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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第二章 思惑と欲望の交差
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012 快楽の渦

 レイノの補習授業は2時間ほどで終了した。

 幾度となく教師から質問が飛んだが、当然俺は答えられない。

 『技』の力を発動するのに必要な感性など俺には備わっていないからだ。


 当然の如く、俺は教師に『魔法ディザ・ベル』を使用した。

 質問の中にヒントを紛れ込ませ、レイノでも答えられるレベルにする。

 時折教師の方から俺に合図を送らせ、答えをレイノに教えることもあった。


「おかしいわね……。何だか今日の補習授業はやけに簡単だったわ」


 帰り道の最中、首を傾げながらそう呟くレイノ。

 ミュンヘン家は訓練校から目と鼻の先だが、俺は彼女を家まで送る。

 しかし、ふと校庭で立ち止まる。


「? どうしたのかしら? 急に立ち止まったりして」


 不審がるレイノ。

 このまま家まで届けてもつまらない。

 俺は腕を伸ばし、彼女の額に人差し指を当てる。


「なっ……」


 身体をビクンと揺らし、レイノは硬直する。

 指先から放たれた氷の微粒子はレイノの体内を駆け巡る。

 そして俺は彼女の脳内を探索する。

 今回の『魔法ディザ・ベル』の検証。

 それは――。


「どうかしたしたのか、レイノ?」


 震えている彼女を少し離れて観察する。

 今、彼女の脳内では氷の微粒子がある部分・・・・を刺激している。

 そして大量の脳内物質を産生している。


 話には聞いたことがあった。

 恐怖や快楽といったものは、心ではなく脳から発生するものだと。

 俺はこの力を得てから毎晩、自身の脳に氷の結晶を送り込み、検証を重ねていた。

 どうしたら、効率よく人を操ることが出来るのか。

 氷の微粒子はどのくらいの量がベストなのか。

 そして偶然発見した脳内のある部分・・・・

 そこを氷の微粒子で刺激すると、全身に快楽を齎す脳内物質が産生された。


「な……に、これ……」


 両足をガタガタと震わせ、その場にしゃがみ込んでしまったレイノ。

 例の如く、俺は彼女の意識を残したまま、その光景を見て楽しんでいる。

 

 徐々に息が荒くなっていくレイノ。

 あまりやりすぎると快楽により精神が崩壊してしまうだろう。

 そうなってしまっては面白くない。

 だが、万が一壊れてもすぐに元に戻すことは可能だ。

 レグザの時のように時間を巻き戻せばいいのだから。


「調子でも悪いのか? 肩を貸そうか?」


「いや! 触らないで!」


 俺の伸ばした手を振り払うレイノ。

 今や彼女の全身は性感帯だらけだ。

 少しだけ俺の手に触れただけで、大きく身体を震わせたレイノ。


(くくく……。シイラといい、こいつといい、どうして俺の周りの女は虐め甲斐のある奴らばかりなのだ……)


