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第3話 戦闘

 蹴破られた重厚な扉が四散する。


 飛んだ破片が次々と人々に当たり無惨なこととなる。


 大混乱の最中、俺は立ち竦んでしまった。


「!?」


 声も出ない。


 足すらまともに動かない。


 するとこの集団のリーダーらしき男が俺に駆け寄ってきた。


「勇者様。お聞きください」


 話してる暇なんてないだろ。早く逃げなきゃ死ぬだろ。


 そう言いたい。


 けれど男は必死になって続ける。


「ここ王都アーグレンは魔王が支配するメールヴァレイ帝国に襲われています。どうか……」


 とても重要そうな話を遮る様に大きな二足歩行の牛が地面を揺らしながら近づいてくる。


 ミノタウロスってやつか?


 両手に大きな大斧。


 頑丈そうな鎧。


 この世の絶望を体現でもしたかのようなそんな姿をしている。


「どうか、このアーグレンをお救いください!! そして!!」


 いや無理だろ。


「う、うしろ……おい! 後ろ!!!」


 必死に俺は危険を知らせた。


 大斧を振り上げるミノタウロス。


 忠告、虚しく目の前にいた男は真っ二つにされてしまった。


 噴き出る赤い液体。


「血……だ」


「た……たのむ、どうか……国を……」


 斬られた男はまだ完全には死んでいない。


 そして次第に力がなくなっていく手で何かを握っているのが見えた。


 ここからでもそれがよく見える。


 精巧につくられたペンダント。


 そして中には女と子供とその男の写真のようなものがあった。


 きっと家族の写真だろうか。


 俺は胸が締め付けられた。


 あきらめろ。


 切り替えろ。


 でも、そう言ったって切り替えられるわけがない。


 勇者ってなんだよ。


 葉っぱ一枚の勇者なんか聞いたことねえよ。


 よりにもよってなんであのゲームの縛り装備で召喚されてるんだよ。


 絶望している俺と対照的に勝ち誇る様に大斧を担ぎ上げる大牛。


 鼻息を荒くして大牛は雄叫びをあげた。


 くそ。


 そんなことを考えてる場合じゃない。 


 これは現実だ。


 現実なんだ。


 でもこんな怪物を相手に何ができるんだよ。


 俺はついさっきまで酒飲みながらゲームしてただけの一般人だぞ。


 いきなり勇者だの言われて握ったことのない刀が腰にあっても戦えるわけないだろう。


 巨体は地を揺らす。


 そして俺を一瞥し大斧を振り上げた。


 来る。


 だめだ来る。


 どうすればいい?


 こんなのどうしたら。


 無慈悲にも振り下ろされた大斧。


 瞬間、それが当たる前に体が動いた。


 不思議なことに辛うじて避けることができたのだ。


「はは。ははは……」

 

 妙な薄笑いが出る。


 怖い怖すぎる。 


 まさかゲームで鍛えた反射神経が活きるとは思わなかった。


 俺は腰にある刀と股間の葉っぱを見る。


 このふざけた装備。


 わかったよ。やってやるよ。


 でもこんなリアリティは求めちゃいなかったけどさ。


 俺はゆっくりと刀を引き抜いた。


 刃がきらりと光る。


 本物だ。


 どうしたらいい。


 こんな時こそ基本を思い出せ。


 物事には始まりがあって終わりがある。


 それは敵の動きだって一緒だ。


 この葉っぱ一枚の装備じゃ当たれば即死。


 防具なんてあった所であいつの攻撃喰らえばだいたい死ぬだろ。


 けれど当たらなければ無敵。


 だから最弱の装備でもプレイヤースキルという未知数で最強の装備をも凌駕する力を発揮させることができるんじゃないか。


 でもこれは根拠もない頭の悪い理屈だ。


 最弱は最弱に変わりない。


 けど死にたくない。


 画面越しじゃないリアルが迫る。


 俺は、一か八か精一杯の力を振り絞ってこの牛を倒すしか生き残る術がない。


 大牛の咆哮。


 再び振りかぶられる大斧が空を盛大に切り裂く。


 それを見て軌道を予測する。


 全てを読むんだ。


 大斧が当たる直前に横へと飛ぶ。


「お?! おぉおおおお?!」


 勢いをつけすぎたのか俺は大跳躍してしまっていた。


 まるで足に羽が生えたような感覚だ。


 待てよ。


 今まで気づいてなかったけど前より体が軽い。


 着地に失敗するも即座に体勢を戻す。


 試しに軽くその場で飛び跳ねてみるともはや体操選手なのではないかってくらい跳躍してしまった。


「俺の体じゃないみたいだ」


 気持ち悪い。


 そんなことを考えてる暇すらもらえず避けた俺をめがけて牛はとっしんをしかけてきた。


 これだけの速さならできる。


 牛にぶつかるかぶつからないかのギリギリを攻める。


 心臓が縮むような感覚。


 一切合切の恐怖をガン無視してバットを持つ要領で牛の足めがけ一刀。


 しかし斬るには至らずただ殴りつけるだけとなってしまった。


「この鈍ら刀め!」


 これは至極当たり前の結果だと思う。


 けれどなぜか効果は覿面てきめんだった。


 牛は悲鳴をあげて大きく転がり込んだ。


「な?! あれが効いた……のか?」


 そして牛は立ち上がろうにも立ち上がれないでいる。


 これはチャンスなのではないかと右往左往していると大牛はなんとか足を引きずりながらも体勢を立て直す。


 よくわからないけど刀をぶつけたところが折れてるように見えた。


 これは、いけるかもしれない。


 俺は自身を鼓舞する様に叫んだ。


 それに呼応する様に大牛の咆哮が響く。


 前へと踏み出したくない足を必死に前へと運ばせる。


 全てがゆっくりに見える。


 迫る大斧。


 姿勢を低くして大斧を潜り抜けて滑り込む。


 一歩、姿勢を間違えてしまえば首が飛んでいただろう。


 こうして俺は瞬く間に奴の懐に飛び込んでいた。


 刀を握る手にめいいっぱい力を籠める。


 一撃。


 二撃。


 三撃と次々と俺は叩き込んだ。


 重いはずの大牛の体は持ち上がりひしゃげる。


 その度に牛の悲鳴が空気を揺らした。


 俺は何度も叩きこんだ。


 必死になって続けた。


 それからどのくらいの時間が経ったのかわからない頃。


 気が付くともう牛は動かなかった。


 震える俺の両手は牛の血で真っ赤に染まっている。


「勝った……んだ」


 ほっと一息つき地面にへたりこむ。


 それから唐突に頭の中に女の声が響いたのだった。


『あなたが新しい人?』


 さっと立ち上がり刀を構えなおす。


 けれど周囲を見渡しても誰もいない。


『狼狽えるでない。我らは常に共にある』


 次は男の声だ。


「ど、どういうことだ? どこから話している!」


『どこだろうね? 思いの外近いよ?』


「近い? もう訳が分かんねえよ。ここはどこでお前たちはなんなんだよ」


 姿も見えない相手に俺は大声で言った。


『いずれわかる。これからは君の紡ぐ軌跡を見せてくれ』


「キセキ? なんの話────」


 その時だった。


 唐突に拍手が聞こえた。


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