16、リミッターと防衛の要
《今一度モンディスカ家一覧》
父 オノレ辺境伯
母 カタリナ辺境伯夫人
長兄 ブラッドフォード次期辺境伯
長兄妻 エメライン次期辺境伯夫人
次男 ギデオン
三男 グエン
四男 ジャレッド(双子1)
五男 ジェフリー(双子2)
六男 レスター
七男 ヴァージル
長女 オフィーリア(主人公)
我が国は色んな国と接している。
その中でもモンディスカの土地はあらゆる武力派閥宗教派閥、民族、国が絡んだ重要かつ難しい地域であり、ここを真っ直ぐ南下すればこの国の都にもたどり着く。
そうモンディスカの土地は国にとってまさに守るべき扉であり、要塞なのだ。
そして、その前線たる壁に我ら兄弟は全員“リミッター”と呼ばれる。生まれながらの異能を持っていた。
“リミッター”。
体系型異能とも呼ばれ……自分自身の身体に作用し、体質が普通の人間とは異なりおそろしく超人的であったり、もはや生物を超え……超常現象に近い状態で普通に生命維持ができる。
「あっははは! ディアベルゼ殿下を驚かせたくって……申し訳ない」
「馬が騒いで怪我でもしたらどうするんだよ、兄貴?」
「スマンすまん! 一番乗りしたかったもんだから……つい!」
「いや……でも、こんな貴重なリミッターを見られるだなんて、ここまで来た甲斐がありました」
「でしょう!?」
「…………」
「オフィーリア、どうしてむくれてるんだ?」
現在、馬車には四人が座っていた。
私の向かい側は次男ギデオン。隣には三男グエン。
殿下は私の斜め前に座っていらっしゃる。
「兄さんのどっちかが私と席を変わってよ」
「ああ、狭いし無理だな!」
そう白い歯を輝かせ、ギデオンがニカッと笑う。
この、お邪魔虫ぃぃいい!
「ギデオン兄さん。はっきり言うけど私とディアベルゼ殿下は付き合っていて今は恋人同士よ!」
「は……? ごめん……車輪に近いせいか……ガタゴトとうるさくって聞こえないな?」
「難聴かっ!?」
「オフィーリア……妄想、おままごとはそれぐらいで……殿下を巻き込んではいけないよ?」
ギデオンがそう、ヤレヤレと困ったような笑顔になる。だが私も引かずに追撃を開始する。
「さっきまで殿下の膝の上に乗って、お互いの唾液の交換をしていたの。私……殿下になら裸を見られてもいいかもしれないわ」
だが、ギデオンはそれにディアベルゼ殿下の肩をさっと抱いて外を指さした。
「おお、殿下、殿下……見えて来ましたよ。あれが我がモンディスカ守備の本丸です!」
「聞いて!?」
この激重シスコンが〜!
「あ、そうだ。オフィーリア……はい、これ七男ヴァージルから! 要塞の立体地図だってさ」
そうギデオンが何かを投げてきて私が空中でキャッチする。
一見すると細長い鋼色の棒が二つ並んでくっついたもの。
しかし、七番目の兄ヴァージルをよく知る私はピンときて、棒をそれぞれ両手に持ち、離すと拡がりブオンと要塞内部が詳しく見える立体図がそこに現れた。
気になる所を触れるとそこがズームアップし、より詳しく中を立体的に見ることができるし、角度を変えたり、ライトアップすることも可能だ。さすがはヴァージル!
「え……そ、それは!?」
殿下が驚愕したように目を見開き固まる。それもそうだろう。
「七男ヴァージルはどんな仕組みかは知りませんが……千年後の技術すら可能にする『未来脳』と、どんなことも一瞬で記憶する『完全記憶』のリミッター持ちなんです!」
私が説明すると、次兄ギデオンがさらに補足する。
「『完全記憶』で心的外傷は避けられないので前線には立てませんが……ヴァージルはモンディスカの技術の要。……後方の最重要ポジションを担っているんですよ?」
「それは……凄すぎますね!?」
「……とはいえ、現代の技術が追いついてないから、出来ない事も多々あるんすけどね〜?」
それにさらにさらに兄グエンが追加した。
そうなのよね……ヴァージルがしたいことを全部叶えようとしたら、国家予算百年でも全然足りないかも?
