共同窯のある朝
リトスフェル村へ戻ってきたクラル達。
事件も依頼もない、少しだけ穏やかな休日のお話です。
もし皆さんにも、こんな村で暮らしてみたい!なんか懐かしい!!と思っていただけたら嬉しいです。
リトスフェル村へ戻ってきてからの日々は、驚くほど何も変わらなかった。
朝。
「クラル、 起きなー!!」
バンッ!!
勢いよく扉が開く。
布団の中で丸くなっていたクラルは、もぞりと動いただけだった。
「あと五分……」
「どうしたら床で寝れるんだい!!」
隣を見る。
ノアも寝ていた。
しかもお腹を出して。
「ノア!あんたはどうして自分の部屋で寝ないのさ!!」
「……すぅ」
「起きな!!」
「……あと五分お願いします」
「あんたまで!?」
ステラの怒鳴り声が家中に響く。
結局二人は布団を引っぺがされ、朝食の席へ強制連行される日々…
そして朝食後。
「クラル、洗濯物干しな」
「はーい」
返事だけして逃げた。
「クラルーー!!」
「見つかった!!」
全力疾走するクラル。
追いかけるステラ。
「働がない奴はご飯抜きだよ!!」
「ひぇー!!」
ノアはノアで洗濯物を干そうとしていた。
「こうですか?」
「違う違う!!」
「こう?」
「それじゃ落ちるだろ!!」
「難しいです……」
洗濯物は見事に地面へ落ちた。
昼になればお腹が空くし、夜になればもっと空く。
クラルは山盛りのパンを頬張りながら言った。
「幸せー」
「よく食べるねぇ、クラルは」
「おかわりー」
「働かない奴はおかわり無しにしようか!」
「えー、それ困るわー」
即答だった。
「あはは、クラルったら!」
「あんたもだよノア」
「え?私もですか?」
「この子達は本当に……」ステラはトホホ顔で言った。
ノアは名誉挽回と言わんばかりにお皿洗いを買って出た!!
だが。
パリン。
「…」
「まあ、昨日は2枚割ったからね…今日は1枚ってことで!」と、頑張るノアを労うステラだったが、その矢先に、
ガシャーン
「ごめんなさい!!」
ステラが頭を抱える。
そんな賑やかな日々が続いていた。
ーーある朝、
「今日は共同窯の日だよ」
「今日かー」
「行くよ」
「もう1週間経ったんですね!」
「この日だけは逃げないねーあんた達!!」
村の共同窯。
大きな石造りの窯。
元々はステラがパン屋の商売用に作ったものだった。
だが今では週に一度だけ村へ開放されている。
親を亡くした子。
片親の家庭。
生活が苦しい家。
パン屋へ通えない人もいるのだ。
休みのこの日だけが家族がみんなで集まれる行事の家もある。
だからこそステラは言った。
「みんなでお喋りしたり遊びながら焼けばいいじゃないか!」
それ以来、週に一度休みの朝はこの共同窯は村の小さな行事になっていた。
窯のある広場には人が集まっている。
粉をこねる人。
丸める人。
薪を運ぶ人。
おじいちゃんも、おばあちゃんも、おじさんもおばさんも、皆んなでやるのだ!
子供達は走り回っている。
「クラルちゃん!遊ぼ!!」
「いいよー!」
「これどうやるの?」
「こうやるんだよ」
「なるほどー」
みんなでパンを作るのは作業と言うより日々の何かから解放されることでもある。
そして、週に一度の楽しみ、その行為こそこんな小さな村にとって、ご馳走なのだ!
