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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第二章 思惑と欲望の交差
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017 レイノの野望

 次の日の昼。

 俺はミリアと共に家を出た。

 玄関先ではシイラが無表情で俺達を見送っている。

 昨日はあれだけ激しく身体を貪ってやったというのに。

 何故、彼女はあのような表情が出来るのだろう。


「ねえねえ、お兄ちゃん! これ、可愛いでしょう?」


 くるりとその場で回ってみせたミリアは、今日の私服の感想を俺に聞いてくる。

 その愛らしい仕草に自然と笑みが零れてしまう。


「少しスカートが短くないか」


「えー? そうかなぁ。普通だよ、これくらい」


 少しだけ恥ずかしそうに頬を染めたミリア。

 そしてそっと左手を差し伸べる。


「お兄ちゃん?」


「ああ。分かっているよ」


 俺は右手を差し出し、彼女の手を握る。

 昨日の夜、ミリアとのゲームで敗北した俺。

 罰ゲームとして彼女が俺に言い渡したのは「明日のデートで1日、手を繋ぐ」という内容だった。


「私ね、お兄ちゃんの手が大好きなんだ」


 嬉しそうにそう言うミリア。

 彼女の体温が手を通して伝わってくる。

 しかし、俺は気が気でない。

 誰がどこで見ているのかも分からないのだ。

 見つけ次第『魔法ディザ・ベル』で、片っ端から記憶を消していくつもりだが、さすがに限度があるだろう。


(……いや、何を焦っているのだ俺は)


 神となった俺が、こんなことで焦っていてどうする。

 その気になれば、この街の住人の記憶を一瞬にして消すことだって出来るはずだ。

 だが、問題なのは魔法による『副作用』だ。

 それだけ膨大な魔力を一度に放出してしまえば、どれだけの死者を出してしまうのだろう。

 生き返らせることは可能だが、余計な手間をかけたくはない。


 ミリアに視線を向ける。

 彼女は鼻歌を歌いながら楽しそうにしている。

 今日くらいは何も考えずにミリアとのデートを楽しみたい。

 神にも休暇は必要なのだ。


(……今日は『魔法ディザ・ベル』を封印するか)


 ここのところ連日連夜、休むことなく『魔法ディザ・ベル』を使用している。

 おおよその能力の検証は済んだのだし、昨日シイラから忠告されたように、無闇に使用するのは危険かもしれない。

 

 今現在、俺の能力について知っている人物は3名。

 シイラ、レイノ、それにフィメルだ。

 だがフィメルに関しては俺の能力が『魔法ディザ・ベル』によるものだとは気付いていない可能性がある。

 もしかしたら『誘導に秀でた未知の技』を俺が行使したのだと解釈しているのかもしれない。


「……お兄ちゃん?」


「……え?」


「もう、また考え事してる。今日は楽しいデートなんだよ? そんなに眉間にしわを寄せたら駄目なんだからね!」


 そう言い、頬を膨らませたミリア。

 俺は笑いながら「ごめん」と告げる。

 慣れていないデートで緊張しているのか、俺は。

 いや、神が緊張などするものか。

 俺はミリアに合わせているだけだ。

 彼女の純粋な心が、少しの間俺を人間に戻しているだけなのだ。

 

 焦ることはない。

 ……いや、焦ってなどいない。


「……お兄ちゃん、なんか可愛いね」


 一人ブツブツと呟いていた俺にミリアの渾身の一言が突き刺さる。

 俺が……可愛い?

