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100年後の君へ

王国による回収を免れ、

百年近くもの間、誰にも読まれず眠っていた一枚の石版。


そこに残されていたのはーー


クラルたちが旅の中で、何度も触れてきた過去でした。


そして。


初めて語られる、百年前の記憶。


この回、何度も書き直して苦労したのを思い出しますww


是非、読んでやってください!!


百年近い時を越えた石版が、クラルの腕の中にあった。


地下保管庫には、誰の声もない。


石造りの壁。


古びた木箱。


等間隔に灯されたランプの炎だけが、かすかに揺れている。


ノア。


シグ。


エマ。


アルタイル。


四人が見守る中ーー


クラルは石版を胸元へ抱き寄せた。


冷たい。


それなのに。


なぜか、ずっと誰かに待たれていたような気がした。


クラルは静かに目を閉じる。


「……始めます」


頬を伝った一雫の涙が……


ぽたり。


石版へ落ちた。


その瞬間ーー


ふわっ!!


淡い光が、地下保管庫いっぱいに広がった。


「……!」


ランプの炎が、一斉に揺れる。


空気が変わった。


クラルの腕の中で、石版が震え始める。


カタ……


カタカタ……


長い年月を閉じ込めていた殻がほどけていくように。


石の輪郭が、淡い光の中でゆっくりと崩れていく。


そして……!


一冊の本へと姿を変えた。


《石本》


次の瞬間。


地下保管庫の景色が…消えた。


ーーーー


風が吹いた。


「……え?」


クラルの髪が揺れる。


目の前には、まるで別の世界が広がっていた。


遠い空。


荒れた大地。


そしてーー


その中央に。


一人の少女と、一人の男が立っていた。


「クロエ!」


男の声が響く。


「君は……それでいいのかい!?」


少女が振り返った。


風に、黒い髪がなびく。


「じゃあさー…」


少女は少しだけ首を傾げた。


「この世界が滅んで、なくなってもいいの?」


「…………」


男が言葉を失う。


少女は、困ったように笑った。


「それでも少なくとも……《あなた以外》の記憶は消えるけどね」


「クロエ……」


「大丈夫だって」


まるで明日の予定でも話すような声だった。


「この魔力暴走を止められるのは、私しかいないから」


男の顔が歪む。


「だからって……!」


「その代わり!」


クロエが突然、人差し指を立てた。


「……え?」


「お願いがあるの」


先ほどまでとは打って変わって。


少し楽しそうに笑う。


「百年後…」


風が吹いた。


「私とよく似た人間が現れる」


「百年後……?」


「うん」


クロエは頷いた。


「その子の力になってあげてよ」


男は呆然とする。


そしてクロエは数秒考えてーー


「あ」


「……?」


「でもあなた、その頃には死んでるよね」


「…………」


「あはは!」


自分で言って、自分で笑った。


「まあ、何とかなるでしょ!うん、なんとかしなさいよね」


「本当に君は……」


男は呆れたように息を吐いた。


けれど。


その目は笑っていなかった。


クロエも、それに気づいていたのだろう。


空を見上げる。


遠く。


空の向こうが、僅かに歪んでいる。


大気そのものが軋むような、低い音。


ゴォォォォーーー


クロエの黒髪が激しく揺れた。


そして初めて。


その表情から、笑顔が消えた。


「……でもさ」


小さな声だった。


「私が、魔法使いたちのこんな戯れに翻弄されるなんて」


拳を、ぎゅっと握る。


「本当に……嫌になっちゃう!!」


「…………!」


その言葉に。


クラルたちの表情が変わった。


魔法使いたちのーー戯れ。


クロエが振り返る。


「ギデオン!」


「……ああ」


「あとは頼みました!」


「クロエ、待って!」


クロエの足元に光が生まれた。


一本。


また一本。


幾何学模様のような光が、大地を走っていく。


その光景を見ながら。


クロエは静かに口を開いた。


「ここ数年ーーーこの国で起きたこと」


光が強くなる。


「病気の蔓延」


「……!」


ノアの瞳が揺れた。


旅の途中で読んだ石版。


あの記憶が、一瞬だけ脳裏を過ぎる。


クロエは続ける。


「魔女狩り」


シグの指先が、僅かに動いた。


「…………」


ガレフ。


その名前を口にする者はいなかった。


けれど。


シグの表情だけで、クラルには分かった。


そしてーー


クロエが空を見上げた。


遥か遠く。


空そのものを呑み込もうとするような光が膨れ上がっている。


「魔力暴走」


クラルの瞳が、大きく見開かれた。


病気の蔓延。


魔女狩り。


魔力暴走。


旅の中で。


別々の場所で。


別々の石版から知ったはずの言葉。


それらがーー


今。


百年前の一人の少女の口から語られている。


クロエは両手を広げた。


「その記憶とーー」


光が彼女の身体を包み始める。


「起きたという事実そのものを」


ギデオンが息を呑む。


「……この世界から消します」


音がーー消えた。


風も。


大地の轟音も。


何も聞こえない。


「…………え?」


クラルの唇から、小さな声だけが漏れた。


記憶をーー消す?


