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最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
9章 月神の教え

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74話 ほんの一幕の休息

東関がある大関原を超えてさらに七日かけて歩き、夕暮れ時にようやくウガヤの都、糸麻(イトメ)に到達した。

 もう日が落ちるというのに相変わらずの栄えた人混みに聞こえる豊かな人々の声。けどあと少しでこの声が二度と聞こえなくなってしまうかもしれない。禍の神は泣き言を言わせることなくこの辺りを焦土にするなど容易いことだろう。

 私が、山の頂から千里離れた山の頂まで力を振り絞って飛んだとしても禍の神にとってはたった一歩程度の力に過ぎない。


 私は両手を握り足を進めるとチトセが前に来る。


 「待ってマカ。宮殿に行く前に一応言っておかないことがあるんだ」


 「言っておかないこと?」


 「うん。これナビィとツムグにも関係ある話だから聞いて」


 チトセの言葉にナビィさんとツムグさん二人は心当たりなかったのは困った顔で首を傾げる。

 そしてチトセは周りをあまり気にする様子もなく話し始めた。


 「ツムグは僕と一緒に狛村に行こう。ナビィはマカと伊予の島に大王と謁見後に向かって欲しいんだ」


 「——封印のこと私に確認しにいけですか?」


 「ううん、封印する手筈の打ち合わせをしておいて欲しいんだ」


 チトセの言葉にナビィさんは額から汗を流して心配そうに私を見る。

 彼の思惑は大体予想はしていたけどそんな配慮はむしろやらないで欲しい。


 「分かりました。ではツムグさん。チトセをお願いします」


 「うん、うん。チトセ様。あまりマカを煽らないでください」


 「え、ごめん。煽る気はなかったんだよ」


 チトセは改めて無自覚に言っていたのか素直に私に頭を下げた。

 それからチトセとツムグさんはこの場を後にしそれをナビィさんと少し見届けたあとナビィさんに視線を移した。


 「ナビィさん。宮殿に行きますか」


 「えぇ、アマさんがきちんと説明してくれていたなら大丈夫なはずです」


 そうだった。アマさんには先に糸麻に向かって飛騨について伝えに行って欲しいとお願いした。

 大王のことだからアマさんの言葉はきっと心のうちに入れてくれているだろうし問題はないと祈ろう。

 そして私たちは宮殿へと向かって歩いた。


 ————。

 ——。


 早速宮殿に行くと門の前には吉備にいるはずのユミタレが門番たちと立っており私を見ると弓タレさんの家来の一人が手を振る。

 私はナビィさんと駆け足で近づくとユミタレさんは安堵の息をつく。


 「どうやら無事なようだな」


 「ユミタレさんこそ。吉備はもう良かったのですか? あれから暫くいると思ったのですが」


 「そうなんだが話が変わったんだ」


 ユミタレさんはそういうと今起きていることを話してくれた。

 まず大王は各豪族が天人や禍の神への備えをいいことに各地で紛争などを起こしており、また帰順しておきながら従わない豪族がいたりとかなりぐだぐだとしていたようだ。

 そこで大王はいうことを聞かないならいっそとなり各地に自身の息子と現地の協力的な豪族を将軍にして各地を大きな国に分けて大王が直接管理するようだ。


 ユミタレさんはそう言葉を濁さす行ったあと悩ましい顔をする。


 「形だけは完璧だが。これはいつか崩れる。大王はその後のことをどうするおつもりか——」


 ユミタレさんが続けて何かを言おうとした時ナビィさんが少し眉に皺を作る。


 「すみません。積もる話があるのは承知ですが大王にお会いさせてください。何かできない事情があるのですか?」


 ナビィさんの言葉にユミタレさんは触れられたくなかったのは少し悩ましい顔をすると諦めたように息を吐いた。


 「悪かった。単刀直入にいうと大王は今多忙で会う事はできない。蛙妖怪が飛騨にて禍の神が復活したと聞いて大臣と大連らの結束を再び固めるためにな」


