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丘の風

今日は少しだけ寄り道。


クラルが大好きな「特等席」へ、ノアを案内します。

二人の穏やかな時間を、ゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。


「ノア、こっちだよー!」


クラルは振り返りながら手を振った。


細い獣道を駆け上がっていく。


「そんなに急がなくても……」


ノアは苦笑しながら後を追う。


草と小さな石が転がる坂道。


風が吹くたび、草花がさわさわと揺れた。


「着いたー!」


クラルは大きな岩へ飛び乗る。


「ここだよ!」


両手を広げた。


「私の特等席!」



ノアもゆっくり岩へ登る。


眼下にはリトスフェル村。


いろんな色の屋根。


煙突から立ち上る白い煙。


遠くでは風車が静かに回っている。



ここまで来ると、村の生活音はもう聞こえなかった。



「……いい場所ね」


「でしょ!」


クラルは嬉しそうに笑った。


「だから連れてきたかったの。」


ノアは風へ顔を向け、静かに目を閉じる。


長い銀髪がさらりと揺れた。


「風が気持ちいい。」


「それだけじゃないよ!」


クラルは鼻をすんと鳴らす。


「ほら!」


「風の中に、砂と草の香りがするでしょう?」


ノアも真似をする。


「……本当だ。」


「季節によって、この調合が変わるんだよ。」


クラルは少し誇らしげだった。


「小さい頃はね。」


「丘の魔法だと思ってた。」


風がまた吹く。


草が揺れる。


「草が元気な季節は、青々しい匂い。」


「お花が咲く季節は、太陽と花の甘い香り。」


「季節によって全く違うこの丘だけの匂いになるんだよ」


ノアは静かに目を閉じた。


もう一度、大きく息を吸う。


「……クラル?!」


「ん?」


「…どういう意味?」



クラルは固まった。


「え?」


「調合って?」


「…………」


そのまま岩からずるっと滑り落ちた。


「わぁぁぁ!」


ごろん。


草むらへ転がる。


「いたたた……」


空を見上げたまま、小さく呟く。


「そうだった。」


「ノアって、そういう人だったわ」


「ごめんなさい。」


真面目に謝るノア。


クラルは起き上がり、大笑いした。


「違う違う!」


「そこじゃない!」


ノアもつられて笑う。


丘には二人の笑い声だけが響いていた。


しばらく笑ったあと。


二人は並んで岩へ座る。


村を見下ろしながら、風に吹かれる。


誰も喋らない。


それでも、不思議と心地いい。


「また来ようね」


クラルがぽつりと言う。


「うん!」


ノアは頷いた。


「今日から、私もこの丘が好きになったよ」


クラルはノアを、ジトーっと見た。


風が二人の間を優しく通り抜ける。


いつの間にか、ノアはそっとクラルの隣へ身体を寄せた。


クラルはノアの肩へ頭を預けていた。


ノアも静かに頭を寄せる。



言葉はなかった。


丘の風は今日も変わらず、二人を優しく包んでいた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


今回は物語が大きく動く回ではなく、クラルとノアが過ごす何気ない時間を書いてみました。

景色や風の匂い、そして言葉がなくても伝わる二人の距離感を感じていただけたなら嬉しいです。


相変わらずのクラルとノアが話していると描いてて笑ってしまいますw


『白日の石刻』は 毎週 金・土・日 20:10 に更新しています。

次回もぜひ遊びに来てください!


「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ブックマークや★★★★★で応援していただけると、とても励みになります。

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