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魔力暴走

今回は、石版に残されていた真実の、そのさらに奥へ。


魔女狩りの陰に隠されていた《ある言葉》


そして《忘却綴理》を使ったガレフにも、少しずつ代償が現れ始めます。


物語が大きく動き始める回です。


最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!


襲撃を受けた部屋を離れ、冒険者ギルドはすぐに別の部屋を用意してくれた。


すでに一階はいつもの賑やかな酒場に戻っていた。

ギルド受付は先程の事件の影響か、受付嬢が数人多く配置していた。


部屋へ入ると、誰もすぐには口を開かなかった。


窓の外では、衛兵たちが捕らえた賊を連行していく姿が見える。


ーー


重苦しい静寂を破ったのは、扉を叩く音だった。


「失礼します。」


ギルド職員が神妙な面持ちで頭を下げた!


「先ほど連行されていた賊ですが……全員、自決しました。」


その一言だけ残し、職員は部屋を後にする。


静寂。


「……口封じだね」


シグが低く呟いた。


オスカーは唇を噛み締める。


「何も……話させないために?」


「おそらく」


それ以上、シグは言わなかった。



あの男達もまた、命令された駒に過ぎなかったのだろう。



しばらくしてシグがゆっくり顔を上げた。


「一つだけ、整理しておこうか」


全員が視線を向ける。


「今回の襲撃は、石本が目的だったのは間違いないよね」


オスカーが目を見開いて呟いた

「石本…」


シグは静かに頷く。


「ですが、石版も石本も、もう存在しません」


石版は石刻を終え、その役目を終えた。


そして、ノアが灰読した石本も砂となって消えた。


証拠そのものは、この世から失われた。


「それでも安心はできません。」


シグは続ける。


「相手は、私達がまだ石版を持っている。もしくは、石刻と灰読によって真実を知ったと思っているはずです。」


クラル達を見る。


「次に狙われるのは石ではありません。」


「…私達自身、かもしれません」


部屋の空気がさらに張り詰めた。



その時だった。


ベッドで休んでいたガレフがゆっくり目を開ける。


「…シグ。」


「目覚めたかジジイ」


「仕事の打ち合わせか?」

ガレフがシグに聞いた


「…」


「宿……取ったのは……俺だったよな」


「ああ、ありがとう!」


ガレフはゆっくり頷く。



ガレフの視線が、クラルへ向く。


次にノア。


そして、オスカー。


だがーー



その瞳には、何の記憶も浮かばなかった。


「皆さんよろしくお願いします」


「……!!」


《忘却綴理》を大量に放出した代償で、かなりの記憶が失われていた。


だが、依頼でここへ来たことだけは覚えている。


シグは何も言わず、小さく微笑んだ。


「ジジイは休んでていいぞ」


ガレフは静かに目を閉じた。



その姿を見届けると、シグは全員へ向き直る。


「これ以上ここへ留まるのは危険だと思う」


「明日の朝一番の汽車で、この街を出よう」


全員が静かに頷いた。



ひと通り話が終わるとクラルとノアはギルドの受付へ向かった。



王国発行の通行証を提示した瞬間、受付嬢の表情が変わった。


「……王国特別通行証。承知いたしました」


話は驚くほど早かった。


翌朝、駅までB級以上の冒険者三人が護衛につく。


さらに、ステラへ知らせるための早馬まで手配された。



部屋へ戻る途中。


クラルがノアにそっと耳打ちする。

「…通行証、すごい効き目だよね!」


ノアは思わず笑みを浮かべた。

「本当、私も少し驚いた」



その穏やかな空気も束の間だった。


「クラル?少し……私達の部屋へ戻らない?」


「さっきの話なんだけど」


「うん」


二人は部屋へ戻った。


ベッドへ並んで腰掛ける。


沈黙が続く。



やがて、ノアがゆっくり口を開いた。


「……最後の言葉。言うね」


クラルは黙って頷いた。


ノアは目を伏せる。


拾い上げた砂の中に残る死者の最後の言葉。


「……とんでもないことに、手を貸してしまった……」


「歴史に埋もれた、この事実を……」


そこで一度、声が途切れる。



クラルは何も言わなかった。


ただ、次の言葉を待った。


「魔女狩りとは……隠れ蓑……で……」


ノアが顔を上げる。


「本当の真実は…」


静かな部屋に、息を呑む音だけが落ちた。


「《魔力暴走》」


その言葉だけが、二人の間に残った。


「……魔力、暴走?」


クラルがゆっくり繰り返す。


聞いたことのない言葉だった。


ノアは首を横へ振る。


「私にも分からない」


「でも……これだけは分かる」


ノアの手が、膝の上でぎゅっと握られる。


「魔女狩りは、本当の目的じゃなかった」


病が蔓延した時代。


政策の失敗。


人々の怒りを逸らすために始まった、魔女狩り。


数万人もの人間が、魔女として処刑された。


そしてーー


その陰には、歴史から消されたもう一つの出来事がある。


《魔力暴走》


クラルは俯いた。


しばらくして、小さな声が落ちる。


「……ただの人殺しじゃん」


ノアは何も答えられなかった。



「この話は、私とクラルだけの秘密にしておこう」


「明日ステラさんに会ったら、その時に全部話そう」


クラルはすぐに頷いた。


「私もそれがいいと思う」


「今は無事に帰ることだけ考えよう」


「うん」


二人は少しだけ肩を寄せ合った。


クラルがノアの肩へ頭を傾ける。


ノアも、その頭へそっと自分の頭を重ねた。


今日は、あまりにも多くのものを見た。


死者の後悔。


歴史の闇。


人の死。


そして、消えていく記憶。


今だけはーー

誰かの温もりが必要だった。



「ねえ、ノア?」


「なに?クラル…」


「潰れたパン食べる?」


「いらない」


「後でまた聞くね」


「うん、ありがとう!」



ーー


しばらくしてクラルとノアが先程の部屋へ戻ると、オスカーとシグが話をしていた。


オスカーは深く頭を下げる。


「本当に申し訳ありませんでした。」


「曾祖父の石版が……いえ、残された真実が、まさか国を揺るがすほどの内容だったなんて思ってもいませんでした。」


シグは穏やかに首を横へ振る。


「お気になさらないでください。」


「真実を残そうとした人がいて、その真実を未来へ繋ぐ人がいる」


「それが私達、修復士と石刻士、灰読士の役目です」


クラルとノアも静かに頷く。



部屋には再び静けさが訪れる。


しかしその静けさは、諦めではない。


明日の朝。


四人は、この街を離れる。



歴史の闇とーー

《魔力暴走》という、誰も知らない言葉を胸に抱えたまま。


ただ、この時のクラル達はまだ知らなかった。


この街を出ることさえ簡単ではないということを…


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに出てきた《魔力暴走》。


魔女狩りは隠れ蓑だった――。

では、その裏で本当は何が起きていたのか。


そして、無事に街を出ようとするクラル達ですが……どうやら簡単には帰してもらえなさそうです。


次回は明日、土曜日20時10分に投稿します!

もちろん日曜日も20時10分に投稿予定です!


続きが気になった方は、ブックマークして待っていただけると嬉しいです!


そして「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価もぽちっとしていただけると、ものすごく励みになります!


それでは、また明日!

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