↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/50

男の夢、その先へ!

旅に出て、初めての《石刻》の依頼。


金鉱山で見つかった、一枚の古い石版。

そこに残されていたのは、長いあいだ胸の奥にしまわれていた父と息子の想いでした。


追い続けた背中と、叶えたかった夢。


そしてーー夢を叶えた、その先にあるもの。


書いてて、ほんと夢を追った父親、その背中を見ていた息子…かっこいいなぁ、、って!!


納得して、少し涙を拭きながら書いた1話です。


今週も、クラルたちの旅を一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。


酒場には昼下がりの柔らかな光が差し込んでいた。


隣が冒険者ギルドということもあり、もっと騒がしい場所だと思っていた。


しかし、昼間ということもあってか、店内には数組の客がいるだけだった。


店内を見渡せる奥の席にアルトが護衛のために客に紛れていた。



クラルは窓際の席で紅茶を飲みながら、小さく息を吐く。


「バルドさん、今日は早く仕事を切り上げて来るって言ってたね」


「うん、鉱山は忙しいからね」


ノアが静かに答える。


向かいではシグが工具鞄を足元へ置き、苦笑いした。


「今日石刻するんだから、落ち着いて仕事なんて出来なかったんじゃないかな。」


三人は自然と笑った。


ーー


話題は旅の始まり、いつしか新しい暮らしへ移っていく。


「ノアと暮らし始めて、どう?」


シグの問いに、クラルは嬉しそうに笑った。


「すごく楽しいよ」


と言ってノアの腕に自分の腕を絡ませる。


「でもねー」


少しだけ困ったように笑う。


「ノアって、本当に何にも出来ないのよ」


「…最近知ったんだけど、私は出来ないらしい」

ノアは素直に頷いた。


「洗濯物はまず干せないし、全部本棚にしまうし。」


「分類した結果なのよね」


「お皿洗ったら、割るし」


「滑るから…」



「料理は?」


シグが聞く。


「鍋を焦がしたね」


「一回だけですけど!」


「一回で十分だよ」



みんなで笑った。



旅に出てから、こんなふうに笑う時間が増えた。


その笑いが落ち着いた頃、シグがぽつりと言った。


「……ありがとう」



クラルは首を傾げる。


「え?」


「君が旅に誘ってくれたこと」

静かな声だった。


「じじいが死んでから……正直、自分が何をしていいか分からなかった。」


目を伏せる。


「あのままだったら、多分ずっと立ち止まってたよ」


少し笑う。


「でも今は違う。」


クラルを見る。


「また前を向けらようになったんだ」


「だから、本当にありがとう」


クラルは照れくさそうに笑った。


「私は一人じゃ旅なんて出来ないもん」


「シグも」


「ノアも」


「みんな一緒だからだよ」


シグは静かに頷いた。



ーー


その時だった。


酒場の入り口が急に騒がしくなる。


「おい!聞いたぞ!!」


「本当か!?」


「信じられねぇよ!」


歓声。


驚き。


拍手。


何人もの鉱夫が外へ飛び出していく。


「何だろう?」


クラル達は顔を見合わせた。


自分達には関係のない話だろうと思っていた、その時。


勢いよく酒場の扉が開いた。


「クラルさん!」


興奮した声。



全身土埃まみれのバルドだった。


「聞いてくれ!」



息を切らしながら大笑いする。


「見つけちまった!!」


店中が振り返る。



「金脈だ!!」


一瞬の静寂。



次の瞬間。


「うおぉぉぉ!!」


誰かがジョッキを掲げる。


「今日は祝い酒だ!」


おかみさんまで目を潤ませて笑っていた。


「よかったねぇ……。」


バルドは照れくさそうに頭をかきながら笑う。


「まだ夢みてぇだ!」


そして、クラル達を見る。


「……でも。」


表情が少しだけ真面目になる。


「昨日約束した通りだ」


「親父の石版」


「読んでくれ」


ーー


酒場の奥。


静かな個室へ案内される。


おかみさんが黙って扉を閉めた。


部屋には四人だけ。


バルドは布に包まれた石版を、ゆっくり机へ置いた。


「昨日も言ったが……。」


