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葉っぱの勇者と聖女の果実探し -葉っぱ一枚から始まった異世界生活。その先にあるのは愛か、友情か-  作者: 地雷源のチワワ
第一章 異世界召喚

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第3話 初戦闘

 大きく重厚な扉が突如として蹴破られた。


 その先に見えたのは大きな影。


 吹き抜けていく風が鳥肌を誘うのには十分だった。


 勢いよく四散し飛んでいった扉の破片。


 それらが凶器となり次々と人々に当たり悲惨なこととなる。


 一瞬だった。


 足がすくんで手が震える。


 何が起きたのか理解できない。


 理解する前に悲惨な光景が先に身体を凍らせた。


 広間は混乱の嵐に包まれる。


「に、逃げなきゃ」


 鼓動が加速する音が危険を知らせるドラムのように鳴り響いてる。


 にも関わらず。


 足が動かない。


 そりゃ……そうか。


 さっきまで酒飲んでゲームしようとしてただけのただの社畜に何ができる。


 110番? 


 こんな場所に警察が来るだろうか?


 119番? 


 こんな場所に救急車が来てくれるのか?


 そもそも携帯もない。


 あるのは葉っぱ一枚と刀が一本だけ……


 すると、この宗教集団のリーダーらしき男が俺に駆け寄ってきた。


「勇者様!!」


「ゆ、勇者?!……俺が?!」


「はい! どうか……これは我々の命運をかけたお願いにございます」


「ちょ、ちょっとまて! 何か勘違いしているようだけど俺は」


「どうか!! お聞きください」


「き、聞くって……え?」


 俺は勇者ではないという訴えも遮られ男は必死になって続けた。


「ここ王都アーグレンは現在、魔王が支配するメールヴァレイ帝国の軍勢に襲われています」


「は、魔王?」


「どうか……どうか!!!」


 すると大きなドアを蹴破った化け物が男の背後より地面を揺らしながら一歩……また一歩と近づいてくる。


 だめだ。


 足が震えて動かない。


 ミノタウロスってやつだろうか?


