020 女のプライド
次の日の朝。
俺はいつものようにグランディア訓練学校へと向かう。
「へぇ。あのアーリアがね……」
「ああ。あいつの『技型』はおそらく『特殊型』だな。どの型にも属さず、感性のみで技を使用している感じだった」
俺の横には寄り添うようにレイノが歩いている。
毎日毎日待ち伏せして、よくもまあ飽きないものだ。
俺は昨日おきたことをレイノに報告する。
少しだけ眉を顰めた彼女だったが、またすぐに普段の表情へと戻った。
「お父様には巨龍種討伐の件、報告しておくわ。たぶん『課外授業』として処理されると思うけど……。大丈夫なのかしら?」
「何が?」
「生徒達よ。ギルド本部でも手を焼いているのでしょう? 貴方は大丈夫だとしても、生徒達の身に何かあったらグランディアの名誉にも関わるわ」
いつになく真剣な表情のレイノ。
しかし俺はそれを一蹴する。
「あいつらは世の中を舐めすぎだ。世間の怖さを思い知らせるには絶好の機会だと思うのだが?」
「……貴方がそれを言っても説得力に欠けると思うのだけれど」
「何か言ったか」
「いいえ、何も」
そっぽを向き知らん顔をするレイノ。
だが、しっかりと俺の腕に自身の腕は絡めたままだ。
「討伐遠征には明後日の正午に向かう。まずはギルド本部に向かい、それから――」
今後の予定を俺が述べるとレイノは素早くメモをとる。
流石は俺の正妻の座を狙っているだけのことはある。
出来る女は嫌いじゃない。
鬱陶しいのだけは勘弁なのだが。
「問題があるとすればシュナイゼル家ね。あそこの党首はうちのお父様と犬猿の仲だから……」
「それは俺のほうでなんとかしておこう。今日の放課後にでもシュナイゼル家に向かってみるさ」
シュナイゼル家の屋敷は街の東門付近の緩やかな坂の先にある大きな屋敷だ。
ちょうどブラスタル紋章店を通り過ぎた先に立っている。
せっかくだから店に寄って店主のアーシェに曲刀の手入れを頼んでおこう。
「……で? 昨夜はその後、どうなったのかしら」
「お前には関係ないだろう」
「関係あるわ。貴方の女関係をきちんと把握しておかないと、今後どんなトラブルに巻き込まれるか分からないから」
鋭い目つきで俺に質問するレイノ。
いちいち癇に障る言い方をするのが気に喰わない。
こいつもシイラと同じで、俺に隠し事をしても無駄だと悟っているのだろう。
俺は溜息を吐き、正直に答える。
「……あれから数時間後に屋敷にきた。涎を垂らしながら、俺に懇願するような眼差しを向けながら、な」
「そう……。ならばアーリアはもう貴方に『堕ちた』と考えていいのね」
再びメモをとるレイノ。
一体何を書き込んでいるのか気になったが、おおよその想像はつく。
「シイラ・レイノルム、フィメル・シークレット、そしてアーリア・ホスダイン。メイドに教師に生徒。はぁ……。頭が痛いわ」
大きく溜息を吐き、レイノはメモを閉じた。
そうこうしているうちに、俺達は訓練学校へと到着した。
「さて。それではクレルお兄様。今日も1日、授業のほう、頑張って下さいまし」
そう言い丁寧にお辞儀をしたレイノは、俺と別れ教室へと向かう。
(……女とは、どうして順位を競い合うものなのだろうな)
レイノは俺と身体を重ねるたびに、他の女よりも良いかどうかを聞いてくる。
俺は何も答えないが、『お前が一番だ』と答えたところで何かが変わるものなのだろうか。
(まあいい。さあ、今日はどんな授業で生徒らと遊ぶか。くくく……)
◇
「えええ!? 巨龍種の討伐が課外授業!? そんな無茶なぁ……」
机に伏し、泣き言をもらすリリィ。
「貴方あたまおかしいんじゃないの? どうして私達がギルド本部の応援に向かわなきゃならないのよ……」
リリィに続きゼシカも文句を言う。
今日もここ『技能開発科』に出席している生徒はこの2名だ。
アーリアは昨夜、腰が立たないくらいに虐めてやったから仕方がないとして――。
「それよりもジルは何故来ない。お前らは何か聞いていないのか」
「はい先生! ジル君は別の科の先生と豪勢なお食事会へと向かいました!」
肘をびしっと伸ばし俺の質問に答えるリリィ。
「戦略作戦科のロザリア先生とデートですって。いいご身分だわ、シュナイゼル家の御曹司様は」
ロザリア・ガーランド。
グランディア訓練校で優秀な生徒ばかりを集めた科である『戦略作戦科』の女教師だ。
男子生徒から絶大な支持を得ている教師だが、悪い噂も絶えない。
裏で生徒を喰いものにしているという話も聞いたことがある。
(……人のことは言えんがな)
しかし、俺の科の生徒にまで手を出されては困る。
別に俺に男子生徒をどうこうするといった趣味はないのだが。
「で? その課外授業っていつやるの?」
「明後日の正午には出発する。予定では3日間の遠征だ」
「え? お泊り? うわぁ、なんかちょっとワクワクしてきました!」
先程とは打って変わりリリィは嬉しそうにはしゃぐ。
それとは対照的に納得のいかない表情のゼシカ。
「なんだ。文句があるなら聞こうじゃないか」
「あるわよ。貴方、ここではただの臨時教師なのでしょう? ギルドの仕事を私達に手伝わせるなんて、公私混同もいいところだわ」
大きな胸の前で腕を組み、俺を睨みつけるゼシカ。
相変わらず口の減らない生徒だ。
「でもでもゼシカちゃん。お泊りだよ? 可愛いパジャマとか持っていったり、美味しいホテルの料理とか食べたり、水着を持っていって湖で泳いだり――」
「リリィは黙ってて」
「うぅ……」
ゼシカに咎められ大きく肩を落とすリリィ。
「課外授業に出ないというのであれば、俺はそれで構わないぞ。ええと、ゼシカは留年決定、と」
「出ます! 是非とも行かせてもらいます! ……この鬼畜教師が……」
昨日、アーリアに言われたことと同じことを言ったゼシカ。
一体、俺のどこが鬼畜だというのだ。
俺は『神』だぞ。
神からご教授してもらえるお前ら生徒は、これ以上ない幸福を与えられているのだ。
何故、それが分からないのだ。
「とにかくアーリアとジルは今日も欠席だな。ではさっそく授業を始めるぞ。今日のカリキュラムは午前は講義、午後から水中戦闘の訓練だ」
「水中戦闘ですかぁ? あれ? じゃあプールで授業?」
「そうなるな。良かったな、リリィ。お前、水着を着たがっていただろう」
「あ、いや……。スクール水着が着たかったわけではないんですけど……」
渋い表情でそう答えるリリィ。
「水中戦闘で水着を着たって意味がないんじゃないかしら」
「ならばゼシカはそのまま制服で授業を受けろ」
「着ます! 是非とも水着を着させていただきます! もう……やだこの鬼畜教師……」
諦めたように机に伏せたゼシカ。
そして午前の授業が始まった。




