表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/24

石本の中少女

いつも『白日の石刻』を読んでくださり、本当にありがとうございます。


今回は物語が大きく動き始める一話です。


国家図書館に百年以上保管されていた、誰にも読めなかった一冊の石本。

そこに記されていたのは、クラルの名前ーー


ここから少しずつ、この世界の真実へ近づいていきます。


最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。


重苦しい沈黙が部屋を包んでいた。


石本に浮かび上がった文字。


《クラリス・エピタフへ》


その一文だけで、国家図書館の空気は変わってしまった。



クラルだけが置いていかれている。


何が起きているのか分からない。



分かるのは…


みんなが自分より何かを知っているということだけだった。



そんな中。


黒い正装姿のステラがゆっくり歩いてくる。


クラルはようやく声を出した。


「え、おばあちゃん?」


「なんだい」


「なんでおばあちゃん?」


「なんでとは失礼な子だね」


ステラは呆れたようにため息を吐いた。



「……あんた、ハンカチ忘れただろ」


「え?」


「忘れただろ?」


「…忘れた!」


「ほらみろ、だから届けてやったんだよ!」



ステラはポケットから綺麗に畳まれたハンカチを取り出した。


「はい!」


「あ、ありがとう」


「まあ、いつものことだからね!気にしなくていいよ」



その直後。


周囲がざわつく。

「おい……まさか」


「あの方が……黒衣の司書官ブラックコート


「国家図書館最高位司書官…」


「館長と同格とまで言われる方だぞ……」


クラルは思わず祖母を見る。


(え……?)

 

(おばあちゃんってそんな偉い人なの?)



国家図書館最高位司書官。


黒衣の司書官ブラックコート



そんな肩書きよりも忘れたハンカチを届けてくれたのはいつもの祖母だった。


クラルは少しだけ安心した。



だが周囲の司書官達は全く安心していなかった。


館長も含めて全員の視線は石本へ向いている。



まるで今にも何かが起きることを知っているように…


そして、石本が淡く光った…



世界が白く染まる。


音が消えた。


足音さえ響かない。


果ての見えない白だけが、どこまでも広がっている。


風もない。


匂いもない。


まるで世界そのものが止まってしまったようだった。



「……え?」


クラルは辺りを見回した。



石刻は何度も経験している。


けれど、こんなことは初めてだった。


石本が、自らクラルを導いた。


心臓だけが、嫌なほど大きく鳴っている。




そしてさっきまでいた、書記官、司書官の姿もない…




自ら導いてきた石本…


なのに、記憶がない。


感情がない。


景色がない。


誰かの人生が始まらない。


ただ真っ白だった。



その時!


遠くに人影が見えた。


少女だった。


ゆっくりこちらを向く。


そして。


クラルは息を呑んだ。


「……え?」


自分が立っている。


そう思った。


鏡を見ているわけじゃない。


それなのに、自分自身を見つめられているような感覚だった。


目の前に立つ少女は、自分と見紛うほどよく似ていた。


顔も。


背丈も。


体格も。


何もかも同じ。


鏡を見ているわけじゃない。



違うのは。


髪だった。


黒い髪。


黒い瞳。


夜のような黒色。


少女は静かに微笑んだ。


そして。


優しく。


懐かしそうに。


言った。


「やっと会えたね」



クラルは動けなかった。



少女は続ける。


「あなたを待っていた」


少女が少し寂しそうに笑って


「……ようやく」




次の瞬間。


その世界が割れた。



クラルが現実へ引き戻される。


真っ二つに割れた石本が音を立てて崩れ始めていた。



パキッ。


パキッ、パキッ!!


「なっ……!?」



石本が砕ける、ひび割れる、白い欠片が机へ散る。



書記官達が立ち上がった。


「何があったんだ?!」


「まずい!」


「崩壊している!」


「押さえないと!」


誰かが叫ぶ。


だが止まらない。


百年以上保管されていた石本は、まるで限界を迎えたかのように崩れていく。



その時、重い扉が開いた。



書記官に連れられてきた女性が声を上げた!


