三つ編みの朝
ベルカ村での依頼を終えたクラル。
新たな出会いと、再会を約束して彼女は故郷へ帰ります。
今回は旅の合間の穏やかなひととき。
クラルとステラのクスッと笑える日常を、ゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです!
ベルカ駅のホーム。
ガレフの勧めで、もう一泊だけ世話になることになった。
その代わり、クラルは朝一番の汽車に乗ることにした。
クラルは大きな鞄を背負い肩に掛け直す。
シグも工具鞄を担いだ
「またどこかで会えるといいね!」
「はい、会えると思いますよ!」
クラルは頷いた。
「中央都市ミラに呼ばれてるから」
「え?」
シグが首を傾げる。
「昨日宿の酒場で晩御飯を食べている時に、シグが言ってたから。あ!私もって思ったんです」
「国家書記官だっけ?」
「違いますよ。私、資格持ってないです!」
「呼ばれたの?」
「はい!」
二人で首を傾げた。
なぜかは意味は分からない。けれど事実だった。
国家図書館から正式な招集状が届いていたのだ。
「まあ行けば分かるんじゃないかなーって?」
クラルは言った
「そうだね…ってか、クラルはその考え方で今まで生きてきたの?」
「はい、おかしいかな?」
「凄いなぁ……」
シグは呆れたように言った。
たぶん褒めてはいない。
その横でガレフが鼻を鳴らす。
「お前が言うな」
「ジジイ!僕は迷子になるだけだよ」
「十分だ!」
「ジジイはいつも口が悪いな!」
「誰のせいだと思ってる」
昨日から変わらないやり取りにクラルは笑いっぱなしだ。
二人ともこれが普通なのだ。
汽車の汽笛が長く鳴った!!
「じゃあミラで会いましょう」
「ああ」
「また会えるのを楽しみにしてるよ」
白い煙が空へ昇る。
クラルは二人が見える窓際に座った。
列車はゆっくりと動き始めた…
シグが手を振る。
ガレフは振らない。
けれど最後に少しだけ帽子を持ち上げた。
帽子を軽く持ち上げる、その何気ない仕草が妙に格好よく見えた。(今度やってみよう。)
ーー
数時間でリトスフェル村に着いた
「ただいまー!!」
勢いよく扉を開けた瞬間だった。
「クラルぅぅぅぅ!!!!」
雷が落ちた。
「ひっ」クラルは縮こまった。
ステラおばあちゃんが腰に手を当てている。
怒っている。ものすごく怒っている!
「何日帰って来てないと思ってるんだい!!」
「お仕事じゃんか!」
「日帰りって言ってなかったかい?おばあちゃんが心配するとは考えなかのかい?」
「心配?何に?!体調管理?!」
「違うわーー!!」
ステラおばあちゃんが怒鳴る!!
「あんたはアホの生まれ変わりなのか?!」
「じゃあ、そういう時、私はどうすれば良かったでしょうか?」クラルは聞いた。
「自分で考えなさい!」ステラは強く言う
「はい、よく食べて!」
「違う!」
「んーー、よく寝る?!」
「違う!!」
「健康第一!」
「だから違うわ!!」
「一日でも手紙をよこしなさい!!汽車が走ってるところなら1日で届くから…分かった?」
「書こうと思ったもん!」
「思っただけで書いてないじゃないか!!」
「うっ」
正論だった。
クラルは肩をすくめる…
そして次の瞬間。
ぎゅっ。
「わっ」
ステラへ抱き付いた。
「なっ!」
「会いたかったー!」
「誤魔化すな馬鹿!!」
怒鳴っている。
……なのに、抱きつくクラルを本気では引き剥がせない。
「離れなさい!」
「やだー」
「離れろ!」
「やだー」
「子供か!!」
「子供だ!!」
「16歳だろうが!!」
結局。
ステラが根負けしたーー
その日の夕方。
テーブルいっぱいの料理。
焼きたてのパン。
シチュー。
サラダ。
果物。
クラルは幸せそうに頬張る。
「おいしい……」
「ちゃんと食べてたのかい?」
「食べてたよ」
「本当かい?」
「たぶん」
「食べてないね」
そこも見抜かれるクラル。
そして、食べて、満腹になって、お風呂にも入って、その結果…
クラルは寝た。
翌朝
「……」
ステラは目を細めてクラルを見た…
ベッドに…いや、半分落ちているクラル。
お腹を出して寝ている。
毛布と上半身は床、足だけベットだ。
枕はどこかへ消えている。
幸せそうな顔で寝ている。
「…どうしたらこうなるんだいこの子は」
その時だった。
「むにゃむにゃ」とクラルが動く。
「おばあちゃん…」
寝言だった。
「三つ編み…して」
ステラは少し目を細めた。
綺麗な亜麻色の長い髪…
昔から変わらない二本の三つ編みのおさげ。
クラルは子供の頃からそれが好きだった。
眠い時。
悲しい時。
寂しい時。
嬉しい時。
いつでも必ずステラに頼む。それが習慣になりクラルの定番のヘアスタイルになった。
「大きくなったんだか、なってないんだか」
窓の外では、春風が緑を揺らしている。
旅をして、知らない人と出会って。
遠くの村を歩いて、石本を開いて…
それでも、帰ってくれば、この子は昔のままだ…
ステラはそっと床に変な形に落ちているクラルの頭を撫でた。
「今日もあとで可愛い三つ編みにしてあげようかね」
ステラはそう言うと、眠ったままのクラルの髪を指で梳いた。
さらさらの亜麻色。
子供の頃は短かった髪も、今では肩を大きく越えている。
それでもーー
(三つ編みして!)
毎朝起きるたび言ってくるクラルは昔から何ひとつ変わらない
「……んへへ」
良い夢でも見ているのだろう。
「まったく」
ステラは苦笑した。
窓の外では、春風が草花を揺らしている。
ーー
テーブルの上には、国家図書館から届いた招集状が置かれていた。
数日後。
クラルはその手紙を持って、《中央都市ミラ》へ向かうことになる。
その手紙を見たステラは、ほんの少しだけ視線を止めて目を細めた…
白日の石刻 (リトグラフ・ヴェリタス)
それは、死者が最後に綴る、生者への手紙。
第5話を読んでいただき、本当にありがとうございました!
今回は事件ではなく、クラルがどんな子なのか、そしてステラとの何気ない日常を描いた一話でした。
旅に出ても、帰る場所がある。
迎えてくれる人がいる。
そんな当たり前の幸せを書きたかった回です。
そして物語は、いよいよ国家図書館から届いた招集状を手に、《中央都市ミラ》編へと進んでいきます。
ここから少しずつ、この世界の大きな謎も動き始めますので、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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それでは、また次回〜
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