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第7話 準備

 夜明けに起きるのはいつぶりだろうか。


 朝を告げるように遠くから教会の鐘の音が響いている。


 昨日お店から出てルクスリア教会の宿舎へとアメリアと帰った。


 そして今朝、門の前でアメリアと待ち合わせをしてから、ひとまず俺の旅支度を整えるために目的の店へと向かうこととなった。


 白んだ空にそびえる教会はなんだかとても綺麗だ。


 それを門の前で見ているとアメリアの声。


「おはようございます。おまたせしました」


 アメリアは初めて会った時と同じ服装の白を基調とした赤色の入った修道服を着ている。


 それに似つかわしくないようないろいろと入ったリュックを背負って現れた。


「俺も今来たところです。おはようございます」


「それでは行きましょう。案内しますのでついてきてくださいね」


「はい」


 まだこんな明け方だというのに人通りが多く活気づいている。


 その誰もが今日を生きていくんだという強い顔をしているように見えた。


 あんなことがあってまだ間もないっていうのにこの町の人たちは皆強いな。


 自然と拳に力が入る。


 ここへ来てからというもののただただ飲んだくれていただけだったのだから。


「それで……アメリア様」


「はい。どうしました?」


「護衛と言うと……その、どんなことをすればよろしいでしょうか?」


「……?」


 不安げな表情をおつくりになられるご令嬢様。


 仕方ないでしょう。


 名ざしで指名されたとはいえ俺はこういう事に関しては素人なんだから。


「そうですね……基本的には私の身の安全を確保してくださる事と魔物の対処でしょうか」


「ほかに護衛を担当する人は?」


「すみません。あなただけなんです……」


「おふ……」


 これは先行きが不安になってきた。


 そんな心境を察してかなぜか空元気を見せるアメリア。


「まずは準備です! 何事も下準備が大事ですからね」


「そ、そうですね」


「あと私のことはリィナと呼んでくださって構いません。これからパーティを組むのですから呼びやすい方がいいですからね。」


 パーティ?