それでも本人はヒーヒー言いながら工夫しているけど……。
とにかく、ヴァージルは我がモンディスカに無くてはならないのだ。
そうして馬車は無事にち要塞へと到着した。
そこでまず目にしたのは――。
「キャーッキャーッ」
「こっち向いて〜!」
「抱いてレスター!?」
まるでそれが一塊の巨大な生物のような……目をハートマークにした女の子集団。
その中心にいる人物に私たち兄弟はすぐに検討がついた。
「うぉおおい、レスター!? 能力を引っ込めろぉ!」
グエンが叫ぶ。
「え〜ん、そんなこと言っても、グエン兄さーん」
すると塊の真ん中から女の子たちが開くように道を開ける。
中から現れたのはシャツがはだけ、長い髪を無造作に流したヘラヘラ顔。
首やら手やら指やらにジャラとアクセサリーを身に着け、耳や顔や舌にまでピアスをつけている。
「今日はイマイチ調子が悪くって調整が利かないんだも〜〜〜〜ん!」
「……あの人物は確か」
殿下が私に静かに尋ねる。
「兄で六男のレスターです。そしてその能力は……」
私が答える前にレスターがタタタタッと殿下の前に走ってきて、片手を額につけ、もう片方をポケットに突っこみニッと笑って敬礼する。
「六男レスター! 史上最強の『フェロモン人間』にございます、殿下!」
そう、レスターは“フェロモン人間”ありとあらゆる“メス”を魅了する特殊能力を持つリミッター。
「おい、殿下の御前なんだから服くらいちゃんとしなさい!」
ギデオンがそう言うと、レスターは「ふぁーい」と間の抜けた返事をしてから、もたついた様子でボタンを留めていく。
「……オフィーリアは平気なの?」
「何故か私と母には全く効きません。……遺伝的な近親交配を察知して、能力側が忌避しているしているのかも?」
「そうなんだ……あれ、では次期辺境伯夫人殿は?」
「エメライン義姉上はロードの知り合いのキッツイ特殊な薬を常用して近くにいても大丈夫なんです。……あと、物理的にある一定の距離を取ればフェロモン効果も切れるので!」
「色んな意味ですごい……」
「おーい、ブラッドフォードが……長兄が見えないぞ? レスター、兄さんは?」
ギデオン兄さんがキョロキョロと辺りを見渡す。
そう言えばそうだ。次期辺境伯はどこ行った?
「ああ……まだ水の中で瞑想してるよ。誰か呼んでるかもしれないけど、水の底だからさ?」
「水底……ブラッドフォード次期辺境伯殿は水系のリミッターなのか、オフィーリア?」
「いいえ違うんですけど……それは道々」
「それより双子が訓練しているはずだから、それを見に行ったら?」
レスターがそう提案する。
それにグエンが頷いた。
「確かに……アイツラならなかなか見応えもあるな。あ、お前は付いてくるなよレスター。……来たかったら女の子剥がしてから来い」
「し、しどい……兄さん」
「要塞ん中は機密だらけだ。当然だろう!」
グエンが呆れたように返す。だよね?
「でも……それならヴァージル兄さんの立体地図も良くないんじゃない?」
だって超詳細だよコレ? ……しかも持ち運べるし!
「あ、それは大丈夫だ。三時間でその道具の内部記録が消えるらしいから」
そんな当然の疑問に、ギデオン兄さんがヴァージル兄さんに代わってに答える。
いやだから、どんな技術力なのヴァージル兄さん!?
まったくもう、非常識すぎる!
そこでディアベルゼ殿下に肩をとんとんと叩かれた。
「……ところでオフィーリア。一番知りたいリミッターを教えられていないんだけど」
ディアベルゼ殿下がそう私の顔を覗く。
「一番知りたい“リミッター”?」
お、資料を読み込んだ殿下のことだわ。どれのことかしら?
ここは案内役としてバシーッと決めないとー!
「はい、どれでございましょうか!?」
「オフィーリア。……君の“リミッター”は何?」
「…………」
しばらくお待ちください。
「ああ!? 殿下みてください。空に未確認飛行物体が!」
「……オフィーリア?」
私はすぐさまギロリと兄たちを睨みつける。
言うなよ〜、言うな〜!?
それを鋭く察してか、それぞれがあらぬ方を向いて知らんぷりしだした。ヨシ!
「わ、私のことは置いといて……早く双子を見に行きましょう!」
「君のことだから凄い能力なんだろう?」
く、殿下が誤魔化されてくれないわ?!
「申し訳ございません。教えられません……どうしてもって言うなら、殿下とお別れします!」
「!!」
だが、そこでギデオンが目を輝かせた。
「あ、殿下。オフィーリアのリミッターは…」
「ちょっとぉおっ!?」
頭ぶち抜くわよギデオンん!?
「殿下……まあ、ここだけは引いてやって下さい。コイツにもなけなしの羞恥心があるんで……?」
私のかわりにグエンが話を引き間を受け取り持ってくれた。
言い方こそ癪に触るが……さすがは我が兄弟の中で一番良識側にあるだけある。
「羞恥心……に関わることなの?」
殿下が眉間にしわを寄せて見てくるが、思わずそっぽを向く。
だって……知られたら嫌われるもの!
それこそ殿下の方から……別れてほしいと言い出すかもしれない。
「はい、この話はこれでおしまいですね! では……先に進みましょう」
私は無理やり話を切り上げ歩き出す。
目指すは双子だ!




