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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第二章 思惑と欲望の交差
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016 神の弱点

 フィメルとの情事が終えたころには、すでに日が落ちかけていた。

 満足そうに眠るフィメルをそのままベッドに寝かせた俺は、そのまま旧校舎を後にする。

 念のために保健室の周囲には氷の結界を張っておいた。

 彼女が目覚めれば、自然と解除されるように魔力量を調整させて――。


 心地いい夕暮れ時の風が俺の頬に当たる。

 こんな気分になるのは『魔法ディザ・ベル』の力を手に入れてから二度目だ。

 無性にミリアの顔を見たくなった俺は、足を早め帰宅を急ぐ。

 ギルドに寄るのは明日でもいいだろう。



「お帰りなさいませ」


 屋敷に到着するとシイラが俺を出迎えた。

 俺は上着を渡し、テレミウス伯爵に帰宅の挨拶をしようとリビングへと向かう。


「……女の匂いがする」


「え?」


 後ろを振り向くと何故かシイラが今しがた手渡した上着の匂いを嗅いでいた。

 俺の視線に気付くも、特に慌てた様子は見られない。


「お楽しみでいらしたのですか、クレル様」


 表情を変えず、丁寧な口調でそう質問するシイラ。

 その視線は俺を捕らえて離さない。


「……なんだ、嫉妬か?」


「いいえ。ですが、あまりあの力・・・を無闇に使われるのはどうかと思いまして」


 そう言い残したシイラはそのまま俺の脇を素通りし、二階へと上がっていった。

 ……何なのだ、あの態度は。

 警告のつもりか?


「あ、お兄ちゃん! お帰りなさい!」


 シイラとすれ違うように二階からミリアが駆け下りてくる。

 そして、そのまま俺の胸に抱きついてきた。


「ただいま、ミリア。お義父様はもう帰っているかな」


「うん。でもまたすぐにお母さんと出掛けちゃった。今夜も伯爵家の会合なんだって」


「そうか」


 ミリアの頭を優しく撫で、俺はそのまま彼女と二階の自室へと向かう。

 その途中でしきりにミリアが鼻を鳴らしていた。

 もしかしたらミリアも、俺に付いたフィメルの香水の香りに気付いたのだろうか。


 部屋の前に到着すると、ミリアがこちらを振り返り満面の笑みを振りまいた。


「今夜も2人っきりだね、お兄ちゃん」


「ああ、そうだな。どうするか。ゲームでもするか」


「うん!」


 嬉しそうに返事をするミリア。

 彼女の屈託の無い笑顔が俺の心を癒してくれる。

 明日はギルドも訓練学校も休みを取ってある。

 久しぶりに兄妹2人で市街を回り、夕方になったらギルドに寄り、今日やるはずだった仕事を終わらせてしまおう。


 部屋に入り、ソファに腰を降ろす。

 同じく俺の隣に腰を降ろしたミリア。


「あー、明日は楽しみだなぁ。久しぶりにお兄ちゃんとデートだし。何処にいこうか? 私、いきたい洋裁店があるんだけど――」


 いつものミリアの話が始まる。

 俺は笑顔で相槌を打つ。

 彼女といると、どうしてこんなに心が軽くなるのだろう。

 ずっと彼女の話を聞いていたい。

 何も考えずに、永遠に彼女と――。


 俺はそっとミリアの手に触れる。

 きょとんとした表情で首を傾げるミリア。


「どうしたの? お兄ちゃん」


「……いや、なんでもない」


「うーん?」


 更に首を傾げたミリアだったが、それ以上は何も言わずに俺の指に手を絡めてくる。

 これでは端から見れば恋人同士のように映るだろう。

 そして俺は、彼女がそうなることを望んでいると知っている。

 だが――。


「喉が渇いたな。珈琲でも淹れてくるよ」


 俺は彼女から手を離し、部屋を出る。

 ミリアの気持ちを知ったのに、俺はミリアに手を出せずにいる。

 きっと彼女も待っているだろうに、俺は――。


 渡り廊下を曲がったところでシイラが壁を背につけ、立っているが見えた。

 腕を組み、値踏みするような目で俺に視線を向ける。


「お前の弱点はミリアお嬢様なのだな」


 普段の口調に戻っている。

 もう自身の仕事は終えたということなのだろうか。

 俺は彼女を無視し、その先にある階段を降りようとする。


「『神』に弱点があってはまずいのではないか? ただでさえ、お前の能力に気付いた者は私だけではないのだろう? 世界を掌握するのに情は無用だ」


 彼女の言葉に俺は足を止める。

 そして振り返りもせずに、こう呟く。


「……お前に何が分かる」


「別に分かりたいとも思わない。だが、お前とミリアお嬢様は血が繋がっていないのだろう? さっさと自分のものにして不安の芽を摘んでおいたほうがよいのではないか? それともミリアお嬢様の気持ちを知って怖気づいたか」


 俺は表情を変えることなく、彼女に振り向く。

 そして彼女の傍により、顔を近づけた。


「お前に、何が分かる」


 俺のイラつきを感じ取ったのだろう。

 口を閉じたまま、俺の目をじっと見つめるシイラ。

 ここで『魔法』を使って彼女の脳内を調べるまでもない。

 すでに彼女は『本心』を口にしているのだから。


 しばらくお互いに睨み合った後、彼女はふっと表情を崩した。

 そして、そのまま俺にくちづけを交わす。


「余計なことだったな。お前はお前のペースで成り上がればいいさ。どうせ私はお前から逃げられないのだからな」


 悟ったようにそう呟いたシイラはそのまま階段を降りようとする。

 彼女の態度に釈然としない俺は彼女を呼び止める。


「誰がいっていいと言った」


「え――?」


 言ったと同時に『氷の魔法アイス・ディザ・ベル』を発動する。

 周囲数十メートルの時間が瞬時に凍結する。

 しかし、俺とシイラの周囲には魔法の力を及ぼさずにおいた。


「来い、シイラ」


「あっ――」


 強引に彼女の手を引っ張り、空いている部屋へと連れ込む。

 無性にシイラをグチャグチャにしてやりたい衝動に駆られた俺は、彼女を強引にベッドへと押し倒した。

 周囲の時間は止まったままだ。

 誰にも邪魔をされることは無い――。


 彼女のメイド服を強引に破りとる。

 魔法でいくらでも修復させることは出来る。

 勢い余って彼女自身を傷つけてしまっても同じことだ。


「うっ……! 相変わらず、お前は鬼畜だな……くっ! さっきまでお楽しみなのでは、なかったのか?」


 抵抗しながらも、俺に衣服を破かれていくシイラ。


「お前が俺を挑発するからだ。今後、俺の前でミリアのことを言ってみろ。死よりも恐ろしい目に合わせてやるぞ」


 彼女の顎を掴み、そう言い放つ。

 しかし、シイラの瞳に恐怖の色は感じられない。

 ……何故だ。

 これから俺に犯されるというのに、何故恐怖しない?


「……承知致しました、クレル様。出過ぎた真似をしてしまい、申しわけ御座いません。クレル様の折檻、謹んでお受け致します」 


 抵抗を止め、諦めたようにそう答えるシイラ。

 こいつはこの状況で、まだ俺のことを馬鹿に出来るのか。

 ――いいだろう。

 望みどおり、グチャグチャにしてやる――。




 時が止まった世界で、シイラと俺の息遣いだけが満ちていった。

















 



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