 肩を竦めた俺は再び彼女を視姦する。

 触るなと言うのであれば、望み通りそうしてやろう。

 いつまでそれが続くのかは分からないが。


「ん……ああっ……! 何よ……これ……! 貴方……わ、たしに何を……?」


「何のことだい? いきなり君が震えだしたから肩を貸そうとしただけじゃないか。何処か痛むのか? 胸も苦しそうだし医者でも呼ぼうか?」


 あくまで恍ける俺。

 人気のなくなった薄暗い校庭で、彼女の甲高い声だけが木霊する。

 意外に可愛い声で鳴くじゃないか。

 このクズ女は。


「あっ……! んんっ……! た、助けてクレル……! 私……何だか頭がボーっとしてきて……」


 俺に懇願するようにそう言うレイノ。

 しかし俺は手を貸さない。

 お前が『触るな』と命令したのだ。

 俺は見下した表情で彼女を見る。


「そんなに大きな声を出すと誰かが来るぞ。淫らな姿を見られてもいいのか?」


「あ……」


 目に涙を浮かべながら、レイノはドレスの裾をきつく噛み締める。

 快楽に耐える少女をただ眺めているだけというのも案外面白いものだ。

 我慢し切れなくなった彼女は自身の身体に手を伸ばす。


「おっと。レイノお嬢様。そんなはしたない真似はおやめ下さい」


 俺はすぐさま彼女に命令する。

 自身の身体を触れられないように拘束する。

 涙を流し、俺に懇願するレイノ。

 もはや先程までの高飛車な少女の影はそこにはない。


 満足した俺は彼女に掛けた『魔法ディザ・ベル』を解除する。

 それと同時に地面に伏したレイノ。

 泥だらけになってしまったドレスを気にもせず、彼女は大きく肩を震わせ息をする。


「もう二度とミリアを困らせる真似はするなよ」


 半分放心状態となっているレイノにそう言い放つ。

 そして彼女を強制的に立たせ、もう一度、今度は彼女のドレスに『魔法ディザ・ベル』を掛ける。

 見る見るうちに泥が払われ、綺麗になっていくドレス。


「さあ、家まで送ろう。あまり遅くなるとミュンヘン伯爵も心配するだろうからな」


「……クレル……。貴方はまさか……」


 何かに気付いた様子のレイノ。

 しかし俺は何も答えない。


「……いいわ。行きましょう」


 そう言ったレイノは覚束ない足取りで先に進む。

 思っていたのと少し違う反応を見せたレイノ。

 もっと喚き散らすかと思ったが、一体どういうつもりなのか。


(どうする……? 念のために記憶を消しておくか……?)


 一晩中『魔法ディザ・ベル』を掛けておく場合と違い、記憶を消すだけならば副作用の心配はまず無いだろう。

 何かの弾みで記憶が戻る場合もあるかも知れないが、その時はその時だ。

 対処法など幾らでも考えつく。


 俺は彼女の後を追いながら思案し続けた。





 ミュンヘン伯爵家まで到着した俺はレイノと分かれ自宅へと戻る。

 結局、彼女の記憶は消さずにおいた。

 俺の脅しが効いたのか、それとも俺の力を利用しようと考えたのかは定かではない。

 どちらにせよ、あの『意外な反応』には興味があった。

 シイラに次ぐ2人目の玩具おもちゃ――。

 ミュンヘン家はいずれ俺の野望の脅威となるだろうから、早めに陥落させておくことに越したことはない。

 今後も事ある度に快楽に溺れさせてみようか。

 案外、それがレイノの望みなのかもしれない。



「只今戻りました」


 玄関を開けるとメイドの一人に出迎えられる。

 シイラはすでに別館に戻ったのだろう。

 俺はメイドに挨拶し、自室へと戻る。


「ふぅ……。今日は色々とあったな。流石の俺も疲れ――」


「お兄ーちゃん!」


「うわっ!」


 ドアの後ろに隠れていたミリアに後ろから抱き着かれ声を上げる。


「遅かったね。あんまりにも遅いからレイノちゃんの所にでも泊まってくるのかと思っちゃった」


 そのまま俺の背に乗るミリア。

 俺は溜息を吐き、そのままの格好で部屋の奥へと進む。


「そんなわけないだろう。思った以上に補習が長引いたんだよ」


 俺は背中に乗ったミリアをベッドに降ろす。

 そして上着を脱ぎ、ハンガーへと掛ける。


「レイノちゃんの補習授業はいつも長時間だからね……。大丈夫だった?」


「ああ。それと今度からレイノは、ちゃんと自分で勉強するそうだ。良かったな、ミリア」


「え? 本当に? レイノちゃんがそう言ったの?」


 ベッドに腰を下ろし、足を交互にバタつかせながらミリアが聞いてくる。

 まるで子供だ。

 俺と出会った3年前から何も変わっていない。

 俺は優しい笑顔で返事をする。


「まあ、レイノちゃん、何だかんだでお兄ちゃんのこと好きだからなぁ」


「え?」


「あれ? もしかしてお兄ちゃん、気付かなかった? いつも私といるときはお兄ちゃんの話ばっか聞きたがるんだよ? それで私いつも『私のお兄ちゃんなんだから駄目だよ!』って言うんだけど――」


 いつものミリアの話が始まる。

 しかし今回ばかりはその話が頭に入ってこない。


(レイノが俺のことを、好いていた……?)


