第111話 聞けないが故に
俺ってそんな落ち込んでるように見えただろうか。
ばったりと出会ったキャロルは心配そうに俺の顔色をうかがっている。
「はい……ちょっと考え事をしてまして」
「考え事ですか? もし、よろしければお役に立てることがあれば何なりとおっしゃってください」
「何なりと……ですか?」
「はい!」
これはすごい良い機会なんじゃないだろうか。
レラデラン騎士団の副団長という肩書の人なら、もちろん剣の腕前もかなりあるはずだ。
結局ニャーに剣を聞いてみたものの師匠の大切なお言葉以外、全部『にゃ』で説明されたからな。
それでいてキャロルはリィナの友達だ。
あわよくばリィナの事もいろいろと聞けるかもしれない。
まあでも……それはリィナに聞いたらいいことなんだけどさ。
ちょっとお言葉に甘えるとしようかな。
「それではお言葉に甘えてもよろしいですか?」
「喜んで!」
「ありがとうございます! それで相談なのですが俺に剣を教えてはくれないでしょうか?」
「え? ……剣を? ですか?」
「はい。キャロルさんの剣をです」
すっごいキョトンとしてしまっているキャロルは、そのまま申し訳なさそうに続ける。
「とても申し上げにくいのですが、その……」
「あ、いや。忙しいなら大丈夫です。無理を言ってしまいすみません」
「いえ、違います。剣を教えることについてはやぶさかではないのですが私がソラ殿に教えられるような剣を持ち合わせているとは思えません」
「え? なんでですか?」
するとキャロルは少し俺から目を逸らしながら続けるのだった。
「あなたとシルベスとの決闘を見れば明らかですよ。シルベスは団内でも五本の指に入るくらいには強いですよ?」
「そうだったのですね……」
「それでいてソラ殿は剣一本のみで攻防の全てを成しました。加えて信じられない身のこなしで相手の剣を受けるのではなくさばききる芸当を見せています」
「そんな。買い被りですよ」
「いや……ただ正直に申し上げるとまるで命を投げ捨てるかのようなソラ殿の身のこなしは褒められたものではありません。ですがその常軌を逸した身のこなしを実践で難なく発揮されているだろうことに私は驚きました」
常軌を逸したって……俺そんなに危ない動きをしていたのだろうか。
剣を教えてもらいたいっていうのもこういう我流と一般的なずれを相殺したいがためっていうのもあるのだけれども。
そうか、キャロルの目には俺とシルベスの戦いはそんなふうに映っていたのか。
そう考えている間にキャロルは続ける。
「それにソラ殿の剣と私の剣では種類が違います。なので私の剣技を真似たところでソラ殿ご自身の持ち味を殺してしまう恐れもあります」
「ああ……たしかに」
「はい。なのでお力になれず申し訳ございません」
「いや、ありがとう。すごい参考になったよ」
「ですが私達のような騎士の剣を参考にされるのであればニャー様を頼るのはいかがですか?」
やっぱりそうだよなぁ。
ニャーがレラデランでキャロルや町の人を助けたことについては聞いている。
キャロルはきっとニャーの剣を間近で見ていたのだからニャーに結局行き着くよな。
でも……
「もうニャーには頼ったんですよ。ほとんどニャって感じにしか教えてもらえなかったんですけど……」
「え? にゃ?」
「そうです。『にゃ』です」
キャロルは一瞬考えるのをやめたかのように話しを続けた。
「ふむ。それは苦労されましたね。何にお悩みになられてるかはわかりませんが私と模擬戦をするのはいかがですか?」
「え、シルベスさんとやった時みたいにですか?」
「何を想像されたかはわかりませんが、あんな大々的にはやりませんよ? それにあれは団長の悪ノリのせいです」
「悪ノリ?」
「はい……本当にソラ殿には申し訳なく思います。きっと団員にソラ殿の強さを見て学んでほしかったのだと思います」
「あぁ……それで言いふらすようなことを」
「はい。意地悪ではなく力の吸収という点に関してはかなり貪欲な人ですから」
「へぇ、力の吸収に貪欲か」
「ええ、ちょっとお調子者なところはあるのですけれどね?」
「それじゃ、キャロルさん。俺と模擬戦をしていただけませんか?」
「はい。私もソラ殿に胸を借りることができるとは思いもよりませんでした。よろしければ私の仕事は夕刻に終わります。その後に庁舎までいらしてください」
「わかりました! あと一つ聞きたいことがあるのですが……」
「ん? どうしましたか?」
「キャロルさんはリィナと友達なのですよね?」
「はい。付き合いはもう長くなりますが……どうしましたか?」
こんなことは本人に直接聞いた方がいいのはわかる。
わかるのだけれども……直接聞いていいのかわからない。
とはいっても生誕祭の当日に見当はずれのような物をプレゼントするくらいなら……。
勇気を振り絞るんだ勇者。
「その……よければリィナってその……こういう装飾とか色とか何が好きかってわかりますか?」
「……っふ」
するとキャロルは堪えていたのか少し鼻で笑った。
「あ、今笑いました?!」
「いや、申し訳ありません。ソラ殿が懸命にリィナの趣向について聞く姿がその……あの時の模擬戦での雄姿が全く……っふふふ」
「そんな笑うことですか?!」
「失礼。ですがソラ殿ならリィナに直接聞いてみてはいかがですか?」
「いや……それがその……」
「言えませんか?」
「いや、まあちょっとサプライズといいますか。リィナを驚かせたいなって思いまして……」
「リィナを驚かせる?」
「はい。つい先日のことなのですが生誕祭って贈り物をする習慣があるってことをチラッと通りがかった人が言っているのを聞いたのですよ」
「ふむ……確かに生誕祭はそういう習慣もあるがそれは……いや」
するとキャロルは小声でつぶやく。
「これは面白いことになるかもしれない」
「え?」
「いやこっちの話です。まさかお二人がそのような感じだとは……そうですね。友人の幸せのためです。私も少しお力をお貸ししましょう」
「ということは助言をいただけると?」
「はい。ですが、ソラ殿がちゃんと選んでください」
「え? あ、はい。それはもちろん」
「とは言っても……リィナはソラ殿が選んだものであればとても喜ぶと思いますよ?」
「そ、そうでしょうか……」
「そうですよ。なら……ソラ殿はリィナから何を貰ったら嬉しいですか?」
「それは、んー? なんだろうな」
そう言えば贈り物については贈る事ばかりで貰うことについて完全に忘れていた。
そうだな。
俺の場合か……正直贈り物事態はなんでもいいんだ。
俺の事より……リィナが喜んでくれるかどうかだな。
例えもらえなくてもリィナの気持ちがそこにあるならそれでいいしな。
「思い浮かびませんか?」
「はい……というか何貰っても……嬉しい?」
するとキャロルはまたしても鼻で笑った。
「え? また笑いましたね?」
「いえ、すみません。なんだかリィナが慕う理由がなんかわかった気がしたんです」
「慕う?」
「はい」
こうして俺は思いがけない形でキャロルとばったり会い特訓に付き合ってもらえることとなった。
リィナへの贈り物については当日までなんとかひねり出したいところではあるけれどキャロルという心強い助っ人のおかげでなんとか糸口を掴めそうだ。




