15、性的魅力と兄の乱入
馬車に乗ったと同時にカーテンを降ろされ。殿下に抱き寄せられ、口の中を舐められ舌を吸われる。
「あ、あ……ゃ……、ん!」
というか当然の様に膝抱っこ。
ディアベルゼ殿下とのキスは最初から気持ち良かったが、今はさらに感度が鋭く甘くなっている……というかこれは、殿下が私のツボを押さえだしている?
座っているのに、さらに腰から砕けてしまいそう。
ツボを突かれるたんびにビクンビクンと足先にまで電流が走った。
「駄目……駄目……ぁ、……駄目」
口では駄目と口にながら、身体はカモン、ヘイ、バッチこーい! としている。
ああ、人はこうしてグズグズと欲望に落ち、堕落し、全てを失うのね。
そして、最後に道ばたに座り込んで小銭を強請るようになるんだわ……。
ああ、世は無常。
だがそんな落ちぶれた私の前に一人の白い髭をたくわえた老人が現れた……。
「オフィーリア……脱線しないで?」
「んむーーっ!?」
唇を塞がれながら思わず叫ぶ。
やっぱり……心読んでる!?
ぷはっ! ちょっと休憩。
「殿下……少し、見境がないのではありませんか?」
「だって今日のデートが終わったら君の家族の手前、こんな風になかなか触れられなくなるんだもん……?」
確かに……私はコレでも一応は良家の娘だし、こんなベタベタいちゃいちゃイチャイチャべたたは中々できないわ。
「君には信じられないかもしれないがコレでも一応は我慢してるんだよ。本当に……」
我慢。我慢している。
以前も殿下はそうおっしゃっていた。
……男の人がガマン……。
私は、参考文献として過去の色々な兄達の会話を反芻する。
そして、そこから導き出された答えは……!?
「殿下は……もしや私とのセックスをご所望なんですか?」
「…………」
あ、殿下をまたフリーズさせてしまった!?
え、えーと再起動するには……? キョロキョロ。
あ、動き出した! だけど殿下が盛大なため息をつている!? オロオロ〜どうしよう!
「オフィーリア……?」
赤くなった殿下にそう睨まれる。
「ごめんなさい。殿下は下半身野獣で奔放な兄たちとは別世界に住んでいる高潔な方なのに……ごめんなさい!」
「…………いや」
殿下はそう言って鼻先と口を指でこする。
そんな仕草すら見惚れるような絵になるのだから、ディアベルゼ殿下百景を口絵にしたらさぞかし飛ぶように売れるに違いないわ。
さらに来年には“殿カレンダー”の発売すら打診されるかも……?
「皆さん“殿カレンダー”はご予約されまして?」
「私なんて保存用にと二つ購入いたしますわ!」
「受注してくれて良かった……。転売ヤーには、死あるのみですものー?」
カレンダーの予約販売数は十万部を超える歴史的なメガヒット。
さすがは殿下! と無事に物語はハッピーエンドを迎えた。
というか……。
「殿下に比べれば私程度は石の下のころころダンゴムシなのに、さすがに自惚れが過ぎていました。……忘れてください!」
そもそも私に性的な魅力なんてあるかしら? このヒグマ系に! 正しく色気より食い気。
……だけど、殿下はそれに大真面目な顔になる。
「君の兄君は男として特別ふしだらなわけじゃなく、真っ当だよ……そして、僕も真っ当な男だ」
「そんな〜そのように兄をわざわざ擁護しなくても大丈夫ですよ?」
とはいえ、私も兄さんズを勝手に悪く言い過ぎていたかも……? そこは素直に反省しよう。
「だってオフィーリアの裸を想像した回数は百、千回は下らないだろう」
「え……?」
「そんなものを勝手に妄想して、勝手に興奮しておかしくなっている」
え、つまり……それは……?
殿下がまたチュッとキスをする。
「……上でも下でもオフィーリアと深く繋がりたい。まるで元々ひとつだったみたいに……」
ああ、殿下!
「……いやいやいや、駄目です。嫌です。絶対に無理!?」
「え、えぇっ!?(ガーン)」
「だって……人より変な形や色かもしれないんだもん……!」
私は真っ赤になって答える。
うーそれに、もしかしたら人よりも毛深い可能性もあったりする? ……いやあるかも!?
