17、双子のリミッターと再びのヤギ
《今一度モンディスカ家一覧》
父 オノレ辺境伯
母 カタリナ辺境伯夫人
長兄 ブラッドフォード次期辺境伯
長兄妻 エメライン次期辺境伯夫人
次男 ギデオン
三男 グエン
四男 ジャレッド(双子1)
五男 ジェフリー(双子2)
六男 レスター
七男 ヴァージル
長女&末っ子 オフィーリア(主人公)
「殿下。こちらが双子の兄、四男ジャレッドと五男ジェフリーの主に使っている修練場です!」
「ここが? 何というか……」
殿下が戸惑うのは分かる。なぜならば……。
「……変なことを言ってすまない。あそこにある塔のようなものが、まるで僕の飼っていた猫のお気に入りの場所に似ているな、と……あと回し車はも飼っていたげっ歯類を思い出すよ」
それはそうだ。
家族もそう思っているのだから……。
「あと、この壁は……鋼鉄? だいぶしっかりとした作りだ」
「ええ、じゃないと簡単にぶっ壊れてしまうんですよ」
そうギデオンが白い歯を見せて言う。
「ぶっ壊れるって……? というか……この広い空間の壁一面。もしかして鋼鉄製?」
殿下が辺りをキョロキョロする。
確かに異様だ。わずかな明かり取りの窓とも呼べない複数の穴以外の壁が甲板のようになっているのだから。
「っていうか、全然ひとの気配しないじゃん……アイツらサボってるな? おーーーい。ジャレッド! ジェフリー!?」
グエンが叫ぶと一部猫タワー上部……じゃなかった、遠く塔の上でムクリと起きる二つの影があった。
「えー想定より早いなーもう来たのか……」
「だりー……真面目かー……」
他の人には届かないが、私の耳がそんなジャレッドとジェフリー呟きを拾う。
相変わらずやる気がなく、気怠げだわ。
「二人とも降りてきて正式に殿下に自己紹介しろ! 次兄ギデオンの命令だ!」
ギデオンが叫ぶと、暫く二つの人影は動かなかったが、面倒くさそうに立ち上がる。
「「はい、はーい……」」
そして二人はその場で地面を蹴って宙に向かってぴょんと空へと一歩踏み出した。
因みに高さは十メートル。高さでいえば三、四階の高さ。
「……――危ない!?」
殿下が思わず叫ぶ。しかし、心配には及ばない。
「大丈夫です。何故ならアイツラは……」
ジャレッドとジェフリーはあっという間にに地面に着いた。
普通まともに足から着地すれば、人の体重で骨が折れる。
けれど着地したと同時にトランポリンに降りたみたいに、身体はまた勢いよく宙へと舞い上がった。
「え……?」
殿下が困惑する。
ボインポインぽよよーんと地面に着くたびに二人は空中に跳ね返され、慣れている二人はそれに寝転んだ様な格好で空中でくつろいだり、あくびをしている。
だが、最後はそのまま跳ね返らず丸まって高速回転して殿下の目の前でキュキュキューっと止まり、シタッとシンメトリーに立ち上がって敬礼をした。
「……四男ジャレッド」
ジャレッドは髪を左で分け左目下にホクロ青と金のオッド・アイ。
「……五男ジェフリー」
ジェフリーは髪を右で分け右目下にホクロ、金と青のオッド・アイ。
「「“高速ジャンピング・ボール”のリミッター。ここに参上いたしました!!」」
さらに言うとこの二人は私より女顔で美人である。おまけに気怠げで憂いもあるせいか色気も私よりあるという。ぐぬぬ〜……!
「あ、オフィーリア……デート行ってきたんだろ〜」
「僕らお兄ちゃん達にお土産はー?」
しかもそう言って二人して左右から私に抱きつき、勝手に髪の毛をいじったり、アクセサリーをいじったり、服をぐいぐい引っ張り、ほっぺたに許可もなくチューしてくる。
「勝手に触らないで!!」
それで毎度私がブチ切れるのがお約束だ。
「あー……オフィーリアが怒った……」
「怒るとブスになるよー……?」
「あ、でも、すでに顔は俺達のが美人なんだよな……」
「そう言えばそうだ……」
「「ごめんね……オフィーリア」」
そう、可哀想な子を見るような同情の視線を投げてくる。
「コイツら殴ってもいい!? グエン!」
「別に殴ってもいいけど効かないぞ? ボールだから……」
「ムカつく!?」
だけど殿下は腕を組んで顎にてをやり、難しい顔をしている。
「今のは……演出的なものでしたが、あれで本気で飛び込まれたら……?」
「はい、まさに縦横無尽な大砲の玉も同じ。人間にぶち込まれたら、まず全身の骨は粉砕します……」
殿下の疑問にギデオン兄さんが答える。
「しかも双子のコンビネーションで、左右、前後、上下とやられたら……逃げ場がないな」
「そうすっね……物理攻撃でいえば、うちの兄弟で一番敵を屠っているのはジャレッドとジェフリーかもしれない。アイツらに狙われて逃げ切れる者はまずいません」
今度はグエンがディアベルゼ殿下の疑問に答える。
「なるほど……とんでもない実力だ。……実に恐ろしいな?」
「「いやいや〜、それほどでも〜」」
殿下の言葉を褒め言葉と解釈し、照れるジャレッド&ジェフリー……。
脳みそお花畑か!
