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朝日の向こうへ

いつもと変わらない朝。


焼きたてのパンの香りと、湯気の立つ紅茶。


そんな静かな時間に…


コンコン。


玄関の扉を叩く音が響きました。


扉の向こうに立っていたのは…


そう、あの人です!!


コンコン。


朝の静けさを破るように、玄関の扉が二度叩かれた。


窓から差し込む柔らかな朝日が食卓を照らす。


焼きたてのパンの香り。


湯気の立つ紅茶。


ステラはゆっくりとカップを置き、小さく笑った。


「こんな朝早くに誰だい」


向かいでは朝食を終えたノアが顔を上げる。


「ノア、お願いできるかい?」


「はい」


ノアは静かに席を立ち、玄関へ向かった。



ガチャリ。


扉を開く。



朝の光が、玄関へ差し込んだ。


「眩しい!」思わずノアがつぶやいた。



その中に、一人の男が立っていた。



肩には、使い込まれた工具鞄。


背には、いつもより少し大きな荷物。



「よう」シグだった。


ノアが目を細める。


シグは少しだけ気まずそうに視線を逸らしてーー


「迎えに来た」



その一言だけで十分だった。


ノアは優しく微笑む。


「お待ちしていました」


奥から姿を見せたステラも、安心したように笑う。


「やっと来たね。」


「……まあね」


「気持ちは落ち着いたのかい?」


少しだけ間を置いて、シグは照れくさそうに頭を掻く。


「ありがとう」


その短い返事だけで、ステラには十分だった。


「クラルは?」


「まだ寝てるよ。」


シグが苦笑する。



「私、起こしてきますね」


ノアは嬉しそうに階段を駆け上がった。


軽い足音が家中へ響いていく。


ーー


部屋の扉を勢いよく開ける。


クラルは布団にくるまり、幸せそうな顔で眠っていた。


「クラル、起きて」


「……あと五分」


布団の中から小さな返事が返ってくる。


「シグさんが迎えに来たよ」


「……」


「待っていたんじゃなの?」


「えっ?」


布団が勢いよく跳ね上がる。


「ええええっ!? 本当に!?」


「下にいるよ」


「嬉しすぎる!!」


クラルは飛び起きると、勢いよくノアを見る。


「ノア!」


「はい?」


「ほっぺ、思いっきりつねってみて!」


「本当にいいんですか?」


「お願い、夢じゃないか確認したい!!」


「…では、失礼して」


ぎゅうううっ。


「ぎゃああああっ!!」


頬を押さえながらも、クラルは満面の笑みだった。


「夢じゃない!」


「ってか、ノア馬鹿力かよ!!」


その叫びに、一階から笑い声が聞こえる。


「朝から元気だな、あいつは」


シグが吹き出した。



ーーー


「いただきます!」


焼きたてのパンへかぶりつくクラル。


「やっぱり、おばあちゃんのパンが一番!」

赤く腫れた頬をさすりながら言った。


「たくさん持っていきな」


ステラは布袋へパンを詰めていく。


「少し硬くなるけど、二、三日は食べられるよ。」


「おばあちゃん、今日なんだか世話焼いてない?」


「寂しいんだろー!」


ぐいっ。


「いだだだだっ!」


また頬をつねられた。


「朝から口が減らないね。」


食卓が笑いに包まれる。


ーー


食事を終えると、クラルは一枚の依頼書を大事そうに広げた。


「この間届いた石刻の依頼」


シグも依頼書を覗き込む。



依頼地、アウレリアス金鉱山


依頼人、バルドゥル・グリムト


ステラは懐かしそうに


「グリムト…」


「バルドゥルは知らないけど、多分そのお父さんの代は知ってるよ!鉱山一筋の人だね」


「でも、あそこはもう二十年以上前に金脈が枯れたんだよ」


ステラが言う


「それでも、あの人は毎日穴を掘ってる」


「いつか、もう一度夢が見つかるって信じてね。」



ーー


旅支度を終える。


水筒。


工具。


着替え。


パン。


「忘れ物ない?」


「大丈夫!」


そう言った瞬間。


「あ、着替え」


ノアが棚から静かに取り出してクラーの鞄に詰めた


「……えへへ」


「想定内!かなぁー」


「クラル、出発前から心配させるんじゃないよ」


最後まで家らしい空気だった。



ーー


玄関へ向かう。


シグは外で待っている。


ノアが扉を開く。


朝の風と光が同時に頬を撫でた。


クラルは一歩踏み出す。


それから。


ふと立ち止まり、振り返った。


見慣れた家。


庭。


窓辺。


毎朝見てきた景色。


今日だけは、どこか違って見えた。


目いっぱい、その景色を胸へ焼き付ける。


「……行ってきます!」


ステラは笑う。


大きく手を振りながら。


「行っておいで!」


その一言だけだった。



「気を付けるんだよ」


でもない。


「いつでも帰っておいで」


でもない。


ただ。


信じて送り出してくれた!


クラルは笑って頷く。


「うん!」


歩き始める。


一歩。


また一歩。


家が少しずつ遠ざかっていく。


その時だった。


「……あれ。」


視界が滲む。


慌てて涙を拭う。


止まらない。


「えへへ……」


笑おうとしても。


涙ばかりが溢れてくる。


隣へ並んだノアは何も言わなかった。


ただ、そっとクラルを抱き寄せる。


クラルは静かに肩へ額を預けた。



少し後ろを歩いていたシグは、そんな二人を見て小さく笑った。


ふと、空を見上げる。


青い空。


流れていく白い雲。


ーーほんの少しだけ、ガレフのことを思った。


きっと、あのジジイなら。


『いつまで泣いてやがる。置いてくぞ』


なんて言うんだろう。



シグは小さく息を吐いた。


そして、二人の横を通り過ぎる。


「ほら、行くぞ」


クラルが顔を上げた。


シグは振り返らない。


「旅するんだろ?」


クラルは涙を拭った。


ノアと顔を見合わせる。


そして、


「うん!」


朝日に照らされながら。



三人は、新しい旅への一歩を踏み出した。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、新しい一歩を踏み出すお話でした。


笑って、怒られて、忘れ物をして。


いつもと変わらない朝なのに、家を離れた瞬間に溢れてしまったクラルの涙。


そしてステラの、


「行っておいで!」


という言葉。


気に入りすぎて、読み返したら3回ぐらい使っていましたww


書いていて、とても好きな旅立ちになりました。


そして次なる目的地は、、


《アウレリアス金鉱山》


二十年以上前に金脈が枯れた場所で、今も穴を掘り続ける男。


そこで三人を待っているものとは…


『白日の石刻』は毎週【金・土・日 20時10分】更新です!


明日、日曜日も20時10分に投稿します!


続きが気になりましたら、評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!


それでは、また明日!

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