10、【閑話】野望と秘密 ※三人称小説
「本当……義姉上ってば、いきなりぶっこむんだから、ヒヤヒヤするよ」
そう三男グエンは、モンディスカのディアベルゼを囲んでの初めての晩餐のあと、エメラインを呼び出し文句を言った。
この柳腰にたおやかな雰囲気の青緑……ティール色のストレートの長い髪と、深い葡萄酒のようなバーガンディの瞳。
そのオシャレで知的な色彩はまさしく名は身体を現すようだ。
「『国最高峰の軍事力を誇る我が辺境伯家と……後ろ盾、実力共に極太な第三王子……国……いいえ大陸すらひっくり返す最強のジョーカー・カードだわ!』だなんて言うんだもんな……まったく」
それにエメラインはクスクスと笑う。
「あらあら……貴方のお仕事をやりやすくしたのよ? ――それこそ慌てた内通者を炙り出しやすいようにね?」
「それ! ……それも他に言わないでね。とくに馬鹿オフィーリアには!」
グエンは、はあっとわざとらしくため息をついてみせるが、エメラインには一切響かない。
「もちろんよ……第三王子ディアベルゼ殿下の影の近衛筆頭たるグエン隊長殿」
「……だから〜」
あっさりバラされる秘密にグエンはことさら厳しい顔になった。
しかしそれにイタズラが成功した子供のようにエメラインは細めている目をさらに細めニッコニコだ。
「大丈夫よ……私の“迷路”は音も歪むもの。私たち以外外部の人間は聞き取れないわ?」
「さすがは……天才“ロード”のエメライン義姉上様」
呆れとも感嘆とも言える言葉がもれた。
「それにあの言葉には本心もあるしね?」
「本心?」
エメラインがパシンと扇子を広げる。
「私はね。これでもオフィーリアだけじゃなく……義弟の貴方たちもそれはそれは可愛いと思っているのよ?」
「へえ〜そうなんだ?」
「そうよ? ……だから守るばかりでなくいい加減、攻め込んで、六人の弟一人一人にせめてモンディスカくらいの大きさの領地をあげたいのよ。……それに見合う実力が皆にはあると信じていますから」
度肝を抜くような話だった。
というかどれだけスケールが大きいんだこの人物は……グエンが思わず鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「そりゃあまた……でっけー話だな」
でも、本当に恐ろしいのはエメラインなら本当に呆気なく叶えてしまいそうなところだ。
「……こら! そこはもっと欲張るところよグエン。『国ひとつ寄越せ!』って具合に!」
しかし、エメラインはグエンの反応に不服なようで、プンプンと怒る。
「いやどんな煽りなんですか。……俺、物欲ひくいもん」
実際グエンは物欲が低く、剣でも何でもお下がりでいいという省エネな生き方を旨としていた。
「まあ……それでも戦士? それでも漢!?」
だが、それにさらにエメラインは憤慨する。
「貴方ほどの人が……勿体ないでしょう!」
「……お言葉ですが、戦士、漢にも属性と種類があるから」
グエンが呆れながら言った。
そうしてまたグエンはエメラインを見る。
ティール色の長いまつ毛。
鮮やかな赤い唇。
鈴の様な……軽やかで品のある声。
(ま、そういうエメライン義姉上の過保護で熱いところが俺は好きなんだけどさ……)
それはグエンが決して表に出さない義弟を超えた感情だった。
それこそまさに、墓場まで持っていかなくてはならない秘密。
というか、バレたらその場で死のうと思っている。
「戦線で過激なことする時は、ちゃんとブラッドフォード兄さんに許可を取ってよね?」
それにエメラインはキョトンとした後にすぐに嬉しそうにする。
「当然ですわ……。何しろ夫婦は一心同体なんですから!」
それにグエンはぎこちなく笑う。
だが、エメラインから見れば兄夫婦の惚気にうんざり参っている義弟にしか見えないだろう。
そう、エメラインはただ家同士の取り決めや盟約だけで嫁いで来たのではなく……長兄ブラッドフォードと想い合う、それは仲睦まじい夫婦だった。
暖炉の前に座り、家族団らんの時も二人は手と手を重ね。お互いを瞳に映し合っている……。
それがグエンの心臓を知らずに抉るが、そんなことを彼女が知る必要はない。一生。
(本当。一年の半分は家を出て、大正解)
そう、グエンは内心ぼやき、頭をボリボリと搔いたのだった。




