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第115話 その笑顔をまもりたい

「放して……くれませんか?」


 冷たい手。


 ただ……震える声でそう言われたとしても。


「いや、放さない」


 そう答えるとリィナはどういうことなのかわからないと言わんばかりに困惑していることが伝わってきた。 


 なぜか俺がキャロルの事を好きだと勘違いしている。


 どうしてこうなってしまったのかはわからない。


 その瞬間、『朴念仁じゃのぉ』とタマさんの声が聞こえた。


『それってどういう……』


 朴念仁? 


 とりあえず自分のやってきたことを思い返す。


 キャロルとの関わりは……


 リィナへと贈り物をするべく相談をして……ついでに俺の修行にも付き合ってもらうようになった。


 キャロルのおかげで俺は青色がリィナの好みだということを知って、青い花の髪飾りを選んだ。


 ここまで……そうか。


 そうだよな。


 知らなきゃ……不安になるよな。


 この瞬間、理解した。


 事の重大さと俺とリィナの今の状況を。


 そして、こんなにも苦しそうにしているリィナを見て心が締め付けられているというのに……安堵してしまっている自分がいる。


 こんな顔をしてしまうくらいにリィナはきっと……


 まったく……俺は本当にどうしよもない。


 深呼吸をして俺は落ち着きながらリィナの手を引いた。


「こっちへ来て」


 今は目的地に向かおう。


 話はそれからにしよう。


 ただリィナの足取りは重い。


 しかし、あとほんの少し、あと少しの距離がとても重い。


 その重圧に耐えきれずに俺は話し始めてしまった。


「……それは勘違いだよ」


「勘違い?」


「ああ」


「でも……キャロルとあんなに楽しそうにしてたじゃないですか!」


 半ば怒り気味にリィナは答える。


 それにびっくりして俺は振り向いた。


 こんな表情もするんだ。


 ただ、それだけ……それだけ真剣なんだ。


「いやさ。あそこでキャロルが『無骨な戦略家の貴族の娘だから、このような物は私には似合いませんよ』なんて言うからさ。これなんて似合うんじゃない? って勧めてただけだよ」