 もしそれが本当の話だとしたら、先程の彼女の反応はどういう意味だったのだろう。

 好きだった男に魔法で快楽を与えられ、視姦されたレイノ。

 それでは脅しにもならない。

 俺はレイノを喜ばせただけ、ということになる。


「……くくく。何だそれは。俺は一体何をしているのだ……」


「? お兄ちゃん……?」


 つい仮面を外し、普段の俺に戻ってしまう。

 駄目だ。

 ミリアの前では良き兄で居続けなくてはならない。

 俺は表情を戻し、ミリアの話に耳を傾ける。


「ああ、なんでもない。それで?」


「うん、それでね。レイノちゃんって、こんなこと言ったら悪いんだけど、成績があまり良くないの。今回も補習をクリア出来なかったら本当に落第していたかもしれなかったの。それをおじ様に凄く怒られたみたいで、私、それを聞いて可哀相になっちゃって――」


 ――そうか。

 訓練学校で成績が悪いということは、『技』の才能に恵まれていないということになる。

 もしかしたらそういった理由で、俺のことが気になっていたのかも知れない。


(……あの反応はそういう意味だったのか)


 『技』を使えない、もしくは才能に乏しい人間は恐らく同じ様な思考になるのだろう。

 幼い頃に、ほとんどの人間が読んだことのある童話。

 そこに登場する伝説の『魔法ディザ・ベル』。

 もしかしたらレイノも憧れていたのかも知れない。

 『神の力』に――。


 俺はミリアの話を聞きながら、少しだけレイノに同情する。

 この世界では『技』の良し悪しで全てを決定付けられてしまう。

 ミュンヘン伯爵家は『生産職』の権威として、訓練学校に多額の資金を提供している大家だ。

 その名門の令嬢が『技』の才能に乏しいとなれば、彼女の今後は決められたも同然だ。

 家を継ぐことも出来ず、下手をすれば家の名を汚した者として追放されてしまう恐れもある。


(レイノ・ミュンヘン、か……。面白い。彼女の野望は俺に匹敵するものなのか、それとも――)


「お兄ちゃん、聞いてる? もう……。すぐに別のことを考えちゃうんだから……。顔を見ればすぐに分かるんだからね!」


「うわ!」


 再び俺に覆い被さってくるミリア。

 彼女の温もりが俺を包み込む。


「……ミリア?」


 急に押し黙ったミリアに声を掛ける俺。


「……お兄ちゃん、最近変だよ。すぐにボーっとしたり、なにか別のことを考えたり……。何だか私、寂しいよ……」


 俺の胸に顔を埋め、悲しそうにそう呟くミリア。

 確かにミリアの言う通りだ。

 俺はミリアの気持ちを知ったが、ミリアは俺の気持ちを知ることは出来ない。

 そのまま優しく彼女の頭を撫で、ギュッと抱きしめる。


「すまない、ミリア。俺にはお前だけだよ。お前がいれば、俺はそれで満足だ」


 これはきっと、俺の本心なのだろう。

 しかし、俺は『神の力』を手に入れた。

 俺には俺の野望がある。

 ミリアを幸せにし、俺は世界に名を轟かせる。

 全ての人間を俺の前に跪かせ、俺は『世界の王』となる。


「……お兄ちゃんの胸、あったかい……」


 幸せそうにそう呟くミリア。

 今だけは、思考を停止しよう。

 ミリアの愛情を、快く受けいれよう。


 俺達はそのまましばらくの間、抱き合った。

 彼女の温もりが、俺の冷たい心を溶かしていく。


 彼女だけは、何があっても守り抜こう。


 『絶対の幸せ』を、ミリアに――。


 

 俺はそのまま眠りに落ちた。



















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