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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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10/11

第10話 黒峰ユウマ、沈黙する

 黒峰ユウマは、その二時間後に再配信を始めた。


 タイトルは、冷静だった。


 公式アーカイブ改ざん疑惑について話します。


 同接は三十万人を超えた。


 黒峰は、いつも通りのセットに座っていた。

 背景には、ダンジョン地図のポスター。

 机の上には資料。

 照明も整っている。


 ただ、目の下に少しだけ影があった。


「まず、皆さんにお願いがあります。陰謀論に騙されないでください」


 コメント欄が流れる。


 ――コメント欄――

 《きた》

 《黒峰さん頼む》

 《冷静に整理して》

 《公式改ざん疑惑どう見る?》

 《ナツの動画見た?》

 《久我の中止申請は?》


 黒峰は、視線をカメラに戻した。


「公式が出した映像が、一番信頼できる。これは大前提です。個人の保存データは、どうしても改変の可能性を排除できません」


 言っていることは、間違っていない。


 個人データは改変できる。

 公式データの方が信頼される。


 普通なら。


「もちろん、疑問を持つことは大事です。ただ、悲劇の直後に不確かな情報で世論を動かすことは、非常に危険です」


 コメント欄は割れていた。


 ――コメント欄――

 《その通り》

 《ナツ保存版だけじゃ弱い》

 《でも口パク合ってるじゃん》

 《公式版の無音処理は?》

 《久我の中止申請は?》

 《黒峰さん、そこ触れて》


 黒峰は資料をめくった。


「久我蓮氏が中止申請を出していたという話もあります。ただし、それが正式に受理されていたか、事故防止に有効だったかは別問題です」


 その瞬間、検証班が追加画像を投下した。


 掲示板だけではない。

 SNSにも流れた。

 黒峰の配信コメント欄にも、URLが貼られた。


 ――検証画像――

 【比較画像】

 左:黒峰配信使用の公式ログ

 右:削除前ログ

 差分:中止申請行のみ欠落


 【時刻】

 20:07:43 久我蓮、中止申請送信

 20:07:44 申請受付

 20:08:12 配信開始

 20:42:11 事故発生


 【公式ログ】

 中止申請の行、なし。


 コメント欄の流れが変わった。


 ――コメント欄――

 《黒峰さん、これどういうこと?》

 《久我、中止申請出してるじゃん》

 《叩く相手間違えてない?》

 《公式鵜呑みにして断罪配信したの?》

 《さっきまで人殺しって言ってたよね?》

 《申請消えてるのはなぜ?》

 《公式ログから中止申請だけ消えることある?》

 《黒峰さん止まった?》

 《謝罪は?》


 黒峰の表情が、わずかに変わった。


 口元の力が抜けた。

 目線がコメント欄へ落ちる。

 すぐに資料へ戻る。


 手元の紙をめくる。


 一枚。

 二枚。

 三枚。


 探している。


 ない。


 画面の中の沈黙は、音より目立った。


 黒峰は、何かを言おうとした。


「これは……」


 止まった。


 コメント欄は容赦がない。


 ――コメント欄――

 《これは?》

 《これは何?》

 《続き言って》

 《公式ログが一番信頼できるんだよね?》

 《その公式ログから申請消えてるの何?》

 《不確かな情報で断定したの誰?》

 《黒峰さん、冷静に整理して》

 《自分の整理もして》

 《さっきまで久我に言ってたこと自分に返ってるぞ》


 黒峰は水を飲んだ。


 喉が動く。


 いつもの解説者の顔が、少しずつ崩れていく。


 怒鳴らなかった。

 視聴者を責めなかった。

 だから余計に、追い詰められているのが分かった。


「確認します」


 ようやく黒峰は言った。


「いま出ている画像については、こちらでも確認します。現時点で断定は避けます」


 コメント欄が、一斉に反応した。


 ――コメント欄――

 《久我には断定したのに?》

 《断定は避けます出た》

 《便利な言葉》

 《久我にもその慎重さ使ってやれよ》

 《謝罪は?》

 《まず断罪配信の訂正では?》


 黒峰は、配信を予定より早く終えた。


「確認が必要な情報が出たため、本日の配信はここまでとします」


 締めの言葉は、いつもより短かった。


 画面が暗くなった。


 掲示板に、新しいスレッドが立つ。


 ――掲示板――

 【悲報】黒峰ユウマさん、確認しますbotになる

 【検証】公式ログから中止申請が消えていた件

 【朗報】久我、殺人者から“少なくとも公式よりマシな男”に昇格

 【急募】断罪配信の撤回方法

 【草】公式より掲示板の方が仕事してる

 【速報】黒峰、配信終了


 久我は、それを見ていた。


 気持ちよくはなかった。


 だが、息は少しだけしやすくなった。


 久我を一方的に叩けばいい。


 その空気に、穴が開いた。


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