黄金の眠る街
三人で始める、新しい旅。
汽車の向かう先は、かつて多くの人が夢を追った鉱山の街。
乾いた砂の香りのする小さな街…
さて、どんな出会いが待っているのでしょうか。
錆びた鉄の匂いが鼻をくすぐる。
ホームを吹き抜ける少し強い風が、三人の外套をふわりと揺らした。
汽笛が高らかに鳴り響く。
「じゃあ、行こうか」
クラルが振り返ると、ノアとシグが静かに頷いた。
「じゃあ、行こうか」
シグが言う
「なんで真似すんのよ」とクラル
「ふふふ」ノアがクラルを見て笑った
三人は揃って汽車へ乗り込む。
ガタン、と扉が閉まり、ゆっくりと列車は動き始めた。
向かい合う四人掛けのボックス席。
窓際はクラルが取った。
窓の外では、見慣れた景色が少しずつ遠ざかっていく。
「旅って感じね」
ノアが窓の外を眺めながら小さく微笑んだ。
「そうだね!なんかドキドキするよね」
クラルも自然と笑顔になる。
シグは腕を組みながら二人を見て、どこか安心したように息をついた。
この並びも。
向かい合って座るこの距離も。
旅を続ければ、きっと当たり前になっていくのだろう。
それでも今だけは、どこか照れくさくて。
三人にとって仲間と呼べる人たちが、隣に、向かい側に、いることが、お互いに少しだけ誇らしかった。
ーーー
アウレリアス金鉱山までは汽車で約四時間。
アルセリアの北壁と呼ばれる険しい山岳地帯の手前にある鉱山の街だ。
列車がゆっくり速度を落とし、終着駅へ滑り込む。
《ヴェール・ヴァレー駅》
ホームへ降り立った瞬間、乾いた土と岩の匂いが風に乗って流れてきた。
見上げれば、赤茶色の巨大な岩山が空を覆っている。
ごつごつとした岩肌は、人を拒む城壁のようにも見えた。
かつて数え切れない探鉱者たちが、富と夢を求めてこの駅へ降り立ったという。
その面影だけが、今も静かに残っていた。
駅前には乾いた木造の家々が並んでいる。
だが、人影は少ない。
板で窓を打ち付けられた空き家も多い…
色褪せた看板。
風が土埃を巻き上げ、通りを静かに吹き抜けていく。
「思ったより……静かな街だね」
クラルが呟いた。
「鉱山が賑わっていた頃は違ったのでしょうね」ノアも周囲を見渡す。
シグは地図を広げた。
「まずは冒険者ギルドだな」
クラルは小さく頷く。
もう仲間が傷付くところなんて見たくない。
とにかくこの依頼は、万全で向かいたかった。
ーー
鉱山街の冒険者ギルドは想像以上に小さかった。
受付へ事情を話すと、奥から一人の青年が姿を現す。
背は高く、整った顔立ち。
剣を背負っていなければ、貴族と言われても納得してしまいそうだった。
「初めまして。アルトリウス・ヴァレンタインです。」
爽やかな笑顔。
「長いので、アルトで構いませんよ」
「よろしくお願いします!」
クラルは慌てて頭を下げる。
「Aランク冒険者だって」
シグが小声で囁く。
クラルはアルトを見上げる。
「……本当に?」
「何がです?」
「本当にAランクなんですか?」
「どういう意味でしょう?」
「かっこよすぎて」
アルトは一瞬きょとんとしたあと、思わず吹き出した。
「顔では昇格できませんよ」
「ですよね!」
「でもかっこいいのは得ですよ」
「そんなに言われると恥ずかしいな」
思わず四人で笑ってしまった。
ーー
街はギルドと同様、思った以上に小さかった。
ギルド。
その隣に酒場。
宿屋。
雑貨店。
武器屋。
道具屋、鍛冶屋、あとは採掘道具を扱う小さな店…
炭鉱へ続く一本道に、それらが細々と並んでいるだけだった。
「今日は何も出来なそうね」
ノアが空を見上げる。
「依頼人も昼は炭鉱で働いてるらしい」
シグが答える。
「じゃあ一度宿で荷物を下ろして、夕方まで街を見て回ろうか」
ーー
夕暮れ。
酒場から楽しそうな笑い声が漏れてくる。
「あんたらがクラル一行か!」
豪快な声が店中に響いた。
大柄な男が立ち上がる。
