王都グランヴィア
ついに辿り着いた、王国最大の都市。
見上げても、振り返っても、
そこには三人の知らない景色ばかり。
書いた私もワクワクしながら、風、音、風景、香りを文章に乗せたくて何度も書き直してかなり時間がかかった回ですww
クラル、ノア、シグ。
三人の新しい旅が王都グランヴィアから、始まりますよー。
蒸気機関車が、長い汽笛を鳴らした。
第七王子レオナルドと別れ、クラル達は大きな駅舎を抜けた。
そしてーー
「……わぁ」
クラルは思わず足を止めた。
目の前に広がっていたのは、
中央都市ミラとも、まるで違う街だった。
ミラのように道沿いに建物が折り重なっている感じとは違いどこまでも続く、広い大通り、
石畳は端まで綺麗に敷き詰められ、道沿いには同じ間隔で街路樹が並んでいる。
その向こうには、何階建てなのか数えたくなるほど大きな建物が綺麗に立ち並んでいる
さらに遠くーー
街の奥には、ひときわ高い尖塔が青空へ伸びていた。
ガラガラガラーー
何台もの馬車が行き交う。
新聞を抱えた少年が駆け抜け、歩道には靴磨きがお客の靴を磨き、演奏家が行き交う人々に曲を提供して小さな人だかりができていた。
大きな荷物を積んだ荷車の横を、着飾った人々が歩いていく。
呼び込みの声。
美味しそうな甘い香りまで香ばしいジューという音と共に漂ってくる。
馬の蹄。
車輪が石畳を叩く音。
遠くで鳴る鐘。
いくつもの音が重なって、
王都そのものが生きているようだった。
「すごい……」
クラルは大通りの向こうを見たまま呟いた。
「ミラも大きいと思ってたけど……全然違うね」
「うん」
隣でノアも珍しく、きょろきょろと街を見回している。
「あれ、何のお店だろ」
「え?」
「あそこ。窓が全部ガラスになってる」
「あ、本当だ!」
二人揃って同じ方向を見る。
シグはそんな二人を見て小さく笑ったあとーー
自分も街の奥にそびえる尖塔を見上げた。
「……まあ、これはちょっとすごいな」
クラルがすぐ振り返る。
「シグもわくわくしてる?」
「ちょっとね」
「絶対ちょっとじゃないよ!」
「顔に出てるね」
ノアまで言う。
「出てないよ」
三人で笑った。
知らない街なのに、
三人でいるだけで、不思議と怖くなかった。
ふわっーー
駅の方から風が吹いた。
背中を押すように、三人の間を通り抜けていく。
その風に混じっていたのは、花でも、料理でもない。
少し焦げたような。
黒い油のような匂い。
さっきまで乗っていた蒸気機関車の匂いだ。
クラルは振り返る。
巨大な駅舎の向こうから、
白い蒸気が空へ昇っていた。
汽笛が鳴る。
――ポォォォォォッ。
その音を背中で聞きながら、
クラル、ノア、シグの三人はもう一度、王都を見た。
知らない道。
知らない建物。
知らない人達。
その全部が、
この先に何かが待っているように見えた。
クラルの三つ編みが、
風にふわりと揺れる。
「……なんか」
一歩。
風に背中を押されるように、
クラルは王都へ踏み出した。
「わくわくするね!」
「うん」
ノアが笑う。
「俺もちょっとね」
シグも続いた。
「どこがちょっとよ!目がキラキラしてるよ」
早い風が三人の間を通って空に向かって渦巻いて抜けたーー
王都グランヴィア。
三人の前に、
新しい街が広がっていた。
「さて、と」
シグが王都の大通りを見渡した。
「まずはギルドかな」
「ギルド?」
クラルが振り返る。
「王都に入ったら、持っているなら通行書を見せておいた方がいいかもな。ついでに宿も紹介してもらえるしね」
「あ、そっか!」
クラルは鞄をごそごそと探る。
「確かここに……」
「ここで出さなくていいよ」
「え?」
「落とすから」
「落とさないよ!」
ノアが隣で小さく笑った。
ーー数歩も歩かないうちに。
「ノア! 見て!」
「うんうん、見てるよ!」
「シグ! あっちも!」
「はいはい、ってか、すごいな!!」
クラルの首は右へ左へと忙しい。
「……クラル、あれ」
今度はノアが足を止めた。
店先に並んでいたのは、光を受けて色を変えるガラス細工だった。
赤、青、緑。
風に揺れるたび、石畳の上に小さな光が踊っている。
「綺麗……!」
「でしょ」
なぜかノアが少し得意そうだ。
「ノアが作ったんじゃないでしょ」
「私が見つけたから」
その横でシグまで別の店を見ていた。
「……あっちは道具屋かな?」
クラルとノアが同時に振り返る。
「シグも興味津々じゃん!」
「そう見える?」
「見える見える」
三人の笑い声が、大通りの喧騒に混ざっていった。
ギルドへ向かっているだけなのに。
右を見ても、左を見ても、知らないものばかり。
王都に来た。
三人とも、ようやくその実感が湧いてきていた。
――王都グランヴィア冒険者ギルド。
大通りを少し歩いた先に、それはあった。
中央都市ミラのギルドよりも大きい。
両開きの扉を開けると、中には大勢の冒険者達が行き交っていた。
壁一面に貼られた依頼書。
受付には何人もの職員。
奥では酒を飲みながら依頼について話す冒険者達の姿もある。
「人、多いね……」
クラルはきょろきょろと辺りを見回す。
「なんか怖そうな人たちもいっぱいいる」
「王都だからね」
「ノアのことじろじろ見てるし…」
「二人とも目立つからな、まあ、こちらから何かしなきゃ大丈夫だよ」
シグは慣れた様子で受付へ向かった。
「こんにちは。王都へ来られた方ですね」
受付の女性が笑顔を向ける。
「通行書を確認してもよろしいですか?」
「はい!」
クラル達は、それぞれ通行書を差し出した。
受付の女性は一枚ずつ確認していく。
シグ。
ノア。
そしてーー
クラル。
「クラリス・エピタフ様……」
ほんの一瞬。
受付の女性の指が止まった。
「?」
クラルが首を傾げる。
だが、すぐにいつもの笑顔へ戻った。
「確認いたしました。ありがとうございます」
三枚の通行書が返される。
「この辺りで宿を探してるんですけど、おすすめはあります?」
シグが尋ねると、
「でしたら、二つ先の通りに《銀鹿亭 ぎんろくてい》という宿がありますよ。こちらの紹介だと少しお安くなります」
「ほんと!?」
クラルの顔がぱっと明るくなる。
「じゃあそこにしよう!」
「クラル、まだ部屋も見てないけど?」
「大丈夫!」
「何が?」
三人はそんな話をしながら、ギルドを出ていった。
扉が閉まる。
「…………」
受付の女性は、三人の姿が見えなくなったことを確認すると、先ほどの記録へ視線を落とした。
…クラリス・エピタフ。
…ノア。
その名前の横へ、
小さく印を付けた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
ついに三人、王都グランヴィアへ!
知らない景色に目を輝かせて、
三人で笑って、ちょっと浮かれて。
そんな王都での始まりになりました。
……ただ。
どうやら楽しいだけでは終わらなさそうです。
クラリス・エピタフとノア。
なぜ、二人の名前に印がつけられていたのか。
王都で待っているものは…
続きはまた来週、
金・土・日 20時10分にお届けします!
今週も三日間ありがとうございました。
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