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第3話 刀が一本、葉っぱが一枚

「なんかやばそう」


 無数の足音がぶち破られた扉を潜り抜けてくる。


 現れたのは、この怪物程ではないにしても鎧を身にまとったりした骸骨、槍を持つ人型の狼男、空を飛ぶ人型のコウモリ。


 人型のコウモリはまずいことに弓矢を持っていた。


 無数に出てくるこいつらの特徴をとらえるだけでも精いっぱいなのだが続々と入ってくる。


 なんか知性を感じるし、あれらを魔物と呼んでいいのかわからないが大広間へと入ってきた魔物達とにらみ合うのだった。


 戦いの初手はコウモリ人間の放つ矢だった。


 それと同時に全員が俺へとなだれ込む。


 とっさに矢を刀で弾き飛ばし逃げる。


 我ながら異常な反射神経をしている。


 しかしこれだけの数を相手に広間で戦うには分が悪すぎる。


 幸いまだ囲まれていないため一旦逃げることにした。


 幸運なことに裏手に扉があった。


 出ると長く続く廊下だった。


 外も見れるのだが結構高い場所にいることが分かった。


 赤く沈んだ夕日を背景にアーチ状で精工に作られた石の柱と柱の間から煙の上がる町々が見える。


 崩れた建物や泣き叫ぶ人々と転がっている死体。


 遠目ではあるもののそれらが目に入ってくるのだが今は他人を気にかけている場合じゃない。


 全力で駆けた。


 しばらくは、そんな衝撃的な光景を忘れるように走る。


 しかし、ふと後ろを見ると先ほどの大群は結構後ろにいた。


 かなり敵の足が遅いのだ。

 

