でもそれ昨日まで信用してたよね?》

 《公式が一番信頼できるんだよね?》

 《資料提供オーロラゲート、見えてます》

 《見えてます高校校歌》

 《高校はもういい》

 《いや今回はいる》


 黒峰は、水を飲まなかった。


 飲む手が動かなかった。


「公式資料を参照したことは事実です。しかし、それを確認し、発信した責任は私にあります」


 ようやく言った。


 言葉としては正しい。


 だが、そこまでに空いた沈黙が、すべてを映していた。


 黒峰は頭を下げた。


「久我蓮氏を、断定的に責めるべきではありませんでした」


 コメント欄の一部が止まった。


 初めて、黒峰がそこまで言った。


 だが、すぐに別のコメントが流れる。


 《謝った》

 《でも遅い》

 《久我を人殺し扱いした切り抜き、消すの?》

 《過去配信は残すの?》

 《訂正動画固定しろ》

 《オーロラゲートにも聞け》

 《公式に質問しろ》

 《そこまでやったら少し見直す》


 黒峰は、画面の向こうで小さく息を吸った。


「過去配信については、訂正を明記します。該当部分の切り抜きについても、削除ではなく、訂正リンクを付ける形で対応します」


 削除ではない。


 訂正を残す。


 その判断に、コメント欄が少し揺れた。


 逃げ切りではない。

 ただし、潔白でもない。


 黒峰は最後に言った。


「白河レナさんの死を、誰かを殴るための道具にしてしまったことを、お詫びします」


 配信は、そこで終わった。


 掲示板は、朝から元気だった。


 ――掲示板――

 【速報】黒峰、謝罪配信

 【悲報】断罪配信者、公式アーカイブ改ざんに釣られる

 【朗報】久我、殺人者から“少なくとも公式よりマシな男”に昇格

 【検証班】本日の勝利

 【草】公式より掲示板の方が仕事してる

 【悲報】黒峰、謝ってるけどまだ保身してる

 【結果的に】便利すぎる日本語

 【不確かな情報】お前が確かな顔で言ってたんだぞ

 【疑問】黒峰、オーロラゲートの資料で一回止まったよな?


 笑いが混じっていた。


 怒りも混じっていた。


 手のひら返しも混じっていた。


 久我への評価は、反転したわけではない。


 《久我本人が無罪になったわけではない》

 《公式が説明するまで分からない》

 《検証班は陰謀論に寄りすぎ》

 《でも公式も黒峰も怪しい》

 《レナを利用するな》

 《ナツも久我も信用しすぎるな》

 《まず全ログを出せ》

 《全員疑え》


 久我は、それでいいと思った。


 信じられる必要はない。

 疑われればいい。


 公式だけが正しい。

 久我だけが悪い。


 その形が崩れれば、次のログを置ける。


 ナツからメッセージが来た。


 ――DM――

 〉生きてる?


 久我は返信した。


 ――DM――

 〉はい。


 ナツから、すぐに来る。


 ――DM――

 〉こっちは燃えてる。

 〉でも思ったより耐えてる。

 〉あと私の保存版を疑ってるやつが多いから、次は公式アーカイブの差し替え前後をもっと掘る。

 〉更新時刻だけじゃ弱い。外部キャッシュと魚拓を探す。

 〉眠い。

 〉レナのために寝る。


 久我は少し考えて、返信した。


 ――DM――

 〉寝てください。


 ナツから来た。


 命令形に近い優しさ、冷蔵庫味が強い。


 久我は返信しなかった。


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