四人目は気配を消して…
日曜日なのに読みに来てくれてありがとうございます。
今日も魔法都市マジラフを楽しむクラル、ノア、シグの三人。
……のはずだったのですが。
賑やかな大通りを歩いていたクラルが、突然足を止めました。
どうやら…ずっと気になっていたことがあるようです。
クラル、時々すごい能力発揮しますからねww
今回も楽しんでください♪
魔法都市マジラフの大通りは、どこを見ても目が忙しかった。
宙に浮かぶ看板。
勝手に開いて客を招き入れる扉。
店先では、小さな箒が誰に言われるでもなく石畳の上を掃いている。
「そういえば……」
ノアが辺りをきょろきょろと見回した。
「箒に乗った魔法使いって、見ないね」
どこか残念そうだ。
「確かに!」
クラルも箒を目で追う。
「私も魔法使いって言ったら、箒と黒猫だと思ってた」
「でも、よく考えたら魔法でも空を飛ぶなんて、そう簡単にはできないんじゃないか?」
シグの言葉に、クラルとノアの肩が同時に落ちた。
「なんだー……」
「残念……」
「なんで二人してそんなに落ち込むんだよ」
三人はそのまま大通りを進んでいく。
相変わらず、目の前にはどう見ても上り坂が続いている。
なのに歩けば歩くほど、景色は低くなっていく。
「この街、普通の道ないのかよ」
シグが呆れたように言う。
「楽しいじゃん!」
クラルは上機嫌で、二本の三つ編みを揺らした。
「次、あっち行こう!」
「行こう行こう」
ノアも楽しそうに頷く。
「せっかくマジラフに来たんだよ? 全部見ないとね!」
「全部って……この街、どれだけ広いと思ってんだ」
「じゃあ何年もいようか!」
「そういう問題じゃないだろ」
そんな会話をしながら、三人が賑やかな通りを歩いていたーー
その時だった。
クラルの足が、ぴたりと止まった。
「……ちょっと待って」
「ん?」
ノアとシグも立ち止まる。
クラルは何も言わない。
少しだけ眉を寄せると、くるりと向きを変えた。
腰に手を当て、そのまま大通りの端へ、ズカズカと歩いていく。
「……クラル、どうしたんだ?」
「さあ?」
二人が顔を見合わせる。
クラルが向かった先には、建物と建物の間に細い路地があった。
その角で立ち止まる。
目の前にあるのは…ただの壁。
「あのー?!」
クラルが壁に向かって声をかけた。
「…………」
返事はない。
「…………」
シグが真剣な顔でノアを見る。
「なあ、ノア…」
「ん?」
「クラル、とうとうあからさまに頭どうにかなったんじゃないか?」
「聞こえてるからやめてあげて!」
クラルが勢いよく振り返った。
「いや、だってクラルお前……壁に話しかけてるぞ?」
「壁じゃない!」
「私にも壁に見えるけど……」
ノアまで言った。
というよりーー
紛れもなく壁なのだ。
「もう!」
クラルは再び路地の角へ向き直った。
そして、何もない空間を睨む。
「ちょっと、あなた!」
少しだけ声が低くなる。
「前に私たちを助けてくれた人ですよね?」
ノアの表情が変わった。
シグも、クラルの視線の先を見る。
……やはり、誰もいない。
クラルは一歩前へ出た。
「ファントムさん!!」
その瞬間だった。
風も吹いていないのに…路地の景色が、揺れた。
水面に指を落としたように。
何もなかったはずの空間へ、薄い歪みが広がっていく。
「……え?」
シグが目を細めた。
歪みの中から、輪郭だけがじわりと浮かび上がる。
肩。
外套。
腕。
そして、人の姿。
まるで景色の中から抜け出してきたように。
一人の男が、そこに立っていた。
「……全然分からなかった」
ノアが目を見開く。
「俺も……」
シグも呆然としている。
クラルだけが腰に手を当てたまま、その男を見上げていた。
「やっぱり!」
「…………」
ファントムは答えない。
「グランヴィアから、ずっと付いてきてましたよね?」
その言葉に、今度はノアとシグがクラルを見る。
「ずっと?」
「いつから気づいてたんだ?」
「王都を出た辺りから……かな?」
「かな?」
シグの眉間に皺が寄る。
すると、ファントムが静かに口を開いた。
「正確には、グランヴィアを出てからだ」
「ほら!」
「ほら、じゃねえよ!」
シグが頭を抱えた。
「なんでお前だけ分かるんだよ!」
「知らないよ!」
「俺、この人が今ここにいることすら分からなかったぞ?」
「私も」
ノアもファントムを見つめている。
ファントムは、国家図書館の司書官暗部を束ねる人間だ。
気配を消し。
人目を避け。