 これならあの戦法がとれるのではないだろうか。


 少し速度を緩めると狼男系の敵が真っ先に追い付いてくる。


 追い付いてくるとサーベルのような形状をした刃が振り下ろされるのだった。


 けれどその攻撃もなんだか遅い。 


 空振るサーベルを横目に胴体へと一撃見舞うと切れはしないが勢いよく狼男はふっ飛んでいった。


 そして次に追い付いてくる敵、次の敵と一匹ずつ相手にしていく。


 葉っぱ一枚の俺と重武装の敵とでは速度に違いが出るのは当然というものなのだろう。


 一対一で戦っている最中も矢は飛んでくる。


 けれど矢が放たれた瞬間の風を切る音がわかりやすく対処も容易だった。


 しかし、ここで不意を突かれてしまう。


 走りながら斬っては逃げ、ぶっ叩いては逃げを繰り返していると突然、横から体長80㎝かそこらのビーバーのようなネズミの魔物が飛び出してきたのだ。


 腕からなにやら伸びて巻き付くようなロープを射出し足に絡めてくる。


「しまった!」


 二転三転と転んでしまう。


 そのロープはネズミビーバーの腕のそれとつながっており結構な力で引っ張られる。


 だが引っ張られるということはこっちも引っ張れるということだ。


 一気に力強く引っ張るとあのビーバーは宙に飛び、こちらへと来たところを兜割で一撃絶命。


 その間にコウモリ人間に囲まれ狼男とガイコツ達がそれに続いてしまう。


 魔物達は一定の距離をおいて近づいてこようとはしなかった。


 だがコウモリ人間は弓を構え一斉に撃とうとしている。


「これ使えそうだな」


 先ほどのネズミビーバーがロープを射出していた武器を手にしてみる。


 形状は歪だが腕を振るとロープを射出するような仕組みらしい。


 それを腕にはめた。


 少しきついが感覚的に狙いを定め腕を振る。


 するとピンポイントでコウモリ人間の羽にロープが絡まり引き寄せることができた。


「これ便利だ」


 それからコウモリ人間を地面へとたたきつけ飛んでいる奴らにコウモリ人間をぶつけまくるのだった。


 初めてにしてはとてもうまくいったと思う。


 その先頭を皮切りに背後から切りかかってくる敵を打ちのめす。


 次々と振り下ろされる剣、槍、斧、蹴り、拳、飛んでくる矢。


 しかし、どれも俺を倒すに至らない。


 1対多数の戦いは嫌というほどやったがゲームでの話だ。


 多少攻撃をもらって痛みが来るのは覚悟していたが敵の練度が低いせいか軽くいなすこともできてしまいどんどん一撃を加えていく。


 そしてロープで引き寄せたボロボロに擦り切れてしまったコウモリ人間を振り回し骸骨に当てとびかかる狼男を横薙ぎで弾く。


 不思議と俺の体力は持ってしまった。


 妙に頭は冷静だが体は常に緊張している。


 心臓の鼓動も耳元で異常なリズムを叩いている。


 そんな戦いを続け赤い夕陽は沈み月が真上に上ったころ。


 しばらく取り囲んでくる魔物をしばきまわしているとあたりは静まり返った。


 ロープでつかんだコウモリはもはや肉団子になってしまっている。


 あまり触りたくない。


 そこに両手剣の長さはあろう武器を両手に一本ずつ持つ2mか3mはあるだろう狼男が現れるのだった。


 今までの奴とはなんだか違いそうだ。


 幾度か型のある攻撃を繰り出してくる。


 それらを避け渾身の一撃を当てるかのように地面へと剣を叩きつけてしまう狼男。


 次に大振りすぎる剣をすれすれで見送り両腕をへし折った。


 大きな狼男は叫ぶ。


 しかし、そのひるんでいる隙に頭を叩き潰したところで頭上より笑い声が聞こえてくるのだった。


「ふふふ……はっはっはっはっはっは!!!!」


 さすがに敵を叩き潰しては投げ、叩き潰しては投げを繰り返し疲労がたまっていた頃だった。


 そのうえでなにやらとんでもなさそうな奴が来たのだった。


「この多勢によくやるではないか……褒めて遣わすぞ?」


 夜空の月に栄えるようにコウモリのような4枚の翼をひらひらとなびかせ宙に浮く謎の魔物。


「いや、ヴァンパイア……か?」


 金色の髪は長く肌は純白のように白い。


 そして西洋の貴族がよく着るような服装をしている。


 ひらひらとした赤いシャツに黒いボトム、羽織っているコートをなびかせている。


 人のことは言えないが左腕から肩にかけての黒い金属のような鎧を身に着けているだけの軽装だ。


 先ほどまでの奴らと違いこんな戦場には似つかわしくない恰好をしている。


 それに水晶のような謎の球体が2個、周囲を飛び回り腰には細い剣をぶら下げていた。


「ヴァンパイア……ふむ。これは失礼した。我が名は栄光あるメールヴァレイ帝国皇帝アヴァラティエス直轄、四大従魔が一人。ド・メル・トルントールだ」


 なんだか長くなりそうであったためロープを飛ばしてみる。


「おっと?! 貴様、私が自己紹介をしている最中にトルぺを打ちおって! これだから人間という種族は……」


 そう俺は飛んでいる奴を引きずり降ろそうと肉塊になったコウモリを取り除いてロープを飛ばした。


「これトルぺっていうのか?」


「わが軍の下級偵察隊が使う物だ。そう珍しいものではない」


「なかなか使えるぞ?」


「さて……話は変わるがムルをやったのは貴様か?」


「ムル……? ここまで大分なぶり殺してきたからわからないけど、あの大きなツノのある奴か?」


「ほほう……そうか。逝ったか……よくもやってくれたな! やつなら栄光ある皇帝陛下の従魔にもなれただろうに」


「従魔がなんなのかはわからないがペットにしては随分しつけがなっていなかったようだけどな」


「だまれ! おまえは何者だ?」