 両手に大きな大斧を持ち、頑丈そうな鎧を身に纏っている。


 幾度となくゲーム内で戦ってきたような見慣れた姿だ。


 けれど画面越しじゃなく実物のそれが目の前に迫っていた。


 夢でもなく現実として。


「どうか!! このアーグレンをお救いください!! そして!!」


 そんなことを話している場合じゃない。


「は、はやく逃げ────」


 そう言い終わる前だった。


 必死に俺は目の前の男に危険を知らせようとした。


 大斧を振り上げたミノタウロス。


 俺は必死に後ろへと飛ぶ。


 その刹那に男の悲鳴。


 二転三転と転がり込む。


 俺は立ちあがろうと男のいた方を見ると息を呑む光景が広がっていた。


 あろうことか目の前にいた男は真っ二つにされてしまっていた。


 真っ赤に染まる床。


 声にならない声が喉の奥底から漏れる。


 一瞬だ。


 たったこの一瞬で命が亡くなった。


 それが当たり前のように。


 この人も一緒に助けることができたかもしれなかった。


 俺が動けていれば助かっていたかもしれない事実が胸を締め付ける。


「血が……血が────」


 すると死んだと思われていた男は俺へと手を伸ばす。


「た……たのむ」


「あ、あんたまだ」


「国を……家族を……救って────」。


 精一杯の懇願。


 それも虚しく、パタリと落ちた。


 反対の手には何かを一生懸命に握っているのが見える。


 それは精巧につくられたペンダントだった。


 中には女と、子供……その男の絵らしきものが写っていた。


 家族の写真……だろうか?。


 胸が苦しい。


 何ができたという訳でもない。


 こんな目の前でボロボロと人が死んでいく。


 何なんだこれは────


 ダメだ。


 あきらめろ。


 切り替えろ。


 今は生きることに専念しろ。


 俺は立ちあがる。


「勇者ってなんなんだよ。俺はただの社畜だぞ」


 呟いた恨み言は大牛の雄叫びにかきけされる。


 瓦礫の崩れる音。


 何かが焼ける音。


 自身の姿を今一度見る。


 あいつは言った。


 俺が勇者だって……


 葉っぱ一枚の勇者なんか聞いたことない。


 よりにもよって……


 なんであのゲームの縛り装備で召喚されてるんだよ。


 手も……そして足も震えが止まらない。


 腰もひける。


 幸いにも腰に差さってるのは……


 いや、ゲーム内のアイテムそのままなんであれば使えないただの鈍らの刀だ。


 そんな悲惨な状況にも容赦なく。


 大牛は、その巨体で地を揺らしながら近づいてきた。


 血に飢えた獣の目。


『次はお前だ』


 そう言わんばかりに殺意をふりまいている。


 大斧が振り上がる。


 咄嗟に柄へと手を伸ばした、そんな時だった。


「も、もう────」


 だめだと思った。


 この瞬間、何故かさっきまでパニックになっていた心が静かになった。


 振り下ろされる大斧。


 それをじっと目で追った。


 不思議なほどに。


 不気味なほどに。


 そのゆっくりな大斧は、まるで避けてくださいと言っているようなものだった。


 体が動く。


 一歩、後へと。


 それで十分だと、何故かわかる。


 紙一重に通り過ぎる大斧を見送った。


 辛うじて避けることができた。


「はは……ははは……」


 何故か笑いが出てきた。


 外れたと気づいた大牛はくるりと大斧を持ち変えて折り返し横なぎの追撃。


 屈んだ。


 ただそれだけだ。


 頭上を通り過ぎる赤黒く染まった汚い刃先が煌めく。


 よくわからない。


 どうして避けれるのか。


 どうして体が動くのか。


 わからないけど、あの天性とかいう訳のわからない物が関係しているのかもしれない。


 ただ……


 この感覚は天性だのスキルだのと言うより……


 スリルを味わうために日々ゲームでアホみたいに鍛えたものに近かった。


 腰に括り付けられた刀に手をかけ腰を落とし抜く。


 どうしてだろう。


 手に馴染んでる。


 そして、俺は刀を強く握りしめた。


 覚悟がどうこうとか今は関係ない。


 生き残るため。


 このふざけた装備でもやらなきゃ死ぬ。


 思いの外軽く感じるこの刀に全てを賭ける。


「やるんだ。やってやるんだ」


 足に強く力を入れる。


 迫る巨体の圧。


 しかし圧でしかない。


 細部をよく見ろ。


 大斧の位置はどこだ。


 どういう姿勢で奴は攻撃をする?


 右奥に振りかぶられた大斧。


 大きな薙ぎが来る。


 それを線でとらえる。


 今!!