大人も子供も楽しそうだ
隣では子供達が騒いでいた。
「ステラおばあちゃん!」
小さな男の子がステラを呼ぶ。
「なんだい」
「機関車のパン作ってー!」
「はいはい」
器用な手が生地を形作る。
あっという間に小さな蒸気機関車が出来上がった。
「これを窯で焼けば出来上がりだよ」
「わぁぁ!!」
歓声が上がる。
焼きたての香り。
笑い声。
青空。
クラルはこういう時間が好きだった。
「クラル?」
「はい?!」
「つまみ食いするんじゃないよ」
「してないよ!」
「口に付いているのは何かな?」
「げっ?!見つかってしまった!!」
周囲から笑い声が上がった。
その声は青空へ溶けていく。
幸せな時間だった。
そしてーー
クラルはふとステラを見た。
中央都市ミラ。
国家図書館。
館長。
書記官や司書官達。
誰もがおばあちゃんを敬っていた。
最高位司書官。
国家図書館の重鎮。
王国中の石本を管理する存在。
先日まで孫の私も知らなかった事実…
きっと私の知らないところで今も忙しいんだろうとクラルは思った。
それでも、物心ついた頃よりもっと前から毎朝起こしてくれる。
朝ごはんを作るのも。
洗濯しろと言うのも。
手伝えと怒るのも。
忘れ物を届けるのも。
全部おばあちゃんがしてくれる…
――おばあちゃんはひと言も言わないし聞いてもいないけれど、私は孤児だ…
おばあちゃんに拾って育ててもらったのだ。
そんなことは、馬鹿な私でも打ち明けられなくても分かる…
おばあちゃんとお喋りしたり笑ったり、喧嘩をしていても胸の奥がいつも温かくなる。
…すると
「クラル?」
「ん?」
「何ぼーっとしてるんだい」
「別にー」
クラルはなんか照れくさくなって目を逸らした。
逸らしたところからノアが不思議そうに私を覗く…
お昼過ぎーー
パンが焼き上がって楽しかった時間も終わって帰る時間になった…
村人達が手を振る。
「また来週ねー!」
「クラル、ちゃんとお手伝いするんだよー!」
「クラル、つまみ食いは程々にしろよー」
「クラル、ノアお姉ちゃんまたねー」
「ノアちゃんも来週ねー!」
「はい!」
ノアが手を振る。
クラルも振り返した。
「クラル、頭洗えよー」
「洗ってるわ」
「なんだアイツらは!!ほぼ私の悪口じゃんか」クラルが頬を膨らませる
ノアが「あはは」と笑った
「ほら、クラル、ノア、うちらも帰るよ!!」とステラが言った
「ほらパン持って!!」
「やだよー!!」
クラルは即答だった。
「はぁ?」
「私、おばあちゃん持つもん」
そう言うとクラルはステラの腕へぎゅっとしがみついた。
「こら!!」
「パン落とすだろ!!」
「この子ったらもう!…ノアちょっと持ってもらえる?」
「はい!」
ノアが慌てて紙袋を受け取る。
「クラル、あんた今晩パン抜きだからね!!」
「いいよー」
「はぁ?」
ステラが眉をひそめた。
「……」
「……だめ?」
クラルが上目遣いで見上げる。
「嫌い?」
「……まあ、悪くはないけれど」
「じゃあこのまま!!」
さらにぎゅっとしがみつく。
「それとこれとは話が別だよ」
ステラは呆れながらため息を吐いた。
けれど腕を振りほどこうとはしなかった。
すると、
反対側からそっと何かが触れた。
「?」
見るとノアだった。
空いた方の腕をちょこんと掴んでいる。
「ノア?」
「…私も」
「はぁ?」
「私も腕持ちたいです…だめですか?」
ステラは空を見上げた。
青空の昼下がり…
焼きたてのパン。
両腕にぶら下がる問題児二人。
「…あんた達は本当に」
困ったように笑う。
けれどその顔はどこか嬉しそうだった。
家へと続く帰り道ーー
三人の影が並んで伸びる。
今日も賑やかで。
今日も平和で。
そしてきっと。
明日も同じように怒られて、笑って…
そんな何気ない日常が…
三人にとってかけがえのない日常。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
今回は大きな事件ではなく、リトスフェル村の日常を自分だったらこんな村に住みたいなーって書いてみました。
クラル、ノア、ステラの何気ない時間や、村のみんなとの温かな雰囲気を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
『白日の石刻』は毎週 金・土・日 20:10 に更新しています。
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