時には護衛対象にすら、その存在を悟らせない。
そのファントムをクラルは見破った。
しかも、随分前から。
ファントムはしばらく黙っていた。
やがて、クラルへ視線を向ける。
「……なぜ分かった?」
「え?」
「私が隠れていることだ」
「んん……」
クラルは腕を組んだ。
真剣に考える。
考えて、考えて…首を傾げた。
「なんとなく?」
「…………」
「…………」
「…………」
路地に、なんとも言えない沈黙が落ちた。
シグがぼそりと呟く。
「なんとなくで見破られる隠密って何なんだよ……」
「私に言われても知らないって!」
ファントムは何も言わなかった。
ただーー
ほんの少しだけ。
クラルを見る目が変わった。
「それより!」
クラルが一歩前へ出る。
「どうして、ずっと付いてきてるんですか?」
「それは……」
ファントムが口を開きかける。
「前も助けてくれたし、国家司書官で、おばあちゃんの部下だっていうのも聞きました。でも、ずっと黙って付いてこられるのは怖いです!」
「それはそうだな」
シグが頷く。
「俺も説明は聞きたい」
ノアもファントムから目を逸らさない。
三人の視線を受け、ファントムは小さく息を吐いた。
「王家発行の通行証を使っただろう」
「通行証?」
クラルが首を傾げる。
「王都でギルドに宿を紹介してもらう時に見せたやつだよね?」
「ああ」
ファントムは頷いた。
「あの通行証を所持する者は、王家にとって一定の保護を必要とする人物として扱われる」
「保護……」
「クラルとノアの場合は、護衛だ」
二人の表情が少しだけ真剣になる。
「今回二人の護衛は国家図書館が担当している。王家から連絡が入り、必要に応じて司書官が付く。実際に動くのは、私の部下たちが中心だ」
「じゃあ……」
ノアが口を開いた。
「あなたも、その護衛で?」
「いや」
ファントムは首を横に振った。
「私は今回、その任務を受けていない」
「え?」
クラルが目を丸くする。
「じゃあ、なんで付いてきたんですか?」
「……前の件があったからな」
その一言で。
三人の表情から、笑みが消えた。
工芸都市グラニス。
オスカーさんから受けた依頼。
護衛がいたにもかかわらず、クラルたちは襲われた。
そして…ガレフが死んだ。
あの時、最後に姿を現し、クラルたちを助けたのふがファントムだった。
「今回は別件だ。ステラさんと……私自身の判断で様子を見ている」
「やっぱり尾行じゃん」
クラルが言った。
「護衛だ」
「隠れて付いてくるのは尾行ですよ」
「護衛だ」
「尾行」
「護衛だ」
「どっちでもいいだろ。兄弟喧嘩かよ」
シグが割って入った。
ファントムは小さく息を吐き、周囲へ視線を向ける。
「ただ……」
その声が、少しだけ変わった。
「本来なら、王都を出た時点で司書官の護衛が何人か付いていてもおかしくない」
「え?」
「私の部下たちだ」
ファントムは路地の奥へ目を向けた。
「グランヴィアを出てからここまで、一度も気配がない」
シグの表情が険しくなる。
「それって……どういうことだ?」
「分からない」
即答だった。
「別の任務へ回された可能性もある。あるいは、護衛の必要なしと判断されたのかもしれない」
「…………」
「今の段階では、私も国家図書館へ戻っていないから何とも言えないが……」
クラルは、じっとファントムを見つめていた。
やっぱり。
まだ、全部を信じることはできない。
でも、グラニスでは助けてもらった。
ステラおばあちゃんの部下だとも聞いている。
だからといって。
ずっと後を付けてきて、突然姿を現した暗部の人間を「はい、そうですか」と信用できるほど、クラルも素直ではなかった。
隣を見る。
ノアは、クラルの手を強く握っている。
シグも腕を組み、ファントムをじっと見ていた。
「……怪しい」
クラルが言った。
「おい」
シグがすかさず突っ込む。
ファントムの眉が、わずかに動いた。
「だって怪しいです!」
「本人に言うなよ」
「でも…」
クラルは少し考えた。
「おばあちゃんの部下なんですよね?」
「そうだ」
「おばあちゃんが信用してる?」
ファントムは少しだけ間を置いた。
「ああ」
「……じゃあ」
クラルは腕を組んだまま唸る。
「とりあえず、信じます」
そして、すぐに付け足した。
「全部じゃないです」
「……そうか」
なぜかファントムは、それ以上何も言わなかった。
クラルはさらに続ける。
「でも!」
びしっ、と人差し指を突き出した。
