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第110話 何も知らなかった

 臨天の指輪の件があった日の午後、俺達は各々の時間を過ごしていた。


 リィナは教会の人達と生誕祭に向けての準備や修行をするのだそうでなんだか忙しそうにしている。


 それで俺はというとタマさんの力をどうにかできるように考えていたのだけれども……


「ニャー!! ちがうにゃ。もっとこうにゃっと! にゃにゃっと!! 腰をにゃんするのにゃ!!」


「え? こう?」


 ニャーは『にゃ』をなんとなく言っておけば全部伝わる素晴らしい言語か何かだと思っていないだろうか。


「ダメにゃ。腰が地面から生えてるようなにゃにするにゃ」


「腰から地面が生えるようなにゃって……ん?」


「違うのにゃ! 地面に腰から生えるのにゃ! ……にゃ?」


 この言い回しにとりあえずフリーズするのをやめて俺は再度ニャーの動きを再現する。


「こうか?」


 するとやれやれとでも言わんばかりに首を振ってニャー。


「にゃぁ……違うにゃ」


 そう、俺はタマさんの力を扱えるようになるべくこんな具合にニャーに剣を習っていたのだった。


 これに至った理由としては心技体という言葉を思い出したからだ。


 心技体と言うと『心は常に体と共にある』なんてだれかがどっかで言っていたのを聞いたことがある。


 思えばそうだ。


 映画の中でなんだかできる風のキャラはすごい大人っぽく見える。


 つまりだ。


 心の強い人って何かしら一本芯の通った技と体を持っているんだ。


 今の俺はというと……圧倒的に技が足りていないと思う。


 多分。


 そこで俺は一流の騎士に教わったニャーに教えを乞うことで心を鍛えあげタマさんを扱えるようにするという寸法だ。


 しかし、俺がニャーの剣技をまねて剣を振るってもニャーの目からはどうやらへたくそに映っているようだった。


「いやでもニャーをみるとこんな感じだぞ?」


「ちがうにゃ。ニャーのはもっと腰を落としてにゃ?」


「なんだろうな……なんかここらへん平行線のような気がする」


「ニャーもそう思うにゃ」


 正直この等身を正確に真似るのは難しい気がしてきた。


 細身の体にチョンっとかろやかに伸びる手足。


 人のようにも見えるけど人ではない……猫かと問われれば猫でもない。


 こうしてみるとニャーっていったいなんなのだろうか。


「この構えからにゃ? 剣を振り上げて下ろすにゃ。この時に芯をぶらしちゃぁならないのにゃ」


「ふむ……」


「剣は正直にゃ。少しでも力が違えば真の力を発揮してくれなくなるのにゃ」


「すっごいさ。いいこと言っているんだけどなんかこう……しっくりこないんだよなぁ」


「師匠の言葉にゃ。ソラは飲み込みが悪いのにゃ」


 これって俺のせいなのかな。


 こうしてなんの成果もないままにニャーを俺の修行に付き合わせてしまう。


 そしてある程度体が温まったところで修行を一旦切り上げることにした。


 ニャーは馬車のお手入れをしに行くと言って行ってしまう。


 一方ザンカはというと……教会の庭でなにやら瞑想をしていた。


 なんだかんだザンカってぼけーっとしつつ何も考えていなさそうな感じなのにひたむきに何かしているんだ。


 ザンカに教えてもらうとか……いやニャーとなんだか似た匂いがする。


 でもザンカの強い理由ってそのひたむきさにあると思った。


 そんなザンカの修行を邪魔しないように俺は庭先で寝転がって空を眺める。


 名前も知らない鳥が自由に飛び回っている。


 自由か……そう見えるだけで自由かどうかなんてその身になってみなければわからないだろうに。


 一応、タマさんにもどうしたらいいかは聞いている。


 聞きはしたけれど……「知らん。自分で考えろ」と答えが返ってきただけだった。


 そのあとに「まあ我も初めてのことじゃからのぅ……しかし、これは一種の呪いみたいなものじゃ。心を蝕まれぬよう鍛えるほかはないじゃろうて」なんて言ってたけど心ってどうやって鍛えるんだろ。


