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決めた夜

今回のお話で、クラルはひとつの大きな決断をします。


たくさんの出会いと、石刻。

そしてガレフとの別れ。


優しいだけではない《白日の石刻》という力と向き合ったクラルが、それでも自分の足で進むことを選ぶーーそんな回です。


ここまでが、クラルにとって「旅に出るまでの物語」だったのかもしれません。


ここから先、世界はもっと広がっていきます。


新しい街、新しい出会い、新しい石版。

そして少しずつ繋がっていく、《白日の石刻》とクラル自身の謎。


物語は、ここからさらに大きく動き始めます。


ぜひ最後まで見届けてください!


夕暮れは、いつの間にか夜へと変わっていた。


窓から洩れる黄色い灯りが、石畳をやさしく照らしている。


その灯りが近づくにつれ、クラルは自然と歩く速度を少しだけ速めた。

「すっかり暗くなっちゃったね」


「うん」

隣を歩くノアが、小さく微笑む。



玄関の扉を開けた瞬間。


木の香りがふわりと鼻をくすぐる。


どこか懐かしくて、安心する匂い。


そして、その奥から漂ってくるのは、ステラの煮込み料理だった。


野菜の甘い香り。


じっくり煮込まれた肉の匂い。


それだけで、お腹が鳴りそうになる。


「ただいまー!」


クラルが元気よく声を上げる。


台所から振り返ったステラが、いつものように笑った。


「おかえり。」


その笑顔を見た瞬間、クラルは一歩前へ出た。


「おばあちゃん」


少しだけ真剣な声だった。


「……ちょっと、話があるんだけど!!」



ステラは驚かなかった。


「……そうかい」


それだけだった。


まるで、いつかこの日が来ることを、ずっと前から知っていたように。


けれど、その穏やかな笑顔の奥には、ほんの少しだけ寂しさが滲んでいた。


「じゃあ、食べながら聞こうか」



食卓には湯気の立つ煮込み料理。


焼きたての黒パン。


三人分の皿。


いつもの景色だった。


だからこそ、今日だけは少し違って見えた。



食事が始まる。


しばらくは誰も話さなかった。


スプーンの触れ合う音だけが静かな部屋へ響いている。


やがてクラルは、そっと手を止めた。


「……私ね」


小さく息を吸う。


「ガレフの石刻をして、改めて思ったの」


ステラは何も言わない。


静かに続きを待っている。


「石刻って……優しいだけじゃない」


「残された人を救えることもある」


「でも、その反対もある」


「知らなくても幸せだったこと」


「知ってしまったから苦しくなること」


「真実は、時々、とても残酷なんだって」


クラルは、自分の手を見つめた。


その小さな両手で、今まで何人もの人生を読んできた。


涙も。


笑顔も。


後悔も。


憎しみも。


全部。


「それでも……。」


ゆっくり顔を上げる。



「それでも……私には、この力がある」


「だったら、逃げたくない」


その瞳は、まっすぐステラを見ていた。


「私の《白日の石刻》には、まだ何か秘密がある気がするんだ…」


「黒い髪と瞳の、もう一人の私」


「ノアとの出会い」


「石本が私を待っていた理由」


「全部、どこかで繋がってる」


ノアもスープを飲みながら静かに頷いた。


「そして……。」


クラルは少しだけ唇を噛む。


「もし、本当に私が狙われてるなら」


「このまま村にいる方が危ない」


「ガレフみたいに、また誰かを巻き込んじゃうかもしれない」


「いや、あれは…」

ステラは言いかけてやめた。



部屋が静まり返る。


「だから」


「私は真相を知らなきゃいけない」


「ガレフの石本を読んで、そう決めた」


ステラは黙って聞いていた。


一度も口を挟まない。


クラルは少し照れくさそうに笑う。


「……実はね」


「もうシグに手紙を書いたの」


「もし良かったら、一緒に旅をしないかって」


「返事はまだ来てないけど…」


「それに」


机の端に置いてあった依頼書を持ち上げる。


「ちょうど、炭鉱町で石刻の依頼も来てる…」


「だから」


クラルはノアを見る。


ノアも優しく笑って「うん!」と頷いた。


その姿に背中を押されるように、クラルは大きく息を吸った。


「私…」


「ノアと旅に出ようと思う」


静かな夜だった。


窓の外では虫の声が聞こえている。


ステラは二人を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


やがて、ふっと笑う。


それは祖母としての笑顔でもあり、一人の司書官としての笑顔でもあった。


「……そうかい」


短い言葉だった。


けれど、その一言には、色々な気持ちが全部込められていた。



ステラはゆっくりと立ち上がる。


クラルの前まで歩いていき、小さな頭へそっと手を乗せた…そして抱きしめる。


「あんたが自分で決めたんだね…」


その温かな胸と手に、クラルは少しだけ目を潤ませる。


「だったら、もう止めないよおばあちゃんは


「行っておいで」


「見てきなさい。この世界を」


「そしてーー自分の力が何なのか、自分の目で確かめておいで」


クラルは力強く頷いた。


「うん!」


その返事は、今までで一番、大人びいて聞こえた。



ーーー


食事を終えたクラルとノアは、二階の部屋へ上がっていった。


「おやすみ、おばあちゃん!」


「おやすみなさい、ステラさん」


「おやすみ」


階段を上る足音。


やがてーー


バタン。


部屋の扉が閉まる音が家の中へ静かに響いた。



一階には、黄色いランプの灯りだけが揺れている。


ステラは湯飲みを静かに机へ置き、小さく息をついた。


「……聞いていたね?」

いつになく静かな声だった。


返事はない。


だが次の瞬間。


部屋の隅、灯りの届かない影が、ゆっくりと揺らめいた。


その姿は黒い外套に包まれ、顔さえ影に溶けて見えない。


ステラは振り返ることなく、口を開く…


「まさか……あの子が、自分から旅へ出ると言いだす日が来るなんてね……」


少し表情を引き締めた。


「……お願いできるかい」


その姿は黒い外套に包まれ、顔さえ影に見えない。


「…はい」


短く、それだけ答えた。


次の瞬間。


人影は音もなく闇へ溶けるように消えた。



家の中には、再び静寂だけが残る。


ステラは二階を見上げた…



窓の外では、夜になって強く吹く風が木々を揺らしていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


クラルはついに、自分の意思で旅へ出ることを決めました。


でも、これはまだ始まりです。


これから待っているのは、今まで知らなかった土地や人々との出会い。


そこで出会う石版には、どんな想いが残されているのか。


《白日の石刻》とは、本当は何なのか。


黒い髪と瞳を持つもう一人の…


そして、クラルたちの知らないところで動き始めている者たちも……。


ここから『白日の石刻』の世界は、さらに広がっていきます!


クラル、ノア、そして――返事を待つシグ。


彼女たちの旅を、これからも一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回も毎週【金・土・日 20時10分】に投稿します。


「続きが気になる!」

「クラルたちの旅をもっと見たい!」


と思っていただけましたら、ぜひブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さんの応援が、本当に執筆の力になっています。


それではまた来週、金曜日の20時10分に!


ここから始まる新しい旅を、どうぞお楽しみに!

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