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変わらないこと

こんばんは!


金曜日。今週も『白日の石刻』を読みに来てくださって、ありがとうございます!


旅の途中には、少し立ち止まる時間も必要ですね。


前話はすごいことになりましたもんねw


今日は三人と一緒に、王都の風を感じていただけたら嬉しいです。


それでは、どうぞ!


ーー


埃の匂いが混じった風が、頬を撫でていく。


アスター大商会の屋上。


王都を広く見渡せるその片隅に、クラルは腰を下ろしていた。


眼下には、人と馬車が絶え間なく行き交う大通り。


商館からは、次々と荷物が運び出されている。


遠くで汽笛が響いた。


煙突から吐き出された煙が、風に押され、細長く空へ流れていく。


さらに、その向こうーー


王都の空を貫くように、四本の尖塔が伸びていた。


その中央には、陽の光を受けて輝く王城。


四つの塔に囲まれた姿は、美しいとしか言いようがない。


ここから眺めると、あれほど巨大だった王都さえ、一枚の絵のように見えた。


クラルは膝を抱え、その景色をぼんやりと眺めていた。


少し離れたところには、ノア。


銀色の髪を風に揺らしながら、同じように街を見下ろしている。


シグは、屋上へ続く塔屋の日陰にいた。


壁に背を預け、腕を組んだまま空を仰いでいる。


誰も話さない。


……当然だった。


ほんの少し前。


百年前の石版を石刻した。


そこで見たもの。



病気の蔓延…魔女狩り…魔力暴走…


そしてーー謎の少女、クロエ。



百年前、この国で起きた出来事を、何らかの力で消した少女。


まるで、最初から何もなかったかのように。


その少女は言った。


百年後、自分によく似た人間が現れる、と。


黒い髪。


黒い瞳。


髪と瞳の色こそ違っていたが、その顔は、クラルとあまりにもよく似ていた。


大きすぎる話だった。


何を考えればいいのかさえ、すぐには分からない。


だから、誰からともなく少しずつ離れて座った。


今見たものを、自分の中で受け止めるために。


クラルは、風に揺れる髪を耳へ掛けた。


それから、少し離れたノアを見る。


「……ノア?」


「ん?」


ノアが振り向いた。


クラルは何も言わず、自分の隣を手のひらで叩く。


ぽん、ぽん。


「…………」


ノアの表情が、ほんの少し緩んだ。


嬉しそうに立ち上がり、クラルのすぐ隣へ腰を下ろす。


ちょこん。


さっきまで、一人で大人しく考え込んでいたのが嘘のようだった。


クラルは少し笑う。


「なに? クラル」


「ううん」


ノアの手へ、自分の手を重ねた。


指と指を絡ませる。


ぎゅっ。


ノアも、握り返した。


それだけだった。


「…………」


「…………」


百年前のことも。


クロエのことも。


自分たちが何に巻き込まれているのかも。



まだ、分からない。


でも、隣にはノアがいる。


それだけは、ちゃんと分かった。



クラルは、しばらく繋いだ手を眺めていた。


ノアは今、何を考えているのだろう。


……少なくとも、自分ほど難しく考えてはいない気がした。



そして。


「……シグ?」


塔屋の日陰から、声が返ってくる。


「ん?」


「こっち来て」


「何? 俺!?」


シグが勢いよく顔を上げた。


「いいのかよ!? 二人の世界じゃなかったの?」


「何それ、違うよ!」


「違うの?」


「違うよ!」ノアまで言った。


「……じゃあ、失礼しまーす」



シグが壁から背を離す。二人のそばまで歩いてくると、腰を下ろした。


「で? 何?」


クラルは少しだけ迷った。


それから、ノアを見る。


ノアも頷いた。


「シグに……話しておきたいことがあるの」


「なに?」


「魔力暴走のこと」


シグの表情が変わった。


「……知ってたの?」


「言葉だけ、少し前に」


「いつ?」


今度は、ノアが口を開いた。