「ディアベルゼ様。ジャレッドとジェフリーにも会いましたし、次はブラッドフォードのところに……」
そう領地視察の案内係として次に行こうとした瞬間、後ろからぐいっと抱きこまれた。
「え〜? 殿下への案内は兄さん達に任せてオフィーリアはもう少しここにいたら……?」
「僕ら、今日のオフィーリア・ポイント、全然、足りてないよー……遊ぼー?」
「知らないよそんなの! はーなーしーてー!?」
しかし私を後ろと横から抱っこをしながら……片方は背中に頭をグリグリし、もう片方は頭をぎゅっとしてヨシヨシしてくる。
「離せ〜(怒)」
だが、それに右目下ホクロのジェフリーが首を傾げた。
「そんな……どうしても嫌ならいつもみたいにリミッターを発動して蹴散らせばいいじゃん?」
ピタリ……。
な、何てことを!? せっかく流れた話題だというのに!
「ほらほら、いつもの逞し…」
「わ゙ーーーーーーーーーーっ!?」
何を喋るつもりだ。このバカ野郎!
「止めてよ! 殿下に話したら絶交よ!?」
「「…………………そこまで殿下には知られたくないんだ? ところでオフィーリア。もう殿下とチューしたの?」」
「そ……それは!」
言おうとして、本能が“待て”と訴える。
ギデオンはもちろん激重シスコンなのには変わらないが、とはいえあれで次兄ゆえか大人だ。
例え妹に彼氏が出来て我慢ならないとしても、だからと言って、それだけで相手に理不尽や暴力は振るわない。
だけどこの双子の場合は――。
「……ま、まま、ままままま、まだだよ?」
「「……………………」」
自分でも分かる。隠せていないわ、コレ!?
「「ふーん……」」
どうしよう、どうしよう!?
で、でで、殿下に危害が〜!!
「あのね、オフィーリアは知らないから幻想を抱いているかもしれないけど……男は性欲が極まったらヤギとも〇〇したりするんだよ……? 知ってた?」
ところがジャレッドは殿下に暴力こそ振るわなかったが、にっこりと綺麗に微笑み。急におかしな話をしだした。
「は………?」
いや、というか何の話!?
「しかも友達と酔った勢いで牧場に行って、ズボンを脱いで追いかけ回すんだ」
さらにジェフリーがさも当然のように続きを話しだす。
「え、え?」
「まあ、人によってはヤギじゃなく鶏だったりするけど……」
「男同士のライブ生〇教育だね?」
はっ? はっ?
「しかも俺の初めて〇〇したヤギが店に出されることになった、皆メリーを食べに行こうぜ! ……って言って、泣きながら食べるんだ。元、自分の〇〇を……?」
「…………」
「ふふ、オフィーリア……男ってそういう狂ったところがあるから気をつけてね?」
「誰かのヤギにならないように……」
そう言って双子は私を二人の腕から解放した。
「…………」
え……グッロい、気持ち悪っ。
「いやいや……どんな話をしているんだ!? オフィーリア今のは――」
そう、次兄ギデオンが私に触れようとした瞬間。私はその手を振り払い、ヒィィッと後退った。
「あ……ごめんなさい、皆さん……暫く私から離れて歩いてもらっても宜しいですか? (ビクビク)」
「いやいや……オフィーリア。ギデオンお兄ちゃんはそんなこと決してしないから!?」
「……………ははっ」
「目が信じてない?!」
怖いわ……。
え、そもそも、え? なんでヤギと??
だって……だって我々は二足歩行の人類なんだよ??
「あーそれはねー、人間の女の子とヤギの✕✕✕がすっごく似てるって俗説があってねー……?」
「……うっるせぇ、ジャレッド!? お前は少し黙ってろ!!」
グエンがさすがにそう額に青筋をたてて吠える。
うう、うう、私これでも純潔のまだピュアな乙女なのに……一生知るべきでないし、得たくも無い知識を得てしまったわ!?
「オフィーリア……顔色が悪いけど大丈夫?」
そうディアベルゼ殿下が眉を下げてしゃがんで心配する。
ああ……っ。
「こんなお優しくて綺麗な顔でヤギと……?」
「いいや、するわけ無いからね!? ……極端なある一部の例を、一般論として受け取らないで!?」
……ということは、殿下も世にそのようなことがあるとは認めるのですね?
「うっうっ、男なんてヤダよー不潔だよー! ……エメライン義姉上〜!」
「あらあら……私をいま呼んだかしら?」
その時だ。
最高のタイミングでカッカッカッカッとヒールを打ち鳴らし、ある意味モンディスカ最強のあの人が現れる。
「まぁまあ、こんなに揃って……初デー……領地視察はどうなったの? でも、ちょうど良かったわ。今、夫のブラッドフォードに手作りのお弁当を持っていくところなの。……皆さんご一緒にお一ついかが?」
ティール色の髪にめったに開かないバーガンディの瞳を細める美貌の御婦人が、颯爽とドレスの裾を翻し、侍女を四人引き連れて歩いてくる。
そう……それこそが次期辺境伯夫人。
我らがエメライン義姉上の再登場であった。




