マスターアルタイルと面白い話の匂い
今週も『白日の石刻』始まります!
王都で思わぬ形で出会った、アスター大商会のエマ。
彼女に案内されたクラルたちが出会うのはーー
巨大商会を束ねる、一人の男。
どうやらこの人、普通の商人とはちょっと違うようで……?
今週も三人の旅を、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです!
「アスター大商会の商会主、アルタイル様です」
「アルタイルです」
男は気さくに片手を上げた。
クラルは慌てて頭を下げる。
「ク、クラルです!」
「ノアです」
「……シグです」
三人が順番に名乗る。
クラルはいつも通り。
ノアも、いつも通り。
ただ一人…シグだけは、ほんの少し背筋がぴんと伸びている。
アスター大商会。
王都にこれだけの商館を構え、王国中に商品を流通させる巨大商会。その頂点にいる人物が、目の前にいる。
(……俺、普通に喋っていいんだよな?)
横を見る。
ノアは何事もない顔で部屋の壁に飾られた絵を眺めていた。
(なんでそんな平然としてんだよ……)
そんなシグの内心など知る由もなく、アルタイルは三人を順番に見た。
「それで?」
「え?」
「エマが仕事中にわざわざ商館を案内するくらいだ。何かあるんだろう?」
「…………」
鋭い。
エマが苦笑する。
「やめてください。仕事みたいな言い方は!」
「商人だからね、私は」
アルタイルは楽しそうに笑った。
「面白そうな話の匂いには敏感なんだよ」
その言葉に、エマは《また始まった》とでも言いたげに少しだけ笑った。
――この人は、そういう人だ。
興味を持つのは、儲かる話だけではない。
知らない土地の話。
見たことのない商品。
変わった料理。
誰かが偶然見つけた、小さな発見。
どんな話でも、アルタイルはまず聞きたがる。
そして面白いと思えばーー
子供のように目を輝かせる。
エマがアスター大商会で働き続けている理由の一つも、きっとそこにあった。
この人のそばにいると。
昨日まで知らなかった何かが、毎日のように商館へ飛び込んでくる。
だから、楽しくて、やりがいがある、そして何より…アルタイルをチラリと見た……。
「では、少しお時間いただけますか?」
「もちろん」
アルタイルの目が楽しそうに細くなる。
「何の話だ?」
エマはクラルを見た!
クラルは何のことか分からず、自分を指差す。
「私?」
「はい」
そしてエマは、アルタイルへ向き直った。
「以前、お話ししたベルガ村でのことです」
「ああ。お母さんの手紙の?」
「はい。その時、私を助けてくださったのがクラルさんです」
アルタイルの視線がクラルへ向く。
「この子が?」
「はい」
「ほう……」
じっ。
「…………」
じいいっ。
「……あの」
クラルが一歩引いた。
「少し近くないですか?」
「すまん、すまん!」
アルタイルは笑いながら離れる。
その様子を見ながら、シグの緊張が少しだけほどけた。
どうやら、想像していた《大商会の主》とは、ずいぶん違うらしい。
一方のノアはというと。
特に驚いた様子もなく、テーブルに置かれた茶器を眺めている。
商会主だろうが、貴族だろうが。
ノアにとっては、たぶん《クラルに害がない人》くらいの認識なのだろう。
「それで? どうやってエマを助けたんだ?」
「それが……」
エマは少しだけ言葉を選んだ。
「石版です」
アルタイルの表情が変わる。
「石版?」
「はい」
「書記官なのか?」
「いいえ」
エマは首を横に振った。
そして…クラルを見る。
あの日。
母の残した想いを届けてくれた少女。
ただ文字を読み上げたのではない。
聞くことのなかったであろう声を。
母の想いを。
もう一度、この世界へ連れ戻してくれた少女。
「クラルさんは、書記官ではありません」
アルタイルの目が細くなる。
「では?」
その視線を受けて、クラルは小さく頷いた。
そして、自分の口で答えた。
「白日の石刻」
…静かな声が、部屋へ落ちる。
「《リトグラフ・ヴェリタス》と呼ばれる神の加護です」
「…………」
「死者が遺した石版を、石本へと変えることができます」
一瞬。
アルタイルは何も言わなかった。
クラルは少し不安になって、その顔を見る。シグも、無意識にアルタイルの反応を窺っていた。
この力を聞いて、どう思うのか。
だがーー
ノアだけは、やはり変わらない。相変わらずクラルを見て微笑んでいると思えば、隣で静かに紅茶へ視線を落としている。
まるでクラルの力がどれほど珍しいものなのか、今さら驚く理由などないと言わんばかりに。
やがてーー
「…………へぇ」
アルタイルの口元が上がった。
その目が。
きらり。
子供のように輝いた。
「それは…」身を乗り出す。
「ものすごく面白い話じゃないか!」
「マスター、近いです」
エマが苦笑をしながら首根っこを捕まえた!
「おっと」
一歩戻る。
しかしーーすぐにまた身を乗り出した。
「石版が本になるのか?」
「はい」
「でも文字ではないのかい?」
「声が聞こえます。というか、そのまま……死者の想いを映像で見ることができます」
「本人の?」
「はい」
「いつの時代の石版でも?」
「あ、えっと…」
「何度でも読めるのかい?」
「それは…」
「石本はどれくらい残る?」
「マスター」
エマが少し強めに呼ぶ。
ぴたり。
アルタイルが止まった。
「……すまん」
まったく反省していない顔だった。
ノアが小さく笑う。
「質問、多いですね」とエマが少し不機嫌になっているのをアルタイルが気付いた…
「……そうだね、すまん!」
シグもようやく肩の力を抜いて、呆れたように息を吐いた。
さっきまで《大商会の主》を前に緊張していた自分が、少し馬鹿らしくなってくる。
クラルだけは、目をぱちぱちさせていた。
もっと警戒されると思っていた。
気味悪がられることだってあるかもしれない。
死者の想いを見る力なのだから。
けれどーー
目の前の男は違った。
「クラル」
アルタイルが呼ぶ。
「はい?」
「もっと聞かせてくれないか?」
そこには恐れも。
疑いもない。
あるのはーー
ただ純粋な興味だけだった。
「君の《白日の石刻》について」
「…………はい!」
クラルは笑った。
その横で、ノアは静かに紅茶を一口飲む。
シグも、今度こそ椅子へ深く腰を下ろした。
エマはそんな四人を見て、小さく笑う。
やっぱり。《この人に紹介してよかった》
――この時。
クラルはまだ知らなかった。
王国中へ商品を運び。
金を動かし。
鉱山を持ち。
時には王侯貴族すら相手にする、この巨大な商会との出会いがーー
やがて自分たちの旅にとって。
とても大きな意味を持つことになることを……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
アスター大商会の商会主、アルタイル登場です。
大商会のトップを前にちょっと緊張気味のシグ。
いつも通りシレッとしているノア。
そして《白日の石刻》に目を輝かせるアルタイル。
この出会いが、これからクラルたちの旅にどう関わってくるのか
ぜひ楽しみにしていてください!
そして今週も、土曜・日曜と20:10に続きます!
「続きが気になる!」
「今週も読みに来るよ!」
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今週もクラルたちの旅をよろしくお願いします!




