四十三日目
「さて、今日の予定を確認しよう。」
今日も美味しい朝ごはんを堪能し、食後のお茶を楽しみながら作戦の確認が始まった。
サンルームに置かれた丸いテーブルから半透明の映像が立体的に映し出される。見覚えのある外観に 、私はすぐに隣の屋敷だと理解した。あの彼が生垣からやって来た方の。
「俺たちはまずパトリシア婦人を迎えに行きパーティー会場へ向かう。彼女と招待状が我々の安全に必要なアイテムだ。次に、俺は製薬会社勤務の生物工学博士、お前達は孤児として叔父に引き取られているという設定は分かっているな?」
マーレイ博士の言葉に私たちは頷く。すると、立体映像は屋敷の内部を映し出した。
「研究所の入り口とおぼしき場所はこことここ。婦人の話によれば大佐が特別な客人をもてなすときに使う部屋だそうだ。」
「1つは応接室?普通に使われそうな部屋ですが……?」
「特別な客人用の応接室だそうだ。これだけ大きい屋敷なら、応接室の1つや2つあってもおかしくないだろう。」
(もう1つはこの棟……あれ?このおっきなガラス張りの部屋って……)
「もう1つの部屋はこの温室のような部屋がある棟ですね?」
「そうだ、こんなでっかいエドワーディアン様式のコンサバトリー必要か謎だわ。」
彼の、これだから金持ちは嫌になるぜ…と心の声が漏れ出ていたけど、私はあえて無視することにする。
コンサバトリー、昨日侵入してきたポールの言っていた場所だ。
彼の情報が正しければ、ここに出入口がある可能性が高い。何処となく、ガーデンを彷彿とさせる。
でもこんな小さな箱庭ではきっと満足できない。外に出たくなってしまうよ……ね?
私が3D見取り図を見つめていると、「アリス?」と彼が声をかけてきた。
(ううん、ごめんなさい。少しボーッとしてた。)
(具合が悪かったら言ってね。)
(大丈夫だよ。えっとね……こんな小さなガーデンだと窮屈だろうなって……。)
(………確かに。俺だったら逃げ出しちゃうだろうな。勿論、アリスと一緒に。)
(ふふふ、アッシュは全部壊して出ていきそうね。)
(当たり前だよ。こんな小さいなら全部壊した方が早い。)
なんだか可笑しくて、お互いの顔を見合わせて笑いあった。
その笑い方が不気味に見えたのか、マーレイ博士の顔は少しひきつった青い顔だった。
「お前ら、頼むから内緒話は止めてくれ。アッシュ、ちゃんと共有しろ。」
「了解です。」
(はーい。)
「確認すべき場所が2つある以上、二手に別れる。パトリシア婦人の情報が正しければ、初めて会う人物との会合はこちらの応接室に通される確率が高い。俺は現地で合流する協力者と婦人の手引きで大佐に挨拶後に此方で面会する。アッシュ、アリス、お前達は必要ならばレッドクイーンの支援を受けてもう1つの場所を調べろ。先行してレッドクイーンはあの屋敷のネットワークに潜入している。」
「了解しました。力の使用は?」
「秘匿研究所に侵入するまで殺さず静かに。」
そして、マーレイ博士は内ポケットからイヤーカフを取り出し私たちに手渡した。
「研究所に到達したら連絡をいれろ。そこから60分後にもう一度いれろ。連絡がなければ撤退する。最大作戦時間で180分。それを過ぎれば連絡があろうがなかろうが置いていく。作戦終了後の合流地点はここ、玄関ホールのモニュメント前。身なりはととのえろよ。」
サンルームの入り口の戸が3回ノックされる。マーレイ博士は作られた人格に戻ると、「入れ。」と一言戸に投げかける。
「旦那様、皆様のお召し物の仕度がととのいました。」
「あぁ、わかった。さあ、お前達も出かける仕度をととのえなさい。」