いや。


今、この少女は。


もっと恐ろしいことを言った。


ーー起きたという《事実そのものを消す》


その時だった。


クロエの表情が、僅かに曇った。


「……でも」


「クロエ?」


「ひとつだけ……心配なの」


光が、少しずつクロエの足元から身体へ昇っていく。


「魔力暴走を起こそうとした一族」


「…………」


「もしかするとーー」


クロエは光の向こうを睨んだ。


「何らかの方法で、この力から逃れるかもしれない」


ギデオンの顔色が変わる。


「だったら、君が残れば!!」


「私では無理なんだよ」


ーーぬるい風が顔にまとわりついた


クロエは笑った。


静かな笑顔だった。


「だから」


ほんの少し。


寂しそうに。


「百年後の彼女に、託すしかないの」


「クロエ!!」


ギデオンが手を伸ばした。


けれど。


その手は届かない。


クロエは、その手を見つめた。


そしてーー


ふっと笑った。


「ギデオン」


「……なんだ?!」


「私ね」


少しだけ照れたように笑う。


「あなたと友達になれて、嬉しかった」


「…………」


伸ばしていたギデオンの手が止まった。


その手が。


ゆっくりと力無く下りていく。


そして。


泣きそうな顔のまま……


彼も笑った。


「……ありがとう、クロエ」


声が震えていた。


「こちらこそ」


クロエが微笑む。


「ありがとう」


その瞬間だった。


風が吹いた。


黒い髪が、大きく揺れる。


そして初めて。


クラルたちはーー


クロエの顔を、真正面から見た。


「…………」


ノアの表情が固まった。


黒い髪。


黒い瞳。


まだ幼さの残る顔立ち。


「……え?」


シグが。


エマが。


アルタイルが。


一斉にーー


クラルを見た。


けれど。


クラルだけは気づいていない。


石本の中の少女を、じっと見つめている。


クロエが笑った。


「じゃあね、ギデオン」


輪郭が、光の粒へ変わっていく。


「ーーあとは」


足元が消える。


身体が消える。


最後に。


黒い瞳だけが、真っ直ぐ未来を見る。


「百年後の未来に託す……」


そして…


「クラ……」


バシュン!!


白い光が弾けた。


「ーーっ!」


景色が消えた。


ーーーー


カタ……


どこかで、小さな音がした。


クラルが瞬きをする。


そこは…


アスター大商会の地下保管庫だった。


石造りの壁。


古い箱。


揺れるランプ。


「…………」


誰も喋らない。


クラルがゆっくり顔を上げた。


「……?」


違和感。


ノアも。


シグも。


エマも。


アルタイルも。


誰一人……。


石本を見ていなかった。


四人とも。


クラルを見ていた。


「…………なによ?」


誰も答えない。


「え、何?」


クラルが自分の顔を触る。


「私、なんか付いてる?」


ノアが唇を開いた。


「……クラル」


「うん?」


「今の子……」


そこで言葉が止まった。


代わりに。


シグが掠れた声で言った。


「……似てた」


「え?」


「クロエだよ」


シグの表情から。


いつもの軽さが、完全に消えている。


「クラルさんに……そっくりだった」


エマが言った。


「…………」


クラルが固まった。


それから。


少しだけ笑う。


「えー?」


わざとらしく自分の髪を摘まんだ。


「でも黒髪だったし」


次に、自分の目元を指差す。


「瞳も黒かったじゃん」


「そういうことじゃ」


「似てたかなぁ?」


笑っている。


けれど。


その声だけが。


ほんの少し、上ずっていた。


ノアは何も言わなかった。


クラル自身も…気づいていた。


似ていた。


鏡を見ているような。


そんな似方ではない。


もっと。


説明できない何か。


知らないはずなのに。


ずっと昔から知っているような…胸の奥が、ざわついていた。


その時。


「……まさか」


アルタイルが呟いた。


クラルが振り返る。


「アルタイルさん?」


アルタイルは答えなかった。


ただ。


クラルを見つめている。


頭の中で。


ほんの少し前に聞いた母親の声が、蘇っていた。


ーーそして、いつか。


ーークロエ、もしくは。


ーー似た女性が現れたなら。


アルタイルの瞳が揺れる。


――今度は、あなた達がその人の力になりなさい。


目の前には。


何も分かっていない顔で首を傾げる少女がいる。


「……?」


アルタイルは。


しばらくクラルを見つめた。


そしてーー


ふっ。


小さく息を吐いた。


ほんの少しだけ。


笑う。



母さん。


本当にーー


その人が、ここに来たよ。


この回本当疲れましたww

その分書いてて楽しかった回でもあります。


「百年後、私とよく似た人間が現れる…」


クロエが未来へ託した、ひとつの願い。


病気の蔓延。


魔女狩り。


魔力暴走。


これまで別々に見えていた出来事が、

百年前の記憶の中で、少しずつひとつに繋がり始めました。


そしてーー


クロエの顔を見た瞬間、

なぜみんなはクラルを見たのでしょうか。


最後に途切れた、


「クラ……」


という言葉の続きはーー


物語はここから、さらに深い場所へ進んでいきます。


今週も読んでくださって、本当にありがとうございました!


ブックマーク、⭐︎評価、ニコちゃんでの応援も、

ひとつひとつ大切に受け取っています!


それではーー


続きは金曜日、20時10分に。


また次の金曜日にお会いしましょう!

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