魔法都市の賑やかな晩餐
土曜日なのに読みに来てくださってありがとうございます!
今回は、マジラフの夜。
魔法都市ならではの、ちょっと不思議で賑やかな食事回です!
クラル、ノア、シグ、そしてファントム。
四人で囲む食卓が、少しずつ楽しい時間になっていきます。
ぜひ一緒に、マジラフの夜を楽しんでください♪
思い浮かぶ様に頑張って書いてるんですが伝わるといいなー
宿へ戻った頃には、すっかり日も暮れていた。
窓の外では、昼間とは違う色の魔法灯が通りを照らしている。
青、紫、淡い橙。
石畳にはその光がぼんやりと滲み、行き交う人々の影をゆらゆらと揺らしていた。
昼間、あれだけ街を歩き回ったというのにーー
クラルは、やけに元気だった。
どうやら魔法都市マジラフが、よほど気に入ったらしい。
あの後もノアと一緒に、掛けると景色が変わって見える眼鏡を試してみたり、魔法を唱えると質問に答えてくれる宝箱に話しかけたり。
そのたびに、
「ノア! これ見て!」
「ちょっとクラル、待ってよ!」
二人であっちへ行き、こっちへ行き。
結局、夕暮れまで街を一通り歩き回った。
シグは途中から完全に付き添いの顔をしで付き合った。
「……二人とも、よく疲れないな」
そんなシグの呟きも、クラルの耳にはほとんど届いていなかった。
――そして今。
「……お腹空いた」
さすがのクラルも、ようやく足を止めた。
散々歩き回ったせいか、空腹を自覚した途端、お腹が急に重くなった気がする。
「私も」
ノアが自分のお腹へ手を当てる。
「じゃあ、下の食堂行こうよ!」
「賛成」
「やっと飯か……おなかぺこぺこだよ俺」
シグが深いため息をついた。
三人は宿の階段を下り、一階の食堂へ向かった。
そしてーー
入口をくぐったところで。
三人揃って足を止めた。
「…………」
「…………」
「…………」
想像していた食堂とは、まるで違った。
ぱちん!
少し離れたテーブルで、透明な球体が弾けた。
途端に、
ふわぁっーー
真っ白な煙がテーブルいっぱいに広がる。
「おおー!」
周りの客たちから一斉に拍手が起こった。
煙がゆっくり晴れていく。
その中心に現れたのは、表面をこんがりと焼かれた大きな肉だった。
艶のある肉汁が表面を伝い、煙と一緒に香ばしい匂いが漂ってくる。
「……なに、あれ」
クラルが目を丸くする。
だが驚く暇もない。
別のテーブルでは、
ぼっ!
青い炎が一瞬だけ高く上がった。
「わっ!」
思わずクラルが身を引く。
しかし炎はすぐに消え、その代わりに料理の周りを小さな光の粒が舞い始めた。
ひらひら。
青、黄色、桃色。
光の粒は蝶のように料理の上を二、三度旋回すると、消えていく…
さらに向こうではーー
「待って! 待って待って!」
子供が、宙に浮かぶ果物を必死に追いかけていた。
果物は捕まりそうになるたび、ふわっと逃げる。
周囲の大人たちは、それを見て笑っていた。
クラルが目をキラキラさせながら
「待って待って待って」
「何?」
「ここ、ご飯食べるところだよね?」
「……たぶん」
ノアも目をぱちぱちさせている。
シグはしばらく無言で食堂を見渡していたが、
「……普通に皿に乗せて持ってきちゃ駄目なのか?」
「マジラフだからね!」
「その一言で全部片づけるのやめろよな」
その時だった。
ぱちん!
また別の席で何かが弾けた。
赤い光が一瞬だけ天井近くまで舞い上がる。
「わぁー!」
なぜかクラルまで拍手した。
ぱちぱちぱち。
「……クラル、嬉しそうだな」
「ってか、シグもでしょ?! すごかったもんね!」
すると料理を前にしていた見知らぬ家族が、クラルたちを見て笑った。
父親らしき男が軽く手を振る。
クラルも嬉しそうに振り返した。
「ふふっ」
ノアが笑う。
どうやら、この街ではこれが普通らしい。
自分たちの料理だけではない。
誰かのテーブルに面白い料理が運ばれれば、近くの客も一緒になって笑う。
魔法がうまく弾ければ拍手。
派手に炎が上がれば歓声。
少しくらい失敗しても、それすらみんなで笑って楽しむ。
食事そのものが、一つの小さな催し物になっているのだ。
「……なんかいいね、こういうの」
ノアが食堂を見渡しながら言った。
「うん!」
クラルも笑う。
シグも周囲を眺めながら、小さく頷いた。
「こうして幸せそうで賑やかなご飯いいよな…」
それが、この魔法都市マジラフの文化なのかもしれない。
ーーそして。
「ファントムさん?」
クラルが振り返った。
少し離れたところに、黒い外套姿のファントムが立っていた。
壁際。
少し離れた場所から三人を見ている。
「…………」
「何をしてるんですか?」
「私は……」
「四人でしょ?」
「いや、私は護衛でーー」
「四人で食べるんでしたよね?」
「…………」
クラルが当然のように空いている椅子を引いた。
ぎっ。
木の脚が床を擦る。
「どうぞ」
ファントムは椅子を見る。
クラルを見る。
もう一度、椅子を見る。
「…………」
やがて諦めたように歩み寄り、静かに腰を下ろした。
クラルが満足そうに頷く。
「はじめからそうすればいいのよ」
「クラルが強引なんだと思うよ」
「だな」
「二人とも、どっちの味方なの!?」
ファントムは何も言わない。
だがーー
先ほどから、やたらと周囲を見ていた。
ぱちん!
