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第116話 旅の目的

 朝日がさしこみ目がツンとする。


 なんて健康的な目覚めだろうか。


 静かな時間が起きるのにはまだ早いということを教えてくれる。


 ザンカとニャーの寝息が聞こえた。


 そして、この静けさのせいで昨日の出来事をつい思い返してしまう。


 リィナへ想いを伝えた。


 確かめあった。


 それはとても温かくて……それでいて幸せで。


 こんな気持ちになったのは初めてだ。


 これが本当に想うということなのだろうかと思うほどに、それはとても気持ちの溢れるものだった。


 一つ疑問に思う。


 この想い合い伝え合う行為はアーグレンではどういうことを意味するのだろうか。


 想いを伝えあった帰りにリィナからもらった贈り物の銀色のルクサーラ神の羽のシンボルが彫られたペンダントを眺める。


 これって単純に恋人として付き合うということではないと思う。


 婚約……とかそういう認識なのだろうか。


 指輪を交わし騎士になると言うのは、その前段階? の事だったりするのかな。


 ああ、よくわからない。


 でも、そんなよくわからない宗教観だけど……正直言ってルクサーラ教はとても綺麗な宗教だと思った。


 ルクサーラ神は愛の女神、そして護りの女神。


 その愛の形は男女の想う気持ちや同姓の物を問わず祝福されるらしい。


 そんな絆を尊重する主神がまつり上げられているのはなんだかとても素敵だ。


 どうしても宗教というと利権とか人の思いを利用して富を得たりだなんて負の側面を思い浮かべがちだった。


 いざこざはやっぱりあったりするようだけどほんと良い宗教観だよ。


 リィナと付き合っていくうえで、この宗教への知識は必須だろうなぁ。


 知っていかないとな。


 そういえば『このペンダントに護りの祈りを付与しています』って言ってたなぁ。


 奇跡とかその類の祈りなのだろうか。


 知らないことだらけなのは変わらない。


 それから、この胸の高鳴りも冷めないまま否応にも時間は過ぎる。


 外が次第に賑やかになってくる。


 教会で調理を担当してるだろう人達が朝食を作っている音なのだろう。


 そんな心地良い音がする。


 日が大きくさしこんだ時に鐘が鳴り、いつもの変わらないアーグレンでの一日が始まる。




 それから朝食を摂るべく教会の大食堂へと向かった俺とニャー、ザンカ。


 いつものように先にいるリィナとその友人のルチア。


 皆いつものように朝の挨拶を交わしていく。


「おはよう」


「おはようございます!」


 やはり昨日と違いリィナは晴れやかな挨拶を返してくれる。


 あのやつれようはやっぱり俺のせいだったか……


 しかし、こうしてリィナを見ていると妙な気分になる。


 こんな美人な聖女様に好かれるなんて俺は前世でとんでもない善行を積んでいたにちがいないなんて。


 それも葉っぱ一枚で現れ好感度ドマイナスの変質者であるというバッドスタートであったにも関わらずだ。


 そして、いつものように美味しい朝食を摂りながら話し合う。


「昨日の生誕祭での街の光はすごかったね」


「とても綺麗でしたよね!」


 するとルチアはニヤニヤしながらリィナを見る。


「へぇ?」


「ど、どうしたの?」


「いやね。リィナが昨日の夜にご機嫌で帰ってきたからねぇ?」


「ル、ルチア?!」


「あんなに死にそうな顔して相談してきたのにねぇ?」


 ほうほう、どうやらリィナはルチアに相談までしていたようだ。


 いやもう本当に申し訳ない程に相当落ち込んでいたんだな。


「ちょ、ちょっとそれは言わないでって!」


 ニヤニヤしながらルチアは慌てるリィナへ。


「まあまあ。それでも私はリィナが幸せそうでとてもよかったよ」


 「もう」


 リィナは縮こまってしまった。


 本当に良い友人を持っている。


 そんな和気藹々《わきあいあい》としたなかで「そ、その話はおいときましょう」と話題を切り替えるリィナ。


 先ほどまでの楽し気な感じとは対照的に少し寂しそうな表情を浮かべながらリィナ。


「明日、ここを立とうと……思うんです」


「明日……かぁ。とうとうね」とルチアも寂しそうな表情を浮かべる。


「うん。聖女にもなってやっと……やっと半人前になれた。もっと学びたいことは多いけど……時間もあまりないと思うの」


「そうだよね……」


「うん。それで……それでですね。今一度、旅の目的をソラさん、ニャーさん、ザンカさんにお話しして確認をしたいんです」


 するとニャーは首を傾げる。


「確認にゃ?」


 一方、もぐもぐもぐとザンカは相も変わらず呑気に朝食を堪能しておられる。


「……はい。みなさんにお伝えした通りこの旅は私の妹、ヒナの石化病を治すための妙薬、桃源郷の果実を探す旅です」


 するとニャーは頷きながら答える。


「ニャーそれは聞いていたにゃ?」


「そうなのか?」とザンカ。


「あれ、ザンカさんにも伝えませんでしたでしょうか?」


「……ザンニャに言ったところで覚えていないのにゃ」


「すまんな。俺は難しい話は苦手なんだ」


 これって難しい話というやつなのかな。


 単にリィナへの興味がないだけのような気がする。


「あはは……それでこの旅は、とても過酷な旅になると思うんです……それに報酬もお支払いできるかどうか……なので皆さんに今一度。それでも私の旅についてきてくださるのか。確認したくて……」