その手は少し震えていた。


「何十年も前の親父の石版だ。」


クラルを見る。


「お願いできるか?」


クラルは静かに頷く。


優しく目を閉じ両手で石版を抱きしめた


暖かいぬくもりが服の上からでも伝わってきた…


静かな涙が、一滴。


石版へ落ちた


光が部屋を包み、


次の瞬間ーー


誰も知らない父の記憶が部屋中に始まった。



「俺は、お前を夢のためにこの鉱山へ連れてきた」


「この仕事しか知らなかった俺は、それがお前の幸せだとも信じていた」


「鉱夫になればいいと…」



「しかし、違ったんだ。」


「この鉱山は、もう長くはもたない」


「鉱脈は枯れている」


「だから、もう掘るな」


「この町を出ろ」


「俺の背中なんか、追わなくていい」



部屋が静まり返る。


誰も言葉を発せなかった。


ーー


長い沈黙のあと。


バルドが小さく笑った。


「……なんだよ。」


石本を見つめる。


「俺ぁさ、親父が石版になって…」


「最後まで金脈の場所を隠してるんだと思ってた。」


苦笑い。


「まさか」


「俺の心配をしてたなんてな」


「……最後まで」



「……俺さ」


「親父みたいになりたかったんだよ」


「かっこよかったんだぜ?!腕なんて今の俺よりもずっと太かったんだ!」


「いつも自慢だった。」

少しだけ鼻をすする。


「だから山に入って。」


「毎日掘って。」


「いつか親父を越えようと思ってた。」


笑う。


涙が頬を伝う。


「なのにさ……。」


顔を上げた。


「なんだよ…」


涙を流しながら笑う。


「今日。」


「今日見つけちまったよ!」


「聞こえてるか、親父…」


部屋が静まり返る。


「もう諦めろって?」


「遅ぇよ!」

と言うとバルドはまた鼻を鳴らした



「見つけたんだよ!」


「やっと!」


「やっと見つけたんだ!」


「わははは!」



泣きながら笑う。



「親父!」


「親父が人生を賭けた山だぞ!!」


「ないと思ってた金脈…見つけち……まったじゃねえかよ…」



ーー



光が次第に弱くなって行く…


クラルは何も言わず、石本をバルドに差し出す。



弱々しく大切なものを抱くように石本を抱きしめたーー




そしてさらさらと次第に砂へ変わっていく……


ノアはテーブルに落ちた砂を静かに、両手ですくった。


淡い光。


優しい声が響く。


ノアが目を開く。


「……最後の言葉があるんですが私が代わりに聞いてもいいですか?」


「ん?…ああ、頼むノアさん」枯れた声でバルドが言った。


全員が息を呑む…



ノアは静かに告げる。


「バルド」


「夢ってのはな」


「叶えるまでが夢じゃない」


「叶えたあと、何をするか」


「そこからが人生だ」


…


「夢を叶えてもな」


「毎日はずっと続く」


「案外、その先の方が面白かったりするもんだぜ」


「辛かったりもするかもだけどな」


「でも、その先に夢の答えがある」


最後に。


「……まあ」


「ロマンってやつだ。」


「わっはっは!」


光が静かに消えた。


ーー


「わっはははって、バルドさんと同じ笑い方かよ」と鼻を啜りながらシグが言った…


バルドは涙を拭きながら笑った。


「……なんだよ親父。」


「夢の先だと!?やっと金脈掘り当てたんだぜ!!」


「果てしないだろ、その先なんて!!」


天井を見上げる。



バルドは涙を拭い、静かに拳を握った。


窓の向こうでは、夕暮れの鉱山が黄金色に染まっていた。


その山を、バルドはしばらく黙って見つめていた。


明日もまた、山へ入る。


今週も『白日の石刻』始まりました!


旅に出て初めての依頼は、バルドと父親の想いを繋ぐ《石刻》でした。


ずっと追いかけていた父の背中。

夢を叶えることだけを考えていたバルドに残された「その先」の言葉。


そしてクラル、ノア、シグの三人も、少しずつ「旅をする仲間」らしくなってきた気がします。


ここからまた、新しい場所へーー


次回は明日、土曜日20:10更新です!


感想・評価・ブックマーク、とても励みになっています。

今週も三人の旅にお付き合いいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。