 地を軽く蹴るとそれだけで大きくふわりと飛ぶ感覚に襲われた。


「な?!」


 宙をかえり大牛を見送り後方へと転げる。


 見事避けることに成功したもののとんでもない跳躍力に恐怖を覚えた。


「本当に……俺の身体……なのか?」


 今一度、刀を強く握り立ち上がる。


 神なんか信じちゃいないけど……まだ、見放されちゃいなかったようだ。


 けど、この葉っぱ一枚の装備じゃ当たれば即死。


 かすってもまず生きては帰れないだろう。


 でも……防具なんてあった所であいつの攻撃を喰らえばだいたいは死ぬはずだ。


 元々、装備にハンデなんてない。


 あとは……


 振りかぶられた大斧が襲い来る。


 俺の皮一枚、先を通り過ぎた。


 死にたくない。


 画面越しじゃないリアルが鼻先を通り過ぎる。


 怖い。


 でもやるしかない。


 一か八か……精一杯の力を振り絞って────


 こいつを倒すしか生き残る術がない。


 大牛の咆哮が心臓を揺らす。


 再び振りかぶられる大斧が空を盛大に切り裂く音。


 真上からの振り下ろし。


 単純だ。


 裸足で瓦礫を蹴る。


 横へと逸れて見事大斧の直撃を避けて着地。


 体がすごい軽い。


 これは大きな利点であると同時に欠点でもあった。


 勢いに感覚が付いていかない。


 そして俺は滑り着地に失敗した。


 けれど不運は立て続けに来る。


 地面を抉り火花を散らしながら大牛は回転しもう一度。


 その勢いのままに大斧を振りかぶってきたのだ。


「まず────」


 そしてその勢いは無慈悲にも俺へとぶつかった。


 ただじゃ終わらない。


 左手の功を刀の峰へと当て受ける。


 大斧の乗った勢いを左へと逸らし避けきった。


 壊れる程に脈打つ心臓。


 荒くなる呼吸。


 これだけの……これだけの速さなら勝てる。


 それから俺は声にならない雄叫びをあげた気がする。


 大斧に薙ぎ払われるか薙ぎ払われないかのギリギリを攻めた。


 身体が強張るの一生懸命に抑える。


 そして……一切合切の恐怖を全て無視してバットを持つ要領で足めがけ刀を振り下ろした。


 なにかを潰したような鈍い音がした。


 しかし斬るには至らずただ殴りつける形になってしまった。


「だめだ斬れない!」


 けれど何故か効果は覿面《てきめん》だった。


 大牛は悲鳴をあげて大きく転がり込んだのだ。


「な?! あれが……効いたのか?」


 加えて牛は立ち上がろうにも立ち上がれないでいる。


 これはチャンスだ。


 もう今しかない。


 大牛はなんとか大斧を杖に体勢を立て直そうとしたところで自身を鼓舞する様な咆哮が響く。


 俺は無様にも叫んだだろう。


 出ない勇気を一滴たりとも逃さないように。


 前へと踏み出したくない足を必死に前へと押し込んで地面を蹴った。


 全てがゆっくりに見える。


 無造作に振り下ろされる大斧。


 一手、一手を丁寧に避けて間合いを詰める。


 この時間は一瞬だったかもしれない。


 一歩、姿勢を間違えてしまえば首が飛んでいたかもしれないのに俺は瞬く間に奴の懐に飛び込んだ。


 刀をめいっぱいの力で握りしめる。


 一撃。


 悲鳴が響く。


 二撃。


 再び響く。


 三撃と次々と叩き込む。


 重いだろう大牛の体は次第に押しのけられひしゃげ始める。


 これほど俺に力があったのかなんて疑問を置き去りに……


 俺は何度も……何度も、何度も何度も何度も叩いた。


 必死になって叩き込んだ。


 死にたくない一心で叩き続けた。


 そして気が付くともう牛は動かなくなっていた。


 震える俺の両手は牛の血で真っ赤に染まっている。


 べっとりとした血の匂いが気持ち悪い。


 でも……


「勝った……んだ」


 崩れるようにその場に腰を下ろした。 


 すると唐突に女の声がした。


『あなたが……新しい人?』


 さっと立ち上がり刀を構えなおしてから周囲を見渡す。


「だ、誰だ?!」


 するとまた声。


『狼狽えるでない。我らは常に共にある』


 次は男の声だった。


 刀をゆっくりと下ろして「ど、どういうことだ? どこにいる?!」


『どこだろうね?』


『思いの外近いよ?』


「近い? もう訳が分かんねえよ!! ここはどこでお前たちはなんなんだよ! 俺はいったい……」


 姿も見えない相手に俺は今までの感情を出すように大声で言ってしまった。


 けれど謎の声は冷静に続ける。


『いずれわかる。我々はあまり関わることもできん。だが、これからは君の紡ぐ軌跡を見せてくれることを楽しみにしている』


「軌跡? なんの話だ?!」


 その時、唐突に後ろから拍手が響いた。

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