「下がってください」


静かな声だった。


若い女性。


絹のように美しい銀髪。


眉の上で揃えられた前髪。


冷たいほど整った顔立ち


「ノアだ!」

どこからともなく、誰かが叫んだ!


「まさか…」


「灰読士だ!」


「ノアが来たぞ!」


「あの噂の…」


「砂になった石本から最後の言葉だけを読む少女だ」と誰かが言った!!



その後ろには大きな鞄を背負った少年と老人もいる。


「シグさん、ガレフさんまで!!」


クラルが言うと、二人は一瞬こちらに目線を送るが急いで机の前へ進み出た。


そして崩れかけた石本へ手を伸ばす。


「修復を始めますね…」


静かな声。


アルヴェイン・ルクス館長が「お願いする」と返した。



指先が石へ触れる…その瞬間、淡い青い光が走った。


砕けた欠片が震える。


崩れていた石版同士が少しずつ繋がり始める。


まるで見えない糸で縫い合わせるように。



《修復綴理・バインダー》

砕けた石は、見えない糸で縫われるように静かに繋がっていく。


壊れた石本を繋ぎ止める希少な能力。



やがて崩壊は止まった。


しかし。


全ては戻らない。


砂になった部分が残っている。


白い砂。


ノアはそれをそっと手のひらへ集めた。


誰よりも丁寧に。


大切なものを扱うように。


そして祈るように両手に包んだ砂を胸元に寄せた


すると手元が黄色い光で包まれる…




ーー



館長が静かに口を開く。


「ご苦労だった」


ノアは一礼する。


そして、館長が問いかけた。



「ノア?君には何が見えた?」


部屋が静まる。


ノアは少しだけ砂を見つめた。



ほんの一瞬、迷うように…


そして、顔を上げる。



「…いいえ」


静かな声だった。


「何も見えませんでした」 



館長はしばらく黙っていた。


崩れた石本を見つめる。


そして静かに目を閉じた。


「……そうか」


その一言だけだった。


けれど、その表情には、長い年月を知る者だけが浮かべる諦めにも似た色が宿っていた。



ーー


騒ぎが落ち着いた頃には日も傾き始めていた。


クラルは結局。


何一つ分からないままだった。


黒い少女のことも。


石本のことも。


なぜ自分が呼ばれたのかも。



帰りの回廊。


高い窓から夕日が差し込んでいる。


その中を歩いていたノアへ、後ろから声がかかった。


「ノア?」


振り返る。


そこにはステラが立っていた。


ノアは静かに頭を下げる。


ステラは少しだけ微笑んだ。


けれど、その瞳だけは真っ直ぐノアを見つめていた。


「最後の言葉…読んだんだね」


ノアは答えない、否定もしない。


ただ黙っていた。


それだけで十分だった。


ステラは小さく息を吐く。


「ありがとう、黙っていてくれて」


その声はどこか安堵していた。


「私も今じゃないと思っていたからね」



夕陽の中。


ノアは一歩だけステラへ近づく。


そして耳元で、


砂から読み取った最後の言葉を、そっと告げた。


『…あなたの力が必要なの』


ステラの瞳が、わずかに揺れた。



百年以上閉ざされていた時間が、


今ーー


静かに動き始めた




白日の石刻 (リトグラフ・ヴェリタス)

それは、死者が最後に綴る、生者への手紙。




最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

黒髪の少女は誰なのか…

なぜ石本はクラルだけを導いたのか。

そして、ノアが胸に秘めた「最後の言葉」とは…

ここから物語は動きますよー!


もし「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや★★★★★で応援していただけると、とても励みになります!

『白日の石刻』は毎週【金・土・日】20時10分に更新しています。次回もぜひお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