「そういうことかにゃ。それなら聞かれるまでもないのにゃ。ニャーはソラとリィニャについていくにゃ」


「ニャーさん。ありがとうございます」


「ん~。でもニャーが一緒にいることについてリィニャは少し勘違いをしているにゃ」


「……勘違いですか?」


「ニャーはニャーでちゃんと目的があって一緒にいるにゃ」


「そうなのですね。ニャーさんの目的ってなんですか?」


「それはにゃ。旅をしてキータと出来なかった冒険と旅商人としての経験をしたいのにゃ。それからにゃ。師匠から教わった剣でもっといろんな人を守りたいにゃ」


「とても……素敵な目的ですね」


「ありがとにゃ。その先でリィニャの妹のヒニャも救えたらもっといいのにゃ。だから、この旅にニャーは報酬なんてもとめてないのにゃ。たとえ桃源郷の果実が見つかって、それがとんでもなく高価な物でもニャーはリィニャに譲るのにゃ」


「ニャーさん。本当に……ありがとうございます。ニャーさんと出会えて私はとても嬉しいです」


「それはニャーもだにゃ。ソラとリィニャには借りもあるからにゃ」


「ニャーへの借り?」


「そうにゃ。それでザンニャはどうなのにゃ?」


「俺か?」


「そうにゃ」


 するとザンカはもぐもぐをやめて腕を組み始めた。


「うーん。んー、ん? んー」


 なにやらすごい考えている。


 え、俺と戦いたい以外に一緒について来た理由ってあったりするのだろうか。


「……何を話せばいいんだ?」


「にゃ?!」


 ニャーの『こいつ信じられねえ』って感じの表情がとても面白い。


「リィニャの旅に付いて行くって理由にゃ。ザンニャはソラと戦いたいけどダメだからソラを倒した相手を倒すって言ってなかったかにゃ?」


「ああ! 俺があんた達と一緒にいる理由か! そういえばそうだったな!」


「忘れてたんかい!」と俺は突っ込んだ。


「そういう理由でいたんだ……この人」とルチアは半ば驚愕の表情。


「私も、その認識でいました」とリィナ。


「いや忘れてはいなかったぞ? 理由と言えばそうだな。ソラとは殺し合いたいけどな?」


「本気でソラさんを殺そうとしてるの? この人」


「出会いがそんな感じでしたから……」


 引き気味にルチアはリィナに聞いてリィナも半ば信じられないけれどもと言った具合でこたえた。


 ただ、俺はザンカの『殺し合いたい』で終わってもいい文言の先が気になった。


「けど?」


「ああ……俺がさ。一人でここまで来た時よりさ。こんなに……なんていうんだろうなぁ。わかんないんだけどさ。そうだなぁ……なぜか楽しかったんだ」


「楽しかった?」


「ああ、今まで来る奴といえば俺の事を殺そうとしてきたり物を盗ろうとしてきたりさ。そんな奴ばっかりだったからさ。好きなだけ殺し合いができてたんだ」


「なあ、リィナ。この世界って結構荒んでる?」


「いえ、私もアーグレンでしか育ってこなかったので国外のことについては学術国家に連れてってもらった時以外は……魔物や魔王のせいで大変なことになってはいますがどうなのでしょうか」


「ふむ……」


 そうだよな。


 アーグレンみたいに栄えてる国ばかりじゃないはずだ。


 もっと惨憺たる状況の国があってもおかしくはないか。


「それでな。親父も親父で俺の事を殺すのを楽しみでいるし俺も楽しみにしている。妹のカミツナは俺と親父じゃ手も足も出ないから戦っても面白くないんだけどさ」


 なんとなくは聞いてたけど魔王を倒してしまった父親と二人がかりでも倒せない妹って……それ敵対でもしたらとんでもなくまずいんじゃないだろうか。


「だから妹を助けるって言ってたリィナって本当はすごい強いんじゃないかって今気になってる」


「……え? あのザンカさん?」


「ん? なんだ?」


「世間一般的に……妹はどの家庭も最強というわけではないですよ?」


「そうなのか?」


「はい。旅の中でそういう方々と出会ったりはしていないのですか?」


「してないな。記憶にある限りだとここでの暮らしの方がよっぽど色が濃いよ。ほとんど血と死体と魔物の死骸ばかりだったからなぁ」


「うわぁ」、「にゃぁ……」ドン引きのルチアとニャー。


「ま、付いて行く理由が大事っていうのなら俺はあんた達といると面白そうだからなのかもな。親父にもそれで会えたらいいし。殺せたらなおよしだ」


「できれば俺はザンカの父親には会いたくないな……」


「そうなのか? 強くて面白いぞ? それに殺しがいがある」


「面白いのベクトル絶対違うだろ」


「べくとる?」


「まあそれはいいよ」


「ザンカさんもついてきて下さるのはとても心強いです」


「それはそうだな。天使達の戦いのときもかなり活躍してくれてたからな」


「ああ、あの戦いはそこそこ面白かったな!」


「俺はちょっと賛同できないけど……」


 なんだか俺が最初のころに人殺しがうんぬんかんぬんと悩んで自分の中で戦いを楽しんでる狂気に苦しんでたのが馬鹿らしく感じるくらいにザンカは狂ってるな……


「それで……ソラさんは?」とリィナが聞いてくる。


「え? 俺もこの意識表明って必要なの?」


「みなさん仰ってくださいましたし、ソラさんだけ聞かないのはどうかと思いまして……」


「なるほど……でも俺はリィナがいてリィナを守れたらそれでいいよ。ヒナの病気も治したいからね。どんなことがあっても俺はリィナを守るつもりだよ」


「へぇ?」となぜかニヤニヤするルチア。


 俺は何かおかしなことを言っただろうか。


 加えてリィナは両手で顔を抑えてしまうのだった。


 あぁ、とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったのだろうか。


 かといって俺は旅の途中でいろんな酒を飲みたいかななんて言うのもなぁ。


 そんな意思表明をしあった朝食を終えて、俺達は各々で旅の支度をするのだった。

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