「遠いところ、よく来てくれた!ありがとう!!」と豪快だが丁寧に頭を下げた。
「俺はバルドゥル・グリムト。」
「長いからバルドでいい!」
クラル達は席へ案内される。
「今日は俺の奢りだ!」
次々運ばれてくる料理。
骨付き肉。
焼き野菜。
煮込み料理。
焼き立てのパン。
香辛料の香りが食欲を刺激する。
「いただきます!」
クラルが豪快に肉へかぶりつく。
「おいしい!!」
「本当だね、美味しい」
ノアも肉を口へ運ぶ。
シグも夢中で食べ始めた。
「……あれ?」
クラルが首を傾げる。
「ノア?」
「はい?」
「野菜食べてないよね?」
「……。」
「聞いてる?」
ノアは真面目な顔で答えた。
「肉も元は自然の恵みだよ?」
「そういう話じゃない!」
シグが吹き出す。
「ノア、意外と子供っぽいのな!」
「違うけど」
「じゃあピーマンどうぞ」
静かに皿へ乗せられる。
「……」
ノアは少しだけ困った顔をして、一口だけ食べた。
「偉い。」
「子供扱いしないで」
「あはは!」
クラルは楽しそうに笑う。
その様子を見ていた酒場のおかみさんも笑いながら皿を運んできた。
「はいはい、おかわりだよ!」
「え!?もう!?」
「若い子はいっぱい食べる!」
「ありがとうございます!」
クラル。
ノア。
シグ。
三人はまた夢中になって食べ始めた。
「……あんた達、本当によく食べるねぇ。」
「特にその銀髪の坊や。」
「はい?俺ですか?」
「肉ばっかりだよ!」
「……うっ、なんでバレてる」
ノアは静かにもう一本骨付き肉を取った。
「ノア!」
店中に笑い声が響いた。
その隣では。
「バルド!」
おかみさんの声。
「あんたは飲み過ぎだよ!」
「今日は俺の客がいるからな」
「毎晩誰かと飲んでるじゃないか」
「そうだったか?」
「とぼけるんじゃないよ」
豪快な笑い声が店いっぱいに広がる。
こんな豪快な酒飲みとの賑やかな食卓…三人ともガレフを思い出した。
「……師匠なら」
シグがぽつりと言った。
「絶対、あの人と飲み比べ始めてるな」
クラルが小さく笑う。
「うん」
ノアもバルドを見ながら微笑んだ。
料理も、人も。
この鉱山街は少し寂れて入るけど、ここだけは昔の賑わいを今も残しているようだった。
やがて。
バルドは酒を一口飲み干し、静かにジョッキを机へ置く。
ゴトッ。
その場の空気が少しだけ変わる。
「……さて」
真剣な目が三人を見た。
「本題に入ろうか」
クラル達も姿勢を正す。
「読んでほしい石版があるんだ」
ゆっくりと言葉を続けた。
「俺の親父の石版だ」
少しだけ視線を落とす。
「親父は死ぬまで、この山はまだ終わっちゃいねぇって言ってた」
「……きっとあの親父は知ってたんだ」
「この山の金脈が、どこを走っていたのかを…」
静かな沈黙。
「今じゃ石刻を頼める金もねぇ」
「だから諦めてた」
そう言って、バルドは小さく笑う。
「そんな時に風の噂で聞いたんだよ」
真っ直ぐクラルを見る。
「石刻師クラリス・エピタフ」
「あんたのことを……読めるんだろ?」
店の喧騒が、少しだけ遠く感じた。
クラルは静かに頷く。
「はい」
「読ませていただきます」
その返事を聞いたバルドは、どこか安心したように大きく笑った。
「よし!」
「じゃあ明日、親父に会いに行こうじゃねぇか!」
鉱山街での、新たな依頼が始まろうとしていた。
今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
かつて黄金に沸いた鉱山の街。
そして、バルドの父が遺した石版。
クラルの石刻によってバルドは何を受け取るのか…
石本にはいったい何が残されているのでしょうか!
次回、続きは来週、金曜日20時10分に鉱山の奥にGOですww
『白日の石刻』は毎週【金・土・日 20時10分】更新!
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