「それが本当でも……どうしてそんな……」


「ああ、ずっと嘘をついていた。ごめん」


 リィナは何も答えない。


 後ろをそっと見ればリィナはうつむいたまま。


 かまわず俺は手を引いて歩いた。


「夕方に散歩って言って出て行ったのはキャロルさんに剣術の模擬戦に付き合ってもらっていたんだ」


「……模擬戦?」


「ああ……でもそれだけじゃないんだ」


 段々と坂が緩やかになる。


「それだけじゃないって……なんですか?」


 俺はリィナの質問に答えることなく、心臓のうるささと共にその一歩を踏みしめた。


 そしてついに坂を超えたところで、その光景を目にする。


 これが生誕祭の光。


 それはとても綺麗や美しい意外に形容できるほどの言葉を持ち合わせていない自分を呪うほどに美しく、綺麗だった。


 光の雲海が広がり街に降り立った星々が賑わい暖かく照らしているようだった。


 言うならここしかない。


 俺は、そっと懐から青い花の髪飾りを取り出した。


 俯くリィナへ。


「不安にさせちゃってごめん。俺がこっそりと内緒にやっていたのは、これを選ぶためだったんだ」


 リィナは空いている手で口を抑える。


「……これを選ぶために?」


「いやさ。こんな事を言うのは恥ずかしいんだけど……」


 ほんと、この歳になって我ながら恥ずかしい。


「生誕祭に贈り物をする習慣があるって聞いてさ……俺も何かリィナに贈りたいなぁって思ったんだ……でも何を贈っていいかわからなかった」


 何も知らなかった。


 こんなに気持ちが向いているというのに本当に情けない。


「思えばリィナが何を好きなのかなんて知らなかった。それでさ。ちょうどいいところにキャロルさんがいて相談にのってもらってたんだよ。でも結果は……」


 俺は柔らかな頬につたった涙をそっと人差し指をあてる。


「こんな顔をさせるためじゃなかった。ごめん……今更かもしれないけど受け取ってもらえるかな?」


 するとリィナは、また涙を浮かべてしまう。


 けれど、さっきとは反対にとても良い笑顔でこたえてくれた。


「はい……ありがとう……ございます」


 俺が差し出した贈り物をそっと両手で受け取ってくれた。


 そして堪えられなさそうな表情を浮かべるリィナを俺はそっと抱きしめた。


 流れるように。


 そこにはまるで何の障壁もないように自然と。


 今なら気持ちを伝えられる。


「……俺はリィナの事が好きだ」


 言い終えて息をのむ。


 心臓がうるさい。


 それはリィナも一緒だった。


「私も……私もソラさんの事が……大好きです」


 ああ。


 心がめいいっぱい満たされる。


 指輪がとても温かい。


「今も指輪は?」


「何も……感じません。でも……とても……とても、心が温かいです」


「ごめんな。この慣習がどのくらい大切なのかって俺にはわからない。でも感覚でわからなくても俺はこうすることでしか伝えられないや」


「いえ……充分です。充分すぎるほどに……私には伝わりました」


「もっと早く伝えていればよかったな」


「ごめんなさい。私……疑ってしまって」


「いや、これは俺が悪かったよ。リィナは悪くない」


 俺は光の差し込む隙間もないほどにリィナを抱きしめた。


 それからしばらく、この温かさを互いに確かめ合う。


 そして離れて互いに向き合った。


 吸い込まれそうになるような青い瞳。


 なびく白い髪はまるで絹糸のような美しい。


 俺は街の方を見て言った。


「いやしかし、すっごい綺麗だな」


 俺にはもったいないほどに素敵な綺麗さだ。


「はい。頑張った甲斐があります」


「たくさん歩いたよな」


「はい。魔力も何度、底をつきかけたかわかりません」


「かなりマナポーションを飲んだもんね?」


「もうそれだけでお腹いっぱいです」


 他愛のない会話。


 時折みせる笑顔。


 やっぱりリィナはこうでないとな。


 この笑顔を支えられるか。


 それはきっと俺の今後次第で変わるのだろう。


 そんなことを考えているとリィナは嬉しそうに手にしている青い花の髪飾りを眺めて俺に微笑んだ。


「ソラさんがくれた髪飾り……早速つけてみますね?」


「ああ、つけてみて。似合うといいんだけど」


 そっとリィナは大事そうに両手に持ってから髪飾りをちょんっと着けてくれた。


 青色の花びらが白い髪にとてもよく映える。


 議会の時のドレスもそうだったけどリィナは青色が本当に似合うんだ。


「どう……ですか?」


「とても似合っているよ」


「うれしい……ありがとうございますね! 私からもあるのですが……教会に置いといたままです」


「まあ、そのまま連れ出して来ちゃったからね。何を貰えるのか楽しみだよ」


「私も選ぶのには苦労したんですよ?」


「え、そうなの?」


「はい。実は……私もソラさんが一体どんなものが好きなのかわからなかったんです」


「あぁ、そうだったんだ。それを聞いて……なんだかホッとした。互いにそういうことを話すなんてしてこなかったもんね?」


「ほんと……そうですよね。それでですね? ニャーさんに聞いてみたら『知らないの?』って感じに言われて少し驚かれましたよ」


「ほほう……で、ニャーは知ってたの?」


「はい」


「なんて言ってた?」


「『酒だにゃ』っだそうですよ?」


 俺は鼻で笑ってしまった。


「まあ……大当たりだよ」


「ふふ、そうですね? ……思えばずっと目まぐるしい日常を送っていたようなきがします。本当にいろいろありましたよね?」


「ああ、本当にいろいろあったな。でも……これからも、もっといろんなことがあるんだろうな」


「はい。まさか葉っぱ一枚でいきなり現れた人を好きになるなんて思いもよりませんでしたし……」


「あれはだいたい俺のせいじゃないって! いやまあ、そう思うとほんと……リィナって趣味が悪いな?」


「そうですか? でも、そんなひどい姿でも……情けない姿でも、恐ろしい戦場の中で私や皆のために立ち上がって守ってくださいました。私にとってあなたはかけがえのない大切なヒーロー……勇者様です」


 その言葉が俺の心に突き刺さる。


 勇気の先にこんな……変わることのできた未来があったなんて思いもよらなかった。


 けれどそれもまあ……


「ものはいいようだな……」


「もう褒めてるのにぃ」


 ようやく思いを伝えあうことができた俺とリィナは、しばらく街に灯った祈りの光を見続ける。


 互いの距離が以前より近いのを感じて俺はふとした疑問を口にしてしまった。


「アーグレンでの愛情表現ってさ。抱きしめる以外にどういうことをするの?」


「あ、愛情表現ですか?!」


 とんでもなく慌てるリィナ。


「いや、いきなり変なことを聞いてごめん」


「い、いえ! そ、そんなことは……」


「あはは。まあ、やっぱり俺はさ。この世界だと部外者なわけだからさ。アーグレンの事もどういう文化があってどういう歴史があるのかわからない。リィナとのこういう付き合いとかもね?」