「護衛なら、これからは私たちの目につくところにいてください!」
「…………」
「なんなら、一緒に同行してもいいですよ?」
「いや、それは大丈夫だ」
即答だった。
「早っ! 嫌なの!?」
ノアが小さく笑う。
シグも肩を揺らした。
「そんな即答することないでしょ!」
「いや……す、すまない」
「謝らなくていいから!」
クラルは頬を膨らませる。
「じゃあ……」
少し考えて。
ぱっと顔を上げた。
「夜ご飯くらい、一緒に食べましょう!」
「おい!」
シグが声を上げた。
「いいのかよ!?」
「何が?」
「何がって……お前、まだ怪しいって言ったばっかだろ!」
ノアも心配そうにクラルを見る。
「クラル、大丈夫?」
「大丈夫でしょ」
「なんで?」
クラルは、改めてファントムを見る。
全身黒ずくめ。
気配を完全に消し。
王都からマジラフまで、自分たちに気づかれないよう付いてきた。
……普通に考えれば、かなり怖い。
クラルは少し考えてから言った。
「本当にやばい人なら…」
シグとノアがクラルを見る。
「私たち、もう死んでないかな?」
「…………」
シグが止まった。
ノアも止まった。
二人は顔を見合わせる。
「……確かに」
「あいつら、そういえば簡単に襲ってくるからな」
「でしょ?」
クラルが得意げに胸を張った。
するとーー
ノアとシグが、同時にクラルを見る。
じーーーーっ。
「……何よ」
ノアが首を傾げる。
「クラル……だよね?」
「はぁ?」
シグがクラルの顔を覗き込んだ。
「変装とかしてないか?」
「ちょっと!」
「クラルがこんな名探偵みたいなこと言うなんて……」
「ノアまで!?」
クラルの声が路地に響いた。
「あんたたち、私をどういう人だと思ってるのよ! そういえば、さっきもヤバいやつ扱いしてたよね!?」
ノアが吹き出す。
シグも堪えきれず笑った。
「笑うなー!」
そんな三人を…ファントムは、黙って見ていた。
しばらくして。
「……分かった」
「え?」
クラルが振り返る。
ファントムは小さく息を吐いた。
「夜の食事は……一緒にしよう」
一瞬。
クラルの顔が、ぱっと明るくなる。
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ決まり!」
「マジかよ……」
「シグも食べるでしょ?」
「食うけど」
「ノアも!」
「もちろん」
クラルは満足そうに頷いた。
「じゃあ、四人ね!」
その言葉にファントムが、ほんの一瞬だけ黙った。
「……なら、俺のことはファントムと呼んでくれ」
少しぎこちなく続ける。
「よろしく頼む」
「うん! 改めて、私クラル。よろしくね、ファントムさん!」
「私はノアです。これから仲良くしてください」
「俺はシグ。まあ……よろしく頼むよ、ファントムさん」
「ああ」
「じゃ、気を取り直して行くよー!」
「おー」
クラルが元気よく大通りへ戻っていく。
ノアとシグも、その後を追った。
ファントムだけがその場に残った…
少しずつ遠ざかっていく三人。
その一番前。
二本の三つ編みを揺らしながら歩くクラルの背中を、じっと見つめる。
国家図書館の暗部のトップ
その中でも、彼の隠密を見破れる人間など、いない。
それを。
あのクラルは「なんとなく」と言った。
「……なんとなく、か」
ファントムが、小さく呟く。
そして。
誰にも聞こえない声で、もう一言。
「ステラさんにしか……バレたことないんだぞ」
大通りの向こうから、クラルの声が飛んできた。
「ファントムさーん! 置いてくよー!」
「……ああ」
ほんの少しだけ。
ファントムの口元が緩んだ。
そして、三人の後を追った。
今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪
ついにファントム、捕まりました(笑)
誰にも気づかれず護衛していたはずが、クラルには王都を出た頃からバレていたという……。
しかも理由は、
「なんとなく?」
クラルらしいですね(笑)
そして、少し距離が縮まり。三人から四人へ。
でも最後。
「ステラさんにしか……バレたことないんだぞ」
クラル自身も分かっていない、このなんとなく…果たして本当に、ただの勘なのでしょうか。
魔法都市マジラフでの旅は、まだまだ続きます。
来週も金・土・日、20時10分にお会いしましょう♪
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