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魔法都市の歩き方

こんばんは!今回の話は、魔法都市マジラフで迎えた、最初の朝。


昨日はゆっくり見られなかった街へ、クラルたち三人が繰り出します♪


さて、魔法が当たり前にある街って、どんなところなんでしょう。


書いててワクワクしてながら書いた回です!!



その日の朝。


宿を出たクラルたちは、そのまま中心街へと続く大通りへ向かった。


そして、三人揃って足を止めた。


「……すご」


クラルの口から、思わず声が漏れる。


昨日は到着したばかりで、ゆっくり街を見る余裕なんてなかった。


けれど、改めて目の前に広がるマジラフの街並みを見ているとーー


まるで、開いたばかりの飛び出す絵本の中へ迷い込んでしまったようだった。


建物の間を、淡い光が飛び交っている。


店先の看板は誰も触れていないのに勝手に向きを変え、遠くでは色とりどりの煙が、細い尾を引きながら空へ昇っていた。


魔法のすべてが集まるとも謳われる街。


魔法都市ーーマジラフ。


「行こう!」


クラルが嬉しそうに駆け出した。


「転ぶなよ」


シグが笑いながら続き、ノアもその後を追う。


旅の疲れも。


昨夜のシグの夢騒動も、ノアだけは光が反射して眩しさはあったが…


今は、どこかへ吹き飛んでいた。


――


三人が最初に足を踏み入れたのは、中心街へ続く大通りだった。


そこで…


「……え?」


ノアが立ち止まった。


「おかしくない?」


「何が?」


クラルが振り返る。


ノアは、目の前の道を指差した。


「この坂」


見れば、確かにかなりの急勾配だった。


どう見ても上り坂だ。


「登ってるはずなのに……」


ノアが数歩進む。


「景色が、どんどん低くなってない?」


「え?」


クラルとシグも歩いてみる。


一歩。


二歩。


三歩。


「…………」


三人は顔を見合わせた。


身体が軽い。


むしろ、階段を降りているような感覚だった。


なのに目の前の道は、どう見ても上へ伸びている。


「なにこれ!」


クラルが笑った。


「ちょっと待て」


シグが今度は反対方向へ歩き出す。


見た目は下り坂。


ところが…


「うわ、重っ!」


途端に足取りが重くなった。


「なんで下り坂の方がしんどいんだよ!」


「シグ頑張ってー!」


「ちょっとクラル!手を貸してくれ!」


「やだ!」


「クラル!」


「ノアに頼んでよ!」


「ノア、スベスベだから眩しいんだよ!」


「それ言えてるわ!」


「……二人とも!」


笑いながら逃げるクラルとシグをノアが追いかける。


ところが三人とも坂の感覚がおかしくなっているせいで、走っているのか、登っているのか、降りているのか分からない。


その後ろで、ノアまで笑い出した。


「ふふっ……変な街」


まるで空間そのものが、訪れた人間へ知恵比べを仕掛けているようだった。


――♪


ー♪ーー♪


どこからか、軽快な音色が聞こえてきた。


「音楽?」


クラルが足を止める。


弦楽器の音だ。


三人が音を追って広場へ出ると、一人の音楽家がバイオリンを奏でていた。


その周囲には、大勢の人だかりができている。


だがーー


三人が驚いたのは、演奏そのものではなかった。


「……音が、見える」


ノアが呟いた。


弓が弦の上を走る。


その瞬間ーー


キラキラと輝く半透明の音符が、音色と一緒に宙へ飛び出した。


「わぁ……!」


光の五線譜が空中を波打ち、その上を音符たちが楽しそうに跳ねていく。


高い音は空へ舞い上がり。


低い音は石畳すれすれを滑っていく。


建物の壁にぶつかった音符はーー


パチンッ。


小さな星屑になって弾けた。


クラルとノアが目を輝かせる。


するとノアが、するりとクラルの腕へ自分の腕を絡めた。


二人並んで、光の音符を見上げる。


通りを歩く人々は、もう慣れたものだった。


頭上を飛んでいく音符をひらりとかわす人。


指先で音符を突いて遊ぶ子供。


触れられた音符はーー


――リン♪


小さな鈴のような音を鳴らして消えていく。


その時。


シグの目の前へ、一つの音符が飛んできた。


「……へぇ」


シグが指先で弾く。


――リン♪


もう一つ。


――ラン♪


さらにもう一つ。


――リン、ラン♪


「シグ?」


クラルが振り返った。


シグは飛んでくる音符を、次々と指先で弾いていた。


しかもーー


バイオリンの旋律に合わせている。


――リン♪


――ラン♪


――リン、リン♪


いつの間にか、その音まで演奏の一部になっていた。


周囲の人々が足を止める。


演奏していた音楽家もシグを見て、にやりと笑った。


次の瞬間。


弓を大きく走らせる。


いくつもの光の音符が、一斉にシグへ飛んだ。


「おいおい……」


そう言いながらも、シグは笑った。


右手。


左手。


次々と音符を弾いていく。


――リン♪


――ラン♪


――リン、リンッ!


