第2話 異世界召喚
────時はさかのぼる事一週間前。
いつもと変わらない疲労にまみれた体。
時計の短い針が12を指している。
暗い部屋の電気をつけて酒と夕食を用意してからPCを付ける。
この時間にもなると食事が喉を通らないから軽めに済ませる。
いつもの日常だ。
そして俺は相も変わらずいつものゲームをやっていた。
そのゲームはごりっごりのアクションロールプレイングゲームだ。
やりつくしても、やりつくしても出汁が出ないところまで煮詰めて今。
恥部に葉っぱ一枚、斬れない刀と脇差の初期装備で攻略を試みていた。
魔物との一進一退の攻防。
いつ落とすかもしれない命。
わかってはいても避けることも難しい敵の攻撃。
敵の一挙手一投足がすべて死につながる緊張感がたまらない。
その極限の緊張を味わってもう何十、何百、何千、何万回と死んだかはわからない。
我ながら頭がおかしいのは理解している。
経過時間が万を超えたあたりから俺はネットでも奇人としていつしか注目されるようにはなっていた。
シリーズも全部やりつくしすべてのコンテンツを制覇する程にこのゲームが好きだった。
そんないつもと変わらないある日。
戦闘途中にも関わらず知らないクエストが表示された。
「ん? 勇者と呼ばれし12人が紡ぐ唄?」
いやなんだこれ。
というかクリックしても閉じないぞ。
「かつて我こそが主であると争った神々は災厄と混沌をもたらし世界を破滅に導いた」
その文言が表示された瞬間、俺のキャラは死んだ。
そして俺は叫んだ。
本当に「あとちょっとでクリアができるところだったのに!!!!」と。
しかしゲームのキャラが蘇ってもなお、そのクエストは説明を続ける。
「その破滅に抗いし勇者は魔となった災厄の象徴を退け平和が訪れた。しかし再び危機に陥らんとする世界を其方の手で救ってはくれないか?」
→『はい』
『いいえ』
不気味に続くクエストの説明。
途中まではバグかなにかかと思った。
けれどネットで調べてもそんなクエストは出てこない。
クエストタブも閉じないし俺は好奇心から「はい」を選んだ。
かすかにノイズが聞こえはじめてくる。
なんだか気持ち悪い。
けれど何か変わったことはない。
「な、なんだ? いたずらか何かか?」
エッチなサイトでも見たせいで得体のしれないウィルスにでも感染したのだろうか。
ノイズが消えてほっと胸をなでおろしたところでノイズがより大きくなる。
びっくりして立ち上がると同時に目の前が真っ暗になった。
朦朧とした意識の中で何かが聞こえてくる。
「生命を構築。人種読込中……読込完了。氏名、カタナシ ソラ。年齢28歳」
不気味な機械音声が響く。
「使用装備読込開始。ヒトヒラの葉、 心元無ノ鈍刀……支障あり。再度実行……エラー。再度実行……エラー、再度実行。致命的なエラーを検出。エラーをスキップしま────」
何が起きているんだ。
このヒトヒラの葉だったり心元無ノ鈍刀といえばあのゲームの装備だ。
それにエラーってなんなんだ。
状況がわからないままに不気味なノイズがまたはしる。
「エラーを修正。読込完了」
なんだか何事もなかったかのように読込を完了してる。
もう意味が分からない。
「魂の転写を実行……転写完了。続いて経験の引継ぎを実行……引継ぎ完了」
俺は死んだのか?
魂の転写って俺はいったいどうなっているんだ。
「天性を獲得」
ん? 転生? 獲得?
いやてんせいってなんなんだよ。
そろそろ俺の疑問に答えてくれてもいいんじゃないか?
「無理のある功績により『力のある凡人』を獲得。仮の命を消費した功績により『億の死を超えし者』を獲得」
何これ、スキルってこと?
そんな疑問を他所にまたエラー音が響く。
「……大量のアルコールを検出。『魔に疎まれし者』を獲得。当該天性を反映に成功」
大量のアルコールって……。
瞬間おれの胸に光の球のようなものが押し込まれた。
身構えようにも体がないような変な感覚だ。
「6番目の勇者召喚の儀を受諾……接続完了」
6番目の勇者? 接続完了ってなにがどうなってるんだ。
真っ暗な空間の中で次第になにか暖かい光に包まれ始める。
そして微かに女性の声が聞こえた。
「だ──うぶ。あな──らきっと──救える。────をおねがい」
次第に声が遠のいて真っ白の光があたり一面に広がるような感じがした。
いったい何を言っていたのか聞き取れなかった。
なにがなんだかわけもわからないのに何をお願いしようって言うんだよ。
そんな不思議な感覚から俺は目覚めた。
その出来事は今の酒でやられた脳でも鮮明に覚えている。
ひんやりとした床、焦げ付くような匂い。
歓声をあげる周囲の人々。
もう何が何やらわからなかった。
そして喜んでる人達が口にしている言葉がなんなのかが何故かわかるようになった。
この国の司祭だか神官のような恰好をした男が「成功だ! 勇者様だ!!」と言った。
「あの光はまごうことなき勇者様だ」
「ルクサーラ様は我々をお見捨てにならなかった」
勇者? えっと誰が?
それにルクサーラ様?
この異様な空間に俺は寒気を感じていた。
皆が皆、切羽詰まってるような怖い表情をしている。
どこかおかしい。
けれどその違和感が一体何なのかわからなかった。
それ以上にこの寒気の正体が予想外の所にあることに気づく。
俺は自分の体を二度見することになった。
「は?」
腰に妙にくくりついている刀と恥部を覆っている葉っぱが一枚。
ふざけているか?
なんでこんなひどい恰好なんだ。
周りの人の口ぶりからして信じられないことに異世界に召喚されたってことだろうか。
もしくは夢だ。
ひどい夢を見ているに違いない。
けれど息を吸えば吸うほど、匂いを感じれば感じるほど、周りの音を聞けば聞くほどに、そこが疑いようのない現実だと思い知らせてくる。
「葉っぱ一枚ってこれじゃまるであのゲームの────」
そう言いかけた瞬間、広間の大きな扉が吹き飛んだ。
えてくるのだった。