「…………」
ふわぁっ。
「…………」
どん!
「…………!」
ほんのわずかに肩が動いた。
クラルは見逃さなかった。
じーっ。
「……ファントムさん?」
「何だ」
「めちゃめちゃ楽しんでますよね?」
「…………」
「今の顔、絶対そうだよね?」
「しかも、こうしてみんなで食べるのに慣れてない」
「普通だ」
「いや、普通じゃねぇな」
シグが笑った。
ファントムが、ゆっくりシグを見る。
「…………」
「怖い怖い!」
ノアが口元を押さえて笑う。
クラルもつられて笑った。
ファントムだけが無表情だった。
――少なくとも、本人はそのつもりだった。
その時。
「お待たせいたしました!」
給仕係が運んできたのはーー
宙に浮かぶ、大きな透明の球だった。
ゆらゆらと四人の目の前まで漂ってくる。
「…………肉?」
クラルが思わず立ち上がる。
「お肉…だよね!?」
ノアも立った。
「おい、座れよ!み、見えないだろ!!」
シグは座ったまま見上げているが動揺を隠せない様子だ。
透明なシャボン玉のような膜。
その中には、こんがりと焼き上げられた大きな燻製肉が浮かんでいた。
さらに肉の周囲を、白い煙がゆっくりと渦巻いている。
「《はじける燻製肉バルーン・スモーク・ミート》でございます」
給仕係が笑顔で説明する。
「サクラとオークの香りを、魔法の煙に閉じ込めております。指で突いて割ってお楽しみ…失礼、お召し上がりください」
クラルの目が輝いた。
「やろう!」
ファントムも含め四人が、それぞれ指を伸ばす。
クラルが三人を見る。
「せーの!」
ぱちん!
瞬間。
ふわぁぁぁ……。
温かな煙が、テーブルいっぱいに広がった。
「うわっ!」
甘みを含んだサクラの香り。
その奥に、オークの深い燻煙。
そして、焼きたての肉から立ち上る香ばしい肉汁の匂い。
全部が一度に鼻へ飛び込んできた。
クラルが目を見開く。
「絶対美味しい!!」
「まだ食べてないでしょ」
「匂いでもう分かる!」
「確かにね」
周囲のテーブルから拍手が起きた。
ぱちぱちぱち。
クラルも嬉しくなって拍手を返す。
「ありがとうございます!」
シグが笑った。
次に運ばれてきたのは、深い器だった。
その上には、大きな薄緑色のシャボン玉が、蓋のようにふわりと乗っている。
「《そら豆の雲海スープ》でございます」
「また割るやつ!」
クラルが身を乗り出す。
「クラル、絶対割りたいだけでしょ」
ノアが呆れたように笑う。
「今回は俺が割る」
「え!?」
クラルが振り向いた時には遅かった。
シグが先に指を伸ばす。
ぱちん。
ふわっーー
濃厚なそら豆の香りを含んだ温かな湯気が立ち昇った。
弾けた魔法の雫が、きらきらと光りながらスープへ落ちていく。
ぽつん。
ぽつん。
雫が触れるたび、スープの色が少しずつ変わっていく。
やがて器いっぱいに、柔らかな緑色が広がった。
「おお……」
今度はシグまで声を漏らす。
「シグも楽しんでるね!」
「…これは気持ち上がるだろ」
四人でスプーンを取る。
温かなスープを口へ運ぶ。
「……美味しい」
ノアが目を細めた。
そら豆の甘みのあとから、バターのようなまろやかな香りが広がっていく。
クラルはすぐ隣を見る。
「ファントムさん! 料理どうぞ!」
「ありがとう」
「美味しい?」
「…………」
ファントムがスープをもう一口飲む。
「……悪くない」
「あはは、悪くない…ってどういう意味ですか?!」
「そういう時は美味しいって言うんです!」
ファントムは答えなかった。
ただ……
もう一口。
今度は先ほどより少しだけゆっくりと、スープを口へ運んだ。
そして最後に運ばれてきたのは色とりどりの、小さな球だった。
赤。
橙。
紫。
黄色。
ベリーや柑橘の果実が、小さなシャボン玉に一つずつ包まれ、テーブルの上をふわふわ漂っている。
「《パチパチ果実泡》でございます。こちらは、そのままお口へどうぞ」
「そのまま!?」
クラルが目の前の赤い球へ手を伸ばす。
ふわっ。
逃げた。
「待って!」
もう一度。
ふわっ。
また逃げる。
「なんでよ!?」
横からーー
ぱくっ。
ノアが紫色の球を口に入れた。
ぱちん!