 何を言っているのかさっぱり分からない。

 きっと聞き間違いだろう。


「あのな、ミリア。俺は――」


「あ! レイノちゃん!」


 ミリアが手を振るその先に現れたのは――。


「あら、ミリアじゃない。それに……クレルお兄様」


 レイノの視線が俺とミリアの手に注がれている。

 このタイミングで、一番会いたくない女に会うとは……。


「仲が宜しいことで。羨ましいですわ」


 ニコリと笑顔でそう言うレイノ。

 その笑顔を見た俺は、何故か背筋が凍る。


「今日はお兄ちゃんとデートなの。羨ましいでしょう、レイノちゃん」


「へぇ……。デート、ね」


 表情を全く変えずにレイノは笑顔でそう答える。

 ミリアの屈託のない笑顔とは大違いだ。

 それにミリアは、もう俺とレイノの『噂』くらいは知っているはずだ。


「ミリア。ちょっとだけ待っていてくれるか」


「え? あ、うん。いいよ」


 ミリアと手を離し、俺はレイノを木陰に連れていく。


「ふふ、何を焦っているのかしら」


 悪戯な笑みで俺を見るレイノ。

 俺はミリアに見えないようにレイノを睨みつける。


「違うわよ。今日はたまたま買い物に出掛けたら貴方達に出くわしただけよ。尾けていたわけではないわ」


「それを俺に信じろというのか。今まで一体、何度お前に付きまとわれたと思っているんだ」


「あら、そんなことを言って、その度に私を抱いてくれたのはどこの誰なのかしら」


 そっと耳元でそう答えるレイノ。

 俺はミリアの視線を気にし、彼女を引き離す。


「これでも俺はお前に感謝しているのだ。ミュンヘン伯爵を通じて、俺を訓練学校の教師に推薦してくれたお前に」


 これは俺の本心だ。

 ミュンヘン家の財力と権力は、俺がこれから成り上がっていくのに必要なものだ。

 レイノの協力があれば、テレミウス家を乗っ取るのにもそう時間は掛からないだろう。


「ならば私との約束・・・・・も守ってくださるのですよね、クレルお兄様?」


 彼女と交わした約束――。

 俺の片腕となる代わりに、世界を掌握したその時は――。


「クレルお兄様が誰と付き合おうと構いませんが、正妻の座は私のものです。世界の覇者となる殿方の正妻となる――。嗚呼……、今から楽しみで仕方がありませんわ」


 全身を抱え、興奮のあまり震えだすレイノ。

 そう――。

 この女は自ら、俺の『妻』となることを申し出たのだ。

 他に女を作ろうが、側室を作ろうが、正妻の座さえ与えてもらえるのであれば問題ないと言い切った。

 俺はこの女の底知れぬ野望に興味を持った。

 しかし、こう毎日のように付きまとわれるのは、決して気持ちのいいものではない。


「とにかく。俺がミリアと一緒にいるときは声を掛けてくるな。いいな」


「ではさっきのように、ミリアから声を掛けてきた場合はどうしたらいいのかしら?」


 挑発的な笑みを浮かべ言い返してくるレイノ。

 ……口の減らない女だ。

 どいつもこいつも、俺に言い寄ってくる女はこんな奴らばかりなのか。

 俺は溜息を吐き、レイノに背を向ける。


「冗談よ。それでは、クレルお兄様。ミリアに宜しくお伝え下さいまし」


 ドレスの裾を上げ、丁寧にお辞儀をしたレイノ。

 そして中央通りで待っているミリアに軽く手を振り、その場を去った。


(レイノの奴……。ミリアに手を出したりはしないだろうな……)


 あの女は危険だ。

 自身の野望のためならば手段を選ばない――。

 しかし、万が一ミリアを殺すようなことがあれば、俺が黙っていないことくらいは分かるだろう。

 レイノには何も『メリット』がない。

 殺したところで、時間を戻してしまえばミリアは生き返るのだから――。


 ミリアが俺の元に駆け寄ってくる。

 そしてそのまま俺の胸に飛び込んできた。


「どうした、ミリア?」


「……ううん、なんでもない」


 俺の胸に顔を埋めたまま、更に強く俺を抱きしめるミリア。

 やはり俺とレイノの関係に気付いているのだろう。

 それでもミリアは、俺のことを『好き』と言ってくれるのだろうか。

 魔法を使えば、彼女の今の心境を知ることは出来る。

 だが――。


「何だかお腹が空いてきちゃった。先にご飯を食べてから洋裁店に行こう? お兄ちゃん」


「……ああ、そうしよう」


 俺から顔を離しそう言うミリア。

 少し寂しそうな笑顔だったが、すぐに元の屈託のない笑顔へと戻っていく。


 きっと、俺は恐れているのだ。

 彼女の気持ちが、俺から離れてしまうことに――。

 何よりも大切な義妹が、俺の『本性』を知ってしまうことに――。


 隠し通さなければならない。

 俺は、仮面を被り続ける。


 

 彼女の前では、良き兄を演じ続けられるように――。



















  

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