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隣にいるだけで

今週も『白日の石刻 -Claris Epitaph-』を読んでくださってありがとうございます。


ガレフとの別れを経て、クラルたちはリトスフェル村へ戻ってきました。


今回は少しだけ歩みを止めて、クラルとノア、二人のお話です。


何か特別なことをするわけでもなく。


大切な答えが見つかるわけでもなく。


ただ、いつもの丘で、いつもの風に吹かれる。


悲しいことがあったあとだからこそ、そんな何でもない時間を大切に書きました。


二人と一緒に、丘を吹き抜ける風を感じてもらえたら嬉しいです。


ーーー


リトスフェル村。


いつものように、丘を吹き抜ける優しい風。


もくもくとした白い雲が、ゆっくりと空を横切っていく。


青く深い草の匂いが風に溶け、

遠くでは小鳥の鳴き声だけが聞こえていた。


お気に入りの丘。


大きな岩の上に、クラルは一人座っていた。


黒い外套が風に揺れる。


しばらくして、小さな足音が近付いてきた。


「ーークラル。ここにいた」


ノアだった。


何も聞かず、何も言わず。


当たり前のように隣へ腰を下ろす。


二人の間に流れる沈黙は、いつも不思議と重くない。


風だけが、二人の間を優しく通り過ぎていく。


少しして、クラルがぽつりと呟いた。


「…ごめんね」


ノアは空を見上げたまま聞き返す。


「何が?」


クラルは少し笑って、小さく首を振る。


「…分かんない」


その言葉に、ノアも小さく笑った。


「じゃあ、私も」


「…ごめんね」


「え?」


「何が?」


「…分かんない」


二人は顔を見合わせて、少しだけ笑う。


理由なんて、本当はどちらにもなかった。


それでも謝りたくなる日はある。


誰にも向けられない想いを、言葉だけ外へ出したくなる日がある。


西へ傾いた日差しが、二人を淡い橙色に包む。


少しだけ強い風が丘を渡り、草花がさざ波のように揺れた。


その風に身を任せるように、クラルはゆっくりと身体を傾けた。


そして、ノアの肩へ頭を預ける。


「……ん」


何も言わず、ノアも自分の頭をクラルの頭へ軽く預けた。


温もりだけが伝わる。


風が二人の髪を優しく揺らした。


しばらく、どちらも何も話さなかった。


ただ空を眺めていた。


ガレフを失ってから、クラルの胸の奥には消えない後悔が残っていた。


「あの時、もっと何かできたんじゃないか。」


その答えは、今も見つからない。


だから今日は、何も考えない時間が欲しかった。


隣に誰かがいる。


それだけで十分だった。


やがてクラルが照れ隠しのように笑う。


「……私さ、ノアに甘えてるなぁ。」


ノアも穏やかに微笑む。


「それを言うなら、私もだよ。」


「クラルに頼ってる。」


「そんなことないだろー、優しいこと言うなよー」


「泣けてくるから」クラルが言った


クラルはノアに肩を軽くぶつけた。


「え?」


ノアは少しだけ唇を尖らせる。


普段はあまり表に出さない感情が、ほんの少しだけ顔を覗かせた。


「どうして?」


「私、頼ってるように見えない?」



クラルは少し驚いてノアを見る。


ノアは空を見つめたまま、小さく続けた。


「昔の私は、一人で平気だったんだ」


「平気だと思ってた、かな」


「誰にも頼らない方が楽だったから」


風が草原を撫でていく。



「でもね」


「クラルと旅をして、笑ったり、一緒にご飯を食べたり」


「朝、寝坊してステラさんに怒られたり」


ふふっと小さく笑う。


「そういうのが……思ってたより好きみたい」


クラルがノアを見る。


「だから、一人じゃなくてもいいんだって思えるようになった」


「私は、クラルに頼ってるよ」



その言葉は静かだった。


けれど、どんな励ましよりもまっすぐに届いた


クラルは照れくさそうに笑う。


「そっか」


「じゃあ、お互い様だ」


「うん」


二人はまた空を見上げる。


雲はゆっくり流れ。


風は変わらず優しく吹き抜ける。


もう、言葉はいらなかった。


隣にいる。


それだけで、少しだけ昨日より前を向ける気がした。


「ノア、ありがとう」


「うん!」


「クラル、ありがとう」



「そうだ、クラル?」


「ん? 何?」


ノアは少しだけ迷ってから、クラルを見る。


「……これからも、頼っていい?」


クラルの胸が、大きく震えた。


堪えていた涙が、一気に溢れる。


「当たり前でしょ」


クラルは泣きながら笑った。


「私だって、いっぱい頼るから」


「……うん」


「嬉しい」




銀色に透ける長い髪が風になびいた。



「……ノア?」


「どうした?」


クラルは少し照れくさそうに笑う。


「実はさ………」




ーーー



その言葉に、ノアは一瞬だけ目を丸くした。


やがて、ふわりと優しく微笑む。


「いいんじゃない?クラルらしい!」


「えへへ」



ーー



窓から洩れる黄色い灯りが少し眩しくなるころ、クラルとノアは家に帰った


「ただいまー!!」


「クラルおかえり、ノアも居るね!」


「じゃ、ご飯にするから座りな」



「おばあちゃん、ちょっと話があるんだけど!!」


最後まで読んでくださって、ありがとうございます!


今回はクラルとノア、二人だけの静かな時間でした。


「……ごめんね」


「何が?」


「……分かんない」


理由なんて分からなくても、誰かの隣にいたくなる日ってあると思います。


何かを解決してくれるわけじゃない。


悲しかったことが消えるわけでもない。


それでも、隣にいてくれるだけで少しだけ前を向ける。


そんな人がいるっていいなぁーと思って書きました!


今回の二人には、私の願望も込めてそんな時間を過ごしてもらいました!作者の特権w


クラルがノアに打ち明けた、「実はさ………」


その内容は、まだ秘密ですww


でも、クラルの中では何かが少しずつ動き始めています。


そして家へ帰って早々ーー


「おばあちゃん、ちょっと話があるんだけど!!」


さて、クラルは何を話すのでしょうか。


明日、日曜日も20時10分に更新予定です!


続きが気になると思っていただけたら、ブックマーク・評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また明日20時10分に。

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