 「——アマさんの話聞いて貰えたんだ」


 「あぁ、俺も聞いた時は驚いた。それにマカ。禍の神相手によく粘れたと大王はそれを聞いて喜んでいた」


 「それなら良かったです。あの、次の指示は大王の方からに出されていますか?」


 「指示? いや、それは特に言われていないな。ただお前たちはチトセからどこに行けと言われた?」


 「私たちは伊予島に行けと——」


 その言葉にユミタレは驚いたような顔をする。


 「伊予島にか? 俺には高志に行くと言っていたが……チトセは何かお前が行かないといけない理由があったのか?」


 その後私は千歳から伊予島に向かいように言われた理由とその目的を伝えるとユミタレは何も言わずいつも通りの顔で私を見た。


 「そうか。大王には私の方から伝えておく。——それとマカ。ここをいつ出立する」


 「明朝には立つ予定ですが」


 「——そうか。では今晩一人部屋に泊まってくれ」


 「どういう事ですか?」


 そう私がいうとナビィさんは頬を赤くして私の着物の袖を引っ張ると口を耳に近づける。


 「妻問婚を模すんですよ」


 妻問婚? 妻問婚——。


 「妻問婚って?」


 私の言葉にナビィさんは目から光を消すと少し私と距離を置いて遠いいところを見てユミタレさんは呆れたような息を吐く。それにしても一瞬ナビィさんが口にした「えぇ……」という言葉が頭に残る。


 ユミタレさんはゆっくり背中を向ける。


 「あれだ。カグヤを失うなら。その拠り所に許嫁の俺が協力するという話だ。それ以上でもそれ以下でもない。嫌か?」


 「——あ」


 その時脳裏にぼんやりとユミタレさんが私に以前ここ戦いが終われば契りをする約束をしていたことをしたのを思い出した。

 あの時私はつい雰囲気に乗ってしまい運と答えてしまったけどあの時はあまりそういう事はわからないし今もまだ釈然としない。


 これはナビィさんしか知らないけど私の恋心はまだ子供のまま止まっている。だから申し訳ないけど兄みたいな人が好きみたいな感情で止まっている。


 だけどユミタレさんはどこか兄に似た雰囲気を漂わせている。


 「——分かりました。けど私にその知識はないので」


 「無理しいはしない。子を作るのは戦の後だ。だから気兼ねなく話すだけでいい」


 私はナビィさんを暫く見た後、ナビィさんは大丈夫ですよと言わんばかりに背中をさする。

 そんな目でわかると言わんばかりの仕草をされても困る。

 きっとナビィさんは私の心が子供とわかっているからこそこの仕草をするんだろうけど複雑。


 「では、今晩お願いします。ユミタレさん」


 「別にそこまで身構えなくて良い。婚儀は女子が望みし時にしかせん」


 「え」


 そうナビィさんが口にしたのをはぎりに私はユミタレさんの館へと案内された。

 にしてもナビィさんのあの一言。もしかしてナビィさんも私とは違って誤解しているんじゃないかな。


 ————。


 館に着き、ユミタレさんの父である大源熊襲(オホミナノクマソ)と少しばかり近況とユミタレさんが話してくれた内容と同じことを聞いた後ナビィさんは大源(オホミナ)の巫女たちの寝屋に案内され私は別の離れにある寝屋に案内された。


 中に入り、一人静かな空間で荷物を置いた後特にやることもなく床に座る。

 

 そして小手と脛当てを外し身軽にした頃合いにユミタレさんもいつもの豪華な装飾品う取り外し身軽な格好で私のいる寝屋へとゆっくり戸を開けて入ってくると私の隣に座った。


 「思えば。こう二人きりで静かに話すのは初めてか」


 「そうですね。話すときはいつも騒がしいか報告だけでしたので」


 ユミタレさんの言葉にいつものように返すとユミタレさんは私の頭に触れるのそのまま優しく横に倒すと膝に私の頭を乗せる。


 「ユミタレさん?」


 「そんな堅苦しい言葉にしなくていい。それとも。見た目戦士気風でも内側はまだ姫様気分なあたり本当は戦うのは嫌いではないか? いや、答えなくて良い。前から戦いが嫌いそうだったからそうだから言っただけだ」


