春陽、石の丘にて
白日の石刻 -Claris Epitaph-を読みに来ていただきありがとうございます!!
第一話とは少し雰囲気を変え、今回はクラルとステラが暮らす「リトスフェル村」での日常を描きました。
1話のクラル、しっかり者に見えましたよねww
家ではどうなんでしょうね!!
普段の食いしん坊で少しぐうたらなクラルを、少しでも好きになっていただけたら嬉しいです。
それでは、第二話をお楽しみください!
石を意味する(リトス)
丘を意味する(フェル)
二つの言葉から名付けられた小さな村ーー
リトスフェル村。
石の丘という名を持つ小さな村だ
なだらかな丘と、
柔らかな緑に囲まれたその村は、
春になると、草木が花畑のように色づく。
風が吹けば、
大小の草花がそれぞれ好き勝手に揺れる…
石畳の道を、
子ども達が笑いながら駆けていく。
遠くでは、古い風車がゆっくり回り、煙突からは、朝ごはんの白い煙が空へ伸びていた。
焼きたてのパンの香り。
ミルクを温める甘い匂い。
洗濯物が風に靡くパタパタという音が草花の揺れる音と混じる。
時間だけが、少しゆっくり流れているような村。
大きな街みたいな賑やかさはない。
けれど、ここには穏やかな暮らしがあった。
そしてーー
リトスフェル村の小さな家で、クラリス・エピタフ。
通称クラルは、祖母のステラと2人で暮らしている
朝、
ぽかぽかした春の陽射しが、
ガラスを直接透かして部屋に落ちている。
窓の外では、小鳥の声が小さく聞こえる。
遠くで風車がゆっくり回るギシギシとザーッという単調な音。
そして、焼きたてパンの匂い。
「……」
ベッドの上で、クラルは、もぞ、と動いた。
干したばかりのシーツが、ふわふわで気持ちがいい。
顔を半分うずめる。
気持ちいい。
やわらかい。
眠い。
「……あと五分……」
春に負けた声だった。
だが。
パンの香ばしい香りと溶けたバターの香りがクラルの2階の部屋にも漂ってきた!
「……ッ!!」
クラルの鼻がぴくりと動く。
次の瞬間。
がばぁっ!!
「パン食べる!!」
勢いよく起き上がった。
寝巻きは肩までずり上がり、髪は寝癖で好き放題。
ーー
「おはよう、ステラおばあちゃん!」
階段をどたどた降りながら、クラルが元気よく挨拶をする!
「こらクラル、朝っぱらから走るんじゃないよ」
「あんた、何回、階段から落ちたと思ってるのさ」
キッチンでは、白髪を一つに束ねたステラが呆れたように振り返った。
ステラはおばあちゃんと呼ばれているが、白髪ではあるが、四十代後半の美しい婦人だ。
村で小さなパン屋を営む、クラルの育て親みたいな人だ。
焼きたての丸パンが、木の籠に山盛りになっている。
「わぁ……!」
クラルの目が輝いた。
「今日は、はちみつある?!」
「あるよ。昨日採れたやつだよ」
「神!!」
「誰がだい」
「ミツバチ!!」
「なんかクラルにはあげたくなくなったね!」
ステラは笑いながら言った
クラルは椅子に座るより早くパンへ手を伸ばした。
「あっつ!!」
「お行儀が悪い子だね!焼きたてだから気をつけなさい」
でも懲りないクラル!
ふーふーしながら、
今度は豪快にかぶりつく。
さくっ。
その瞬間。
「~~~~っ!!」
顔が、
ぱああっと花みたいに明るくなる。
「おいひい……」
「これ幸せだわ……」
「クラルはパンの美味しい食べ方をよく知ってるね」
ステラは言った。
パンくずを口の端や髪につけたまま、
クラルはへにゃへにゃ笑った。
その姿は、
《白日の石刻》リトグラフ・ヴェリタスを扱う少女には、とても見えない。
死者の記憶を刻み、
感情を読み、
旅先では静かに本を綴る少女。
けれど今は…
ただの、食いしん坊のぐうたら娘だった。
「ミルクも飲みな」
「はーい」
受け取って、
勢いよく飲んで。
「あっっっっつ!!!!」
「だから言っただろうに!」
舌を人差し指と親指で摘んで転げ回るクラルを見て、ステラおばあちゃんは呆れながら笑う。
「クラル!口、ミルクでお髭になってる!!」
「あーー!なんであんたは袖で履くのさ!!」
「だって!」
「だってじゃない!!」
「クラル、あとでお洗濯手伝いなさいね」
「ごめん無理!!」
「手伝わない子はお昼ご飯抜きだからね」
「えーー!!」
「えーじゃない!!」
「あはは」
窓の外では、
春の風が花を揺らしていた。
その穏やかな朝の中で。
クラルは、緑や風、差し込む光までも味方につけたみたいに、眩しく笑う!
「クラル!?後で髪、おさげにしてあげるから食べたら待ってなさい」
「いいよー、自分でできるしー」
「何言ってんだよ、適当なくせに!クラルがやるといつもぐちゃぐちゃなんだから…」
「えー?!」
「えーじゃ無い!!」
「今日は逃げ出すんじゃないよ!!」
といつもの呆れ顔のステラ…
そんな何気ない眩しい日常がこの家にはある。
ーーこの頃のクラルは、まだ知らない。
かけがえのない仲間との出会いも、
避けられない別れも、
そして、自分自身に隠された真実も…
白日の石刻 (リトグラフ・ヴェリタス)ーーそれは、死者が最後に綴る、生者への手紙。
第ニ話、春陽、石の丘にて 終ーー
第二話まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
『白日の石刻 -Claris Epitaph-』は、この穏やかな日常から少しずつ物語が大きく動き始めます。
これからクラルがどんな仲間と出会い、どんな運命に向き合っていくのか、ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
今後は毎週 金・土・日の20:10に更新予定です!
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