「んー……人はだれしも自分が何者であるかを探してるもんだ」


「なんだこいつ……しかし、ここの兵力はあらかたそいだはずなのだがな。まさか、まだ貴様のようなやつがいるとはな」


「まあ俺が誰かって俺も聞きたいところではあるんだ」


「そうか……ならばお前を城へと持ち帰りじっくりと嫌になるまで調べてやろう!」


「痛いのはごめんだな」


 火球がトルントールの頭上に現れる。


「まじか魔法か?!」


 その言葉を聞いて鼻で笑うトルントール。


「っふ。魔法を見るのは初めてか? とんだ田舎者だ。イグニス・オービス・レクタ・インセディット」


 轟音と共にとてつもない大きさの火の球がこちらへと迫る。


 奴との距離はそこそこ離れているように思えるが巨大さに似合わず速い。


 地面を思いっきり蹴り一歩、二歩と素早く進む。


 周囲を焦がす臭いが鼻をつき背後でとんでもない爆発音が響き渡った。


 さて、どうした物かと考えるが今なら、これだけ体が軽く感じるのだ。


 1、2歩であれだけの距離を移動できるのであれば相手が飛んでいても近づくことができるのではないだろうか。


 最初の火球が飛んだところは跡形もなくなっていた。


 魔物の死骸は骨も残らず消えている。


 奴はまた詠唱をして次の火球を飛ばしてくるのだった。


 そして足に力を入れ火球を避けてから地面を蹴り飛ばすように高く飛ぶことができた。


 正直この跳躍は自分でも怖い。


 そんなことを考えているうちに奴が目の前にいるのが見えた。


 上段で構えた俺の刀が奴を捉える。


「な?!」


 咄嗟に奴の黒い剣で防がれるも勢いよく地面にたたきつけることに成功するのだった。


「っく……まさか。地面に落とされる日が来るとは思いもよりませんでしたよ」


「俺もあそこまで飛べるとは思わなかったよ」


 めちゃくちゃ怖かった。


 しかし次の瞬間。


 目にも止まらない速度で奴の黒い剣が目の前に迫る。


 先ほどまで戦ってきた魔物達の鈍い速度ではなく命をもぎ取る速さであった。


 刀が剣を弾く。


 首へ、腹へ、足へと迫る黒剣を丁寧にはじき返す。


 対して俺も奴の首元、脇腹、腕、足へと追撃を加える。


 見えないような剣線。


 しかし見えてしまっている。


 何度か斬りあってから奴は距離をとるのだった。


「フラマ・グラディウス!」


 そう唱えると奴の剣が青白い炎に包まれるような燃え方をしたのだった。


 黒剣を不思議な燃える剣にして奴は不敵な笑みを浮かべてから再度迫りくるのだった。


 とても熱い。


 熱いがそれ以上になぜか先ほどより速さとキレを増させている。


 金属と金属がかち割れ、ひしゃげるような音が空気を揺らしていく。


 炎が推進力を生み出しているのだろうか。


 だが一手一手を丁寧に受けて威力を殺しながら流す。


「まさかこれを受けるなど────」


 どうやら驚いているようだ。


 やられてばかりではいられないため俺も間合いを詰めていく。


 その感触はゲームにはなかったものだった。


 この世界の戦闘が無限に広がる感じがする。


 置き去りにされた炎があった場所が熱い。


 何度も叩きこんでいくうちに奴はどんどん後退していた。


 右に左に上に下にと奴の速さに合わせて地面を蹴り追い付く。


 動きは平面ではなく次元を超えていた。


 そして幾度かぶつかりあった末に奴の周囲を飛び回る水晶から火の球が打ち出される。


「イグニスフィア!!」


 着弾すれすれにそれらを斬り飛ばすと一呼吸おいた後に爆発した。


 けれどそれに巻き込まれることなく移動する。


 背景が置き去りになる。


 繰り出される火球。


 振るわれる燃える黒剣。


 次第に水晶からは火球だけでなく炎が剣の形となったものまで機関銃のように次々と俺に射出されるようになる。


 だが繰り出されたそれらすべてを叩き落した。


 まだだ、まだ速くなれる。


 熱い。


 体が。


 心が。


 刀が。


 まだ先に高見があるのだとわくわくする。


 俺はいつの間にか心を躍らせていたのだ。


「なんだそれ?! くそ!! グラン・グラヴィエータ!!」


 体が重しをのせられたような魔法を喰らった。


 だが普通に走るような速度になってしまったが距離を取って抜け出す。


 次第にヒートアップしていく体。


 鼓動が鼓膜を突き抜け集中力が研ぎ澄まされていく。


 地面を蹴る。


 黒剣と刀がぶつかり態勢を崩したトルントール。


 刀を心臓部へと向ける。


「化け物がぁあ!! エクスプロシーヴァ!」


 それを唱えた途端に目の前で盛大に爆発したのだった。


 俺は、その爆風に飛ばされてしまう。


 そして黒煙が盛大に上がって周囲が見えず奴を見失ってしまった。


 加えてやつの気配が遠ざかるのを感じ声だけが聞こえるのだった。


「まさか貴様のような奴が現れるとはな……次に会った時は必ずおまえを殺す」


 そんな捨て台詞を吐いて飛んでいく音だけを響かせる。


 よくわからないが強敵だったと思う。


 四大従魔と大層な名であったけれど中ボスか魔物の隊長クラスと言ったところだろうか。


 戦いは終わり静寂が周囲を包み込む。


 まだ黒煙がゆらゆらと登っていく。


 残ったのはここの兵士と思しき遺体と敵のちぎれた死体だけだった。


 俺はというと恥部を隠す葉っぱが一枚と刀が一本だけしかない。


 どうやらとんでもない異世界に召喚されてしまったようだ。


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