そして、最後の一音。


――リンッ!


演奏が終わった。


一瞬の静寂。


直後ーー


わあっ、と広場から拍手が起こった。


「すごい!」


クラルも思い切り手を叩く。


ノアも目を丸くしていた。


「シグ、そんなことできたんだ」


「修復士なめんなよ。指先は器用なんだ」


少し得意そうに言うシグ。


クラルとノアは顔を見合わせた。


そしてーー


「じゃあ料理作ってもらおう!」


「なんでそうなる?」


三人の笑い声が、広場に響いた。


――


そこから先も、マジラフは少しも三人を退屈させてくれなかった。


市場へ入ればーー


「そこのお嬢さん!」


「え?」


クラルが振り返る。


「こっちこっち!」


声の主を探す。


右。


左。


けれど、人はいない。


「下だよ!」


「……下?」


恐る恐る視線を落とすと、籠いっぱいに積まれた赤い果物が、楽しそうに身体を揺らしていた。


「美味しいよー」


「甘いよー」


「買っておくれよー」


「…………」


クラルが固まった。


その中の一つが、ぴょこんと跳ねる。


「煮込んでも美味しいよ!」


「…………」


クラルはゆっくりノアを見る。


「あんなこと言われたら食べられないよね」


「うん」


ノアも真剣な顔で頷いた。


すると、


「食べてくれよ!」


果物が叫んだ。


「ってか、罪悪感!!」


店主が腹を抱えて笑っていた。


――


さらに歩けばーー


今度は路地裏に、何枚もの魔法の絨毯が並んでいた。


出番を待っているらしく、四隅の飾りをそわそわと揺らしている。


「昨日の宿にもいたよね」


クラルが近づく。


すると、一枚の青い絨毯がするするとこちらへやってきた。


クラルの前を通り過ぎる。


「……あれ?」


そのままシグの前も通り過ぎた。


「俺も違うらしい」


そして、ノアの前で止まった。


「私?」


絨毯が大きく上下する。


まるで頷いたようだった。


次の瞬間。


左右の飾りが伸びて、ノアの手を取った。


「え?」


くるんっ。


「わっ!」


ノアが一回転した。


「ちょ、ちょっと……!」


絨毯はお構いなしだ。


右へ。


左へ。


くるり。


まるで舞踏会の相手をするように、ノアを踊らせていく。


「ノア! 上手!」


クラルが手を叩く。


「違う! 私、何もしてない!」


「絨毯に気に入られたな」


シグまで笑っている。


「見てないで助けてよ!」


そう言いながらもノア自身も、途中から笑っていた。


――


歩けば歩くほど。


曲がり角を一つ越えるたびに。


見たこともない魔法が、次々と三人の前へ飛び出してくる。


王都グランヴィアとも違う。


工芸都市グラニスとも違う。


ここでは、魔法は特別なものではない。


道にも。


音楽にも。


市場にも。


そして、人々の暮らしにも。


当たり前のように溶け込んでいる。


「すごいね、マジラフ」


クラルが笑う。


ノアも頷いた。


「うん!」


シグは辺りを見回しながら、肩をすくめた。


「一日じゃ足りないな」


その言葉にクラルの目が輝く。


「じゃあ明日も来よう!」


「そういう意味じゃ……」


シグは何か言いかけて…やめた。


「……まあ、いいか」


三人はまた笑った。


頭上では、さっきの広場から飛んできたのだろうか。


小さな光の音符が一つ、風に乗って流れていく。


クラルはそれを目で追いながら、笑った。


昨日着いたばかりなのに。


もう少しだけ、この街にいたいと思った。


魔法都市マジラフ。


三人はまだ知らなかった。


この街にはまだまだ、見たことのない魔法が溢れていることをーー



今回はマジラフを思いっきり楽しむ三人でした♪


変な坂に、光の音符。

喋る果物に、踊る魔法の絨毯。


こういう「魔法が特別じゃなくて、暮らしの中に普通にある街」をずっと書いてみたかったんです。


そしてシグ。

修復士の指先の器用さを、まさかこんなところで発揮するとは(笑)


クラルもノアもシグも、久しぶりに何も考えず笑っている気がします。


でも、マジラフはまだまだこんなものじゃありません。


次回も、この不思議な魔法都市をもう少し歩いてみましょう♪


いいなって思っていただけたら、ブクマ、星5評価、にこちゃんでリアクションお願いいたします!!


毎週、金、土、日の20時10分に投稿しています。


この時間でお願いします。

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