 心で筋トレしようにもどうにもならないだろう。


 ホラー映画とか感動系の映画でも見まくったりしたら心を鍛えられたりするだろうか。


 いや、それで鍛えられるのは感情とかかな。


 ま、こんな事考えていたってこの世界に映画ないんだけどさ。


 でも今まで死にそうな目に結構あってるからとりあえずそういう意味では鍛えられているのかな。


 ほんとハードモードすぎるって……


「これって詰んでないかなぁ」


 このまま龍脈の秘跡が使えないとなれば何かあった場合はすぐにアーグレンへと戻るという女王様との口約束が反故になってしまう。


 最悪ニャーにつれてってもらうことを考えたけれどまだ試していないし宛てにはあまりしない方がいいだろう。


「考えてもしかたないかぁ……」


 俺は立ちあがって気分転換にそのまま教会の外へと出る。


 日本で言う所の16時頃だろうか。


 夕方と言うにはまだ早い時間。


 人通りは多く兵士や冒険者、リィナと同じような神官といろんな人とすれ違っていく。


 ここへ来たばかりの時はあまり意識してなかったけどこうして町を歩いているだけでもいろんなことに気付けるようになったと思う。


 確か最初はアロルドさんに仕事を紹介してもらったっけな。


 アロルドさん会ってないけど元気かな。


 日雇いの仕事を紹介してもらったのって破壊された町の廃材を片付けたり運搬する仕事をやらせてもらったな。


 それでお金貰って教会で寝泊まりしてお酒につぎ込んでを繰り返してた。


 我ながらどうしよもなかったな。


 それが今や……


 すれ違う冒険者と思われる男と女の会話。


「ねえねえ聞いた?!」


「聞いたってなんだ?」


「レラデランに勇者様がいらしてるんだって!」


「本当か?! でもギルドじゃそれっぽい人は見かけなかったぞ?」


「それがね。ギルドには一回も立ち寄っていらっしゃらないの」


「一回も?」


 なんて噂になるほどの勇者様だ。


 その勇者様とすれ違いましたけれどもまったく気づかれる様子はない。


 まあ、それもそのはずで俺の顔を知っていると言うと王都貴族や王城にいた人達やルクサリア教会の人と一部飲み屋の人くらいのもの。


 それでも一応、この国には新聞みたいな情報誌がある。


 けれど挿絵や写真がなく文字がひたすら並んでいて目が疲れそうな情報誌だ。


 写真のように精工に写す技術はあるようだけどそれを増産する技術はどうやらないらしい。


 というか言われてみればレラデランのギルドに一回も行ってなかったな。


 今度立ち寄ってみるか。


 そんなことを考えながらぶらりと街中を歩いていると趣深い露店を見つける。


 そして無数に置かれている装飾品の数々に目が止まった。


 今の自分が置かれている問題について考えなくちゃいけないのもそうだけど……生誕祭の贈り物についても考えなくちゃいけないんだよな。


 並べられている物はどれも見慣れないものばかりだった。


 何でできていて、どうやって作られているのかが想像できないものもある。


 煌びやかな物髪飾りや質素な物ペンダントに、なにやら怪しい物キーホルダーみたいなやつと綺麗なイヤリング。


 そして不思議と浮いている何か。


 他にもかわいらしいネックレス……と様々だ。


 リィナってどんなのが好きなんだろ。


 この青色の花形の髪飾りなんかあの綺麗な白い髪に似合いそうだな。


 この髪飾りはなんていう花を模しているんだろ。


 いや……でも贈るにしても宗教的にだめだったりするものだったりしないかな。


 わからん……


 思えば知らない事ばかりだな。


 リィナはいったい何が好きなんだろ。


 どんなことが好きでどんなものが好きでどういうことをしているのが落ち着いてどんな色が好きで……


 知らない事ばかりじゃないか。


 日々何かしらがあって戦ってを繰り返してきたせいなのかもしれないけどさ。


 あまりにもリィナの事について無関心すぎやしないだろうか。


 ため息が漏れ出る。


 これで好きなんて抜かすんだから指輪も愛想をつかしたんじゃないか?


 ふと指輪に集中する。


 すると指輪は暖かいまま俺の指にしっかりとはめられているのがわかる。


 これが気持ちだと言うのなら……リィナは何を思っているのだろうか。


「……話したいな」


 ポツリとつぶやいてしまった。


 でもこんな気持ち……リィナからはどう思われるだろうか。


『なんかソラさん必死すぎです! 気持ち悪いです』


 なんて言われた日には俺は死んでしまうだろう。


 というかそもそも葉っぱ一枚で醜態を前面に晒している時点でそんなことを考えること自体……


 うん。


 終わってるな。


 好感度パラメーターがもしあるのならそれがマイナスに振り切れててもおかしくはないはずだ。


 俺とリィナ……なんか無理があるような気がしてきたな。


 今までの事は勘違いか何かだろうか。


 自分のこれまでの行いに深いため息をつくと「ソラ殿こんにちは! 今日はお一人ですか?」と昨日も聞いた声。


 声の主はキャロルだった。


「キャロル……さん。こんにちは、昨日に続きまた会いましたね」


「あの時も私が巡回する時間でしたからね。それでどうされましたか? 顔色があまりよろしくないようですが」


 どうやらキャロルにもわかるくらいに俺は思い詰めていたようだった。

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