わ〜ん、こんなことならエメライン義姉上の全身脱毛に乗っとくんだった〜。
「自分じゃ見えないところもあるから確認はできないし、そもそも理想の色形って? ハッ、お、大きさももしや関係がある?!」
「オフィーリア……」
殿下はそれに苦笑したように微笑む。
「君が君であれば僕にはそんなの関係ないんだよ?」
「……ディアベルゼ様!」
ジーン。え、優しい!? 好き。
「というか……自分にしか見せられないところが変な色、形なのも、逆にそれはそれで興奮する」
ん? 何だか想像していた方向性と違うわ??
「そんなの……見てもいないのにどうしてそうだといえるんですか?」
いやいやお優しい殿下のこと……。
私が気負わないようにそう言っている可能性も無きにしも非ずよ!
だけどそこは正直になってほしい。
「それは……自信があるからね?」
うん、これはきっとウソだわ。優しい嘘!
「じゃあ私が今、胸をはだけさせたとしても……本当にそう言えますか!?」
「え」
「胸だけならこの場でも簡単に出せますよ?!」
私はそう言うやいなや、背中のボタン少し外して緩め、襟元に両手をかけた。
だがその時――!?
ドンドンドンドンドン。
と走行中の馬車の扉が叩かれた。
「あ〜〜〜……さすがにそれ以上は看過できないわ」
こ、この声は!?
ガチャリと馬車の扉が開く。何度も言うが馬車は走行中だ。
「はいはい、禁止、禁止。脱衣禁止ー!」
「グエン!?」
現れたのは我が兄。三男グエン!
それを見て、殿下はホッとしたような笑顔になった。
「グエン。……最悪なタイミングにありがとう!」
……ん? 最悪なのにありがとう? 台詞おかしいような?
「殿下……理性と欲望と建前本音が混線してます。惜しい気持ちはすごく分かるけど!」
それに……妹より殿下の肩をやたら持っていない、グエン?
「でも……仕方無いでしょう? 触って舐めて吸ったあと、ディアベルゼのディアベルゼが大人しいままでいるのが……果たして可能なんですか?」
「…………」
ディアベルゼ殿下がサッとグエンから目を逸らす。
でも、グエンも変よ? 触るはまあ分かるとして……吸って舐めるっていったい何?
「赤ちゃんじゃあるまいし、吸って舐めたりなんてしないよ! 大人なのにっ!」
「…………」
何故か殿下は黙っているけど!
「あー、あー、ガキは引っ込んでなさい?」
いやいや、私。当事者なのにぃ!
「ん? というか、今さらだけど……何でグエンがここに……?」
「そりゃあ……命令でずっと張り付いて護衛していたからな」
「……え?」
「だからお前あとで説教な?」
え……?
「殿下……うちの大馬鹿な愚妹が本当にすんませんでした!」
「あーいや、それは大丈夫」
そう殿下が遠い目をする。
「そんなぁ……私、真面目に視察もやってたのにぃ」
なんで? 何が駄目なのぉ?
「オフィーリア……オフィーリアおいで。オフィーリアは悪くないよ。一生懸命案内してくれたもんね。ありがとう。ヨシヨシ」
殿下……やっぱり心読める?
「……オフィーリア。俺に感謝しろよ?」
グエンがそう言う。
「何で……デートを邪魔されて感謝しないといけないのよ。お邪魔虫!」
その時だった。馬車がガタンと派手に揺れ、馬がヒヒーンといななく。
「どうどう……落ち着け!?」
御者が慌てて馬をなだめた。いったい何!?
すぐに窓から外を覗き、馬が暴れた理由にすぐに合点がつく。
グワングワンと大きな火柱が大蛇のように空中を暴れ回り、馬車の目の前が一瞬、火の壁に覆われ、そこから不気味な顔が現れるとニヤリと笑った。
そしてそれが消え去ると後方から火に覆われた人間が悠々と歩いてくる。
「あれは……“リミッター”!?」
殿下が火でできた人間に目を釘付けにしながら呟く。
それにグエンはニヤリとしながら答えた。
「そう……あれが炎の“リミッター”」
火に覆われた人間からはやがて火を消し飛び、その本来の姿を現す。その人物は――。
「モンディスカ家の次男ギデオンです」
いつもの爽やかな笑顔でにっこり、やあっ! とばかりに片手をあげるその人だった。