 「——」


 ユミタレさんの言葉に私は胸が不思議と温かくなる。

 ユミタレさんは最後申し訳なさそうに言わないで良いと言ったけど言っている事は間違いじゃない。


 私は兄が消えたせいで兄の皮を被ろうと必死だった。だけど兄がいたら普通のお姫様みたいになっていたはずだ。

 そういう思いはずっとあった。


 飛騨で決めたようにカグヤと永遠の別れをした後は前に進むそうするんだ。

 だけど——。


 私はゆっくり息を吐く。

 

 「この戦いが終わった後。カグヤとは永遠の別れなんです」


 「お前がずっと守りたかった子か。チトセは確かにそう言っていたな」


 「これ、ずっと考えていたんです。いつ姫に戻れば良いのかって。戦いが終わっても。折角天人が二度と地上に入れないようにする結界を張ったのにそれが意味がなく禍の神との戦いに続きそれも終わってもまた次の戦いがあるんじゃないかって」


 「お前は姫に戻りたいのか?」


 その言葉に下唇を噛む。

 何も答える事はできない。姫に戻りたいとは言っても少なくとも兄の存在が消えたこの世界では少し姫の作法を知っている戦士でしかない。そんな私が戦士の皮を捨てて普通の姫になるなんて良いのか。


 「マカ」


 ユミタレさんは私の名前だけを口にすると私の前髪を上げると父性を感じさせる笑みを浮かべる。


 「お前はそのままでも十分に姫らしい」


 「そうですか。なら、本当に——」


 「寂しいのなら別に理由を作って会いに行ってもいい。お前は源氏の女だ。それも狛村を治めるものだ。好きなだけ理由を作って会いにいけば良い。誰もお前がわがまま一つ言おうがお前の日頃の真面目な行いを知っている。あ、いや、天人との戦いは結局国難となったか当初はお前が妹分を助けたいというわがままな願いからだったか」


 「ふふっ。そうですね。この戦いも私のわがまま。なら私が責任持って全て終わらせます。そういえばユミタレさんは通うということはたまに村に来るというだけですか?」


 私がそういうとユミタレさんは少し驚いた顔をする。


 「その事なんだが俺は村に行ってお前の叔父の養子になるんだ。そして正式に大源(オホミナ)から源(ミナモト)の当主になりお前の旦那になる感じだ」


 ユミタレさんの言葉に不思議と笑みが浮かぶ。


 「それだと通い婚ではないんじゃないですか。私に家から出て行って徳田神社にでも住んで形式的に通にしたいとかじゃないですよね」


 「バカを言うな」


そう言ったユミタレさんの言葉はどこか嬉しそうだった。


 ————。


 翌日明朝。

 私は荷物をまとめ、糸麻の門にてユミタレさんたちに見送られた後ナビィさんと共に伊予島に向かって歩き始めた。

 ナビィさんは夜分、引き返してきたチトセから月神が隠れている場所を教えてもらったようだ。


 ナビィさんは服を整えると私を見る。


 「懐かしいですな。ゼロともこんな感じだったんです。誰かに見送られてゼロの隣を私が歩く」


 「自慢ですか?」


 私が意地悪なことを口にするとナビィさんは対し的にしていないのかふふふと笑う。

 うん、これ自慢してる。

 

 私は徐々に軟化していくナビィさんを見て笑みを浮かべながら伊予島と行き来している港を目指して足を進めた。

 その道中、禍の神に汚された天人による攻撃を警戒しながら。 

裏話:妻問婚

この時代のユダンダベアでの豪族たちを中心に行われている婚儀

夫が妻の実家に通い子育て妻が担う。

ユミタレの場合は狛村との距離がかなりあるためマカの叔父の養子になることでその問題を解決している。


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