「そう……ですね。愛情表現ですか……」


「ああ、例えばさ。キス……とか?」


 するとリィナはあからさまに顔を赤く染め上げてしまった。


「き、ききキス?! んんんん……私だって……わからないです。でもそれ……なら」


 ゆっくりと目を閉じるリィナ。


 今しようというようなそんなつもりはなかったのだけれども。


 あんなに慌てふためいて顔を真っ赤にしているというのに……大胆なのか恥ずかしがり屋なのかよくわからない。


 けれど俺は、そんな差し出された柔らかな唇にそっと口づけをした。


 体温。


 息遣い。


 匂い。


 それら全てがなんと愛おしいのか。


 こんな想いを抱えるのは初めてだ。


 今は挨拶をする程度にしておこう。


 これ以上は、俺が耐えられる自信がない。


 それからまた、ゆっくりとリィナを抱きしめて互いの存在を心で確かめ合う。


「えへへ……誰かとキスをするのなんて初めてです」


 反則級の上目遣いで言われ俺の理性はどうなってしまうことかと一歩堪える。


 ただ、ここは大人の余裕を見せて……


「そう……だったの。それは光栄だな」


「ソラさん。ありがとうございますね?」


「えと、いきなりどうしたの?」


「ソラさんのやさしさを感じました」


「やさしさ?」


「はい。ソラさんは私に合わせてくれようとしていたんですよね?」


「いや、まあ……リィナの嫌がる事とかなるべくしたくないしさ」


 するとリィナは少し笑って答える。


「でもそれと同じくらいに私もソラさんに合わせたいんですよ?」


「……というと?」


「私もあなたのことを知りたいって言うことです。これ以上を伝えるのは……はずかしいです」


 途端に俺は……なんて形容していいかわからない程に心が浮足立つ。


 ただ、ただその……素直に、端的に言うのであればとても嬉しいという気持ちに近い。


「じゃあ……ゆっくりと歩み寄るとしようかな」


「はい。少しずつ歩いていきましょう」


 きらめく街を前に俺とリィナは互いの気持ちを確かめることができた。


 俺は勇者として、リィナの騎士としてずっと……ずっとこれからもこの笑顔を護り通すのだろう。


 今日、この日、この場所で、この世界へ来て初めて本当の意味で守りたいものができた瞬間だった。



第五章 生誕祭 完




 さてさて第五章もとうとう完結いたしました。


 章も終わり、初の後書きを挟みますがご容赦くださいませ!


 気が付けば100話を超えて40万字を突破する長編作品となってしまった今作。


 ここまでお読みいただきありがとうございます。かなり時間を要したことでしょう。


 第五章完結を迎えて、執筆形態を少し変えて投降しようかと思いお知らせを兼ねて後書きを残しました。


 お知らせというのも隔週投稿から完全気分投稿になります。


 ああ……失踪はしないので安心してくださいませ。


 出来上がったら毎日投稿に移行するようなスタイルになるだけです。


 多分、月に1回の投稿にはなるんじゃないかと思います。


 加えて1月に連載再開詐欺をした別作品についてもそろそろ投稿したいなと考えている次第にございます。


 失踪しようにも今作のプロットが第九章までできてしまっているので、まあ……書ききりたいです。


 多分年内には完結すると思います。


 したらいいな……


 ということで一応、次の投稿は多分来週するかなとは思いますが完全に気分投稿(月1投稿)になりますのお知らせでした。


 第六章 積もりし想いに雪はとけゆく


 をお楽しみに!


 ついでに新連載の『悪食の魔術師は美食を望む』師と弟子の学園グルメ? ファンタジー物になってしまいました。


 新連載も形になりかけてきたので3月中に10万字、単行本一巻分も投稿できたらいいな……多分だめかもしれないですが楽しく書いていきます。


 最新話までお読みいただきありがとうござます。今後とも良き創作ライフを楽しんでいきますのでよろしくお願いします!

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