 依頼主と請負人みたいな立ち位置ではないのだろうか。


 これもここの常識なのかな。


「あぁ、お気遣いありがとうございます。俺は適当にソラと呼んでください」


「はい! わかりましたソラさん。後、そんなにかしこまらなくてもいいですよ?」


「いや、そういうわけには……」


「無理のない範囲で大丈夫です。命を預け合うのです。言いたいことは少なくとも言えるようにしときたいんです」


「あぁ、わかりました……それじゃ、よろしくね。リィナ」


「よろしくお願いしますね!」


 砕けた感じで言って見たもののとうのリィナさんはちゃんと丁寧におしゃべりくださるのはいったいなんなのだろうか。


 なんだか年端もいかないようなあどけなさがあるのにちゃんと考えてるのは偉いよな。


 それから街道をそのまままっすぐに歩いて古いお店が立ち並ぶ一角に辿り着く。


 どうやら目的の場所についたらしくジルバード商店という名前の店の前に立ち止まった。


 こんな朝早くからやっているはずもなくクローズドの文字がドアにかけられている。


 そして準備中なのにもかかわらずアメリアは戸を押してしまった。


 チリンチリンとドア鈴が鳴る。


 すると奥よりのっそりと髭をわっさわっさと触りながら老齢の背の低い老人が姿を見せた。


「誰だい? こちとら復興の品の手配で忙しいってのに、まだお店は開いて────」


 そう言いかけた途端にアメリアを見て表情を変えるのだった。


「これはこれはいらっしゃいませリィナ様」


 相手が貴族だからなのか態度を豹変させている。


 貴族と平民といった関係性だと思うのだけれど、にもかかわらずリィナは頭を下げるのだった。


 というか今このおっさんリィナ様って言ったな。


 近しい人だったりするのだろうか。


「時間外に押しかけてしまい申し訳ございません」


 そりゃ時間外に押しかければ失礼だけれども。


 ただ思ったのは貴族ってこんなものなのだろうか。


 俺は貴族のことをもっと横暴な何かを想像していた。


「いえいえ、とんでもございません。アメリア家には代々お世話になっております。少しでもお役に立てるのならこんなにうれしいことはございませんですわい」


「ありがとうございます。よかった。タルじいちゃんはお元気そうで何よりです!」


「あれごときでくたばる玉ではありませんぞ?」


「本当によかったです……あの日、みんな……」


「リィナ様……辛い思いをされたのですね」


「ごめんなさい。ちょっと涙が……」


 なんだろうな。


 俺は自分のことばかりだった。


 自分だけなんで、こんな異世界に召喚されて辛い思いをしなくちゃならないんだろって思ってた。


 みんな辛いんだ。


 俺はそう感じた時とても恥ずかしくなった。


「いえ、謝ることではございません。して本日はどのようなご用件で?」


「は、はい。早急にルロダンに向かいたいので早速で悪いのですが護衛をお願いをしたこの人の旅支度を整えたくてきました」


「旅支度をですかのう……」


 タルじいはのっそりのっそりと俺に近づいてきた。


「見慣れないな。あんたここらの人じゃないな?」


 疑いの眼差しが突き刺さる。


 わかる。


 わかりますとも。


 心配している令嬢に見ず知らずの護衛が一人だ。 


 素性が気にならないはずがない。


 少しベタではあるけれど言い逃れよう。


「はい、遠い東の国から来ました」


「東の国? 名前は?」


「ニホンです」


「ニホン? そんな国、聞いたことないわい」


「そ、それよりも旅支度でしょう? 何を用意したらいいんですか?」


「あんた。大丈夫かの?」


「大丈夫……?」


「遠い東のニホンとやらからきておるのに旅に必要な物もわからないのかの?」


「え、ええっと……」


 俺の様子をみかねてかタルじいは溜息をついてリィナと目を合わせた。


「リィナ様の目にくるいはないのじゃろうが……まあいいわい。ただしあんた!」


「はい!」


「リィナ様に手を出したらどうなるかわかっちょれよ?」


「き、肝に銘じておきます」


「うむ」


 そう言ってから店の中を駆けずり回り商品を次々とピックアップしてくれている。


「すみません。タルじいは心配性で……」


「いや、心配なのは当然だよ」


「え?」


 本来、こんな状況でなければ俺のような人間が貴族の護衛なんてすることはないだろう。


 それにリィナはかなり美人だ。


 なおのこと心配にもなる。


 それから一通りの装備を机の上に並べるタルじい。


「ほれ、確認しておくれ」


 何をぼさっとしているんだと言わんばかりにタルじいから背中を押された。


 リュックにナイフ、ランプに防寒具や調理器具まで……。


 数が多いけど大丈夫だろうか。


 昨日の時点で俺の懐事情を察しているだろうからリィナが払うことになるのだが。


 なんだか罪悪感があって胸が痛む。


 しかし、払ってもらわないことには何も買えない。


 なんと情けないことか……。


「まいどありがとうございますわい。無事帰ってくることを祈っておりますぞ!」


「はい! タルじいも元気でね」


 結局全てお支払いいただいた。


 俺はありがたい重みを背負う。


「あのリィナさん……いやリィナ様」


「はい?」


「こんなに良かったので?」


「こんなに?」


「いやお金です」


「ああ! 気にしないでください。この依頼にかかる経費ですからね」


「だとしたら必要最小限のものだけでいいと思うんだけれど」


「んー。ソラさんは追いはぎにあってあのような姿でいらしたのですよね?」


「え? そ、そうだったぁ……です」


 俺はあの日、刀一本。葉っぱ一枚しか持っていなかった。


 そこでばったりリィナと会って球をドつかれ牢に入れられたのだ。


 その時の言い訳で追いはぎに合いましたと言ってしまっている。


 俺の反応に首を傾げるリィナ。


「ということはいろいろと必要じゃありませんか。ここでお会いしたのもルクサーラ様の光のお導きあってのことです。困ったときは助け合いましょ」


「リィナ様……本当にいい人だ」


「えへへ。様はいいですよ」


 いい娘や。


 澄んだ青い瞳は心まで青く澄んでいる。


 自分の事しか考えられてなかった俺は本当に恥ずかしい。


 護衛の依頼。


 リィナは絶対に守り抜かなくてはならないと俺の心に火が付いた。


「なのでお金については気にしないでください。とは言っても私もあまり持ち合わせてないので贅沢はできませんが……」


「え? なら猶更」


「はい! 大丈夫です。この話はもうおしまいです。今度は馬と馬車を借りに行きますからね!」


 この依頼でまさかのリュックなんか買う必要性がなかったことに驚かされる。


 なおの事、リィナのやさしさを感じる一件だった。

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