「ん!」
口の中で弾けたらしい。
ノアの目が丸くなる。
「美味しい!」
「あ、口の中紫色!いいな、ずるいよノア!」
「早い者勝ちだよ」
「そういう料理じゃないだろ」
そう言っていたシグの目の前を、橙色の球が横切る。
「…………」
目で追う。
ふわふわ。
「…………」
ぱくっ。
ぱちん!
「シグも何気に必死じゃん!」
「美味いな」
「シグまで…私もやる!」
「ファントムさんもやらないとみんなに取られるからね!」
気づけば四人とも、宙に浮かぶ果実を追いかけていた。
その時。
赤い球が一つ、ふわふわとファントムの前へ流れていく。
「ファントムさん!」
「…………」
「はい!」
クラルが指先で球を弾いた。
赤い球が、ファントムの顔へ向かって飛ぶ。
「ーー!」
ファントムは反射的に!
ぱくっ。
ぱちん。
「…………」
三人が見る。
じーっ。
「どう?」
「……悪くな…」
ファントムが一瞬止まる。
三人の視線が集まっている。
「…………美味しいな」
「ちゃんと言い直した!」
クラルが笑った。
ノアも笑う。
シグまで肩を揺らした。
ファントムは何も言わなかった。
ただーー
次に近づいてきた小さな紫色の球を、ファントムは自分から口に入れた。
ぱちん。
三人とも、そこには触れなかった。
――その時。
クラルが、テーブルの端に置かれていた一枚の紙を見つけた。
「ん?」
何気なく手に取る。
そこには、色鮮やかな文字でこう書かれていた。
――《魔法菓子作り体験》――
焼き上がると踊り出すチョコマフィン。
感情で色が変わるアイシングクッキー。
「…………」
クラルが顔を上げる。
ノアを見る。
ノアもクラルを見る。
二人同時にーー
シグを見る。
嫌な予感がしたのか、シグの眉がぴくりと動いた。
「……何だよ」
「明日、魔法のお菓子作り体験があるんだけど……行かない?」
ノアが即答した。
「そりゃ行くでしょ!」
「いや、俺はどうし…」
「じゃ、決まり!」
「俺の意思は!?」
「あははっ!」
クラルとノアが笑う。
「勝手に決めんなって!」
そう言いながらシグも笑っていた。
その向かいではーー
ファントムは近づいてきた小さな紫色の球をまだ追っている。
ぱくっ。
ぱちん。
小さな音が弾けた。
「…………」
そしてーー
「……ごちそうさま」
椅子を引き、立ち上がる。
ファントムはそんな三人を一度だけ振り返る。
ほんの一瞬だけ、その口元が緩んだように見えた。
けれどすぐに、いつもの無表情へ戻ると、そのまま食堂を出ていった。
明日は、魔法菓子作り体験。
焼き上がると踊り出すチョコマフィン。
感情で色が変わるアイシングクッキー。
「……楽しみだね」
「うん!」
「俺はまだ行くって言ってないぞ」
「行くでしょ?」
「……行くけど!」
「あはははっ!」
ぱちん!
どこかのテーブルで、また魔法が弾けた。
歓声と拍手が食堂いっぱいに広がる。
窓の外では、色とりどりの魔法灯が夜の石畳を照らしていた。
マジラフの夜はーーまだまだ、賑やかだった。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
今回は戦いや事件はちょっとお休み。
魔法都市マジラフらしい、楽しい晩餐回でした!
ファントムも少しずつ三人に巻き込まれてきましたね(笑)
そして次回は《魔法菓子作り体験》
焼き上がると踊り出すチョコマフィンに、感情で色が変わるアイシングクッキー。
たぶん、普通には終わりません(笑)
「続きも読んでみたい!」と思っていただけましたら、
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明日もお楽しみに〜
皆さんの応援が、次のお話を書く大きな力になっています。
次回もよろしくお願いします!