「私が《灰読》で読んだの」


「灰読で?」


「うん。前に読んだ石本に、《魔力暴走》って言葉が残ってた」


シグは黙って聞いている。


「でも、それだけだったの。何が起きたのかも、誰が起こしたのかも……何も分からなかった」


「それをノアが私に教えてくれて」


クラルが続ける。


「二人で、おばあちゃんに話したの」


「ステラさんに?」


「うん」


風が吹いた。


クラルの髪が、ふわりと揺れて鼻先にからむ…


「おばあちゃんにも、その言葉だけじゃ何があったのか分からなかった。だから、詳しいことが分かるまでは、私たちの間に留めておこうって」


「……どうして?」


「言葉だけが一人歩きしたら、余計にみんなを不安にさせるかもしれないから」


クラルは少し俯いた。


「そのまま、シグに話すきっかけもないままで……」


「今日、あの石版で同じ言葉を聞いたから、ちゃんと話しておこうと思ったの」


ノアが続けた。


シグが二人を見る。


「なるほど。それで、今か」


「うん……。ごめんね」


クラルが小さく頭を下げる。


「私も。ごめんなさい」


ノアも言った。


シグは、しばらく黙っていた。


クラルが恐る恐る顔を上げる。


ノアも、隣からシグを見ていた。


「……あのさ」


ようやく、シグが口を開く。


「なんで二人とも、申し訳なさそうな顔してんの?」


「え?」


「私は、お腹が空いて、お腹が痛いだけ……」


クラルはすかさず繋いでいたノアの手の甲をつねった。


「いたっ」



シグは小さく息を吐く。


「話が曖昧だったんだろ?」


「うん」


「誰かに言ったところで、何かできたわけでもなかったんだろ?」


「……うん」


「それで、さっき俺も魔力暴走の話を聞いた。だから今、知ってたことを話してくれた」


クラルが頷く。


「だったら、それでいいよ」


「シグ……」


「むしろ」


シグは少しだけ笑った。


「ジジイの事で色々気を回しやがって…」


「え?何?」


「いや、なにも!今、俺に打ち明けてくれたことの方が嬉しいよ」


クラルが目を瞬く。


「俺にも、一緒に考えてほしいってことだろ?」


「……うん!」


クラルが笑った。


ノアも小さく頷く。


「信頼してる」


「…………」


今度は、シグが黙った。


「シグ?」


「いや」


すっと顔を逸らす。


クラルの口元が、にやりと緩んだ。


「シグ、照れてる?」


「照れてない」


「照れてるね」


ノアまで言う。


「照れてないって!」


「顔、ちょっと赤いよ?」


「暑いんだよ!」


シグが立ち上がった。


「帰る」


「待って待って! どこに帰るのよ!」


クラルが慌てて服の裾を掴む。


「離せ!」


「シグ怒った!」


「照れ隠し」


「ノアまで乗っかるな!」


さっきまでの静けさは、どこへ行ったのか。


屋上に、三人の声が響く。


クラルは笑った。


ノアも笑う。



――それでよかった。


百年前に何が起きたのか。


クロエとは何者なのか。


なぜ、クラルと同じ顔をしていたのか。


分からないことは、山ほどある。


それでも。


こうして三人で笑えることは、何も変わらなかった。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます!


分からないことは、まだ山ほど。

それでも、隣にいて、一緒に考えてくれる人がいる。


三人のやり取りを書いていると、私までほっとします。

シグ、照れてましたねww


「続きが楽しみ!」「この三人、いいな」と思っていただけたら、ブックマークや、ページ下の【☆☆☆☆☆】から★5評価、にこちゃんのリアクションで応援していただけると嬉しいです!


一つひとつの応援が、続きを書く力になっています。


今週も金・土・日、20時10分に更新します。

また明日、土曜日にお会いしましょう!

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