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銀髪が紅に染まる朝

今回は、リリーとの別れ、そして旅の中で初めて訪れる大きな試練のお話です。


静かな朝が、一瞬で姿を変えるその時。

クラルとノア、それぞれの想いを見届けていただけたら嬉しいです。


リリーの両親、


アルバートとエレノアは改めてクラル達へ向き直った。


「実は、クラルさんに石刻をお願いしたかったんです」


アルバートは少し申し訳なさそうに笑う。


「そのため、先日中央都市ミラへ来られていた時に、紹介していただいて、ステラ様へお声掛けさせていただいていました」


「黙っていて申し訳ありません」


エレノアも頭を下げた。


「私達は魔法を研究する立場です。あまりにも早い段階で話してしまうと、余計な誤解を招いてしまうかもしれないと思いまして」


「そうでしたか」


クラルは笑顔で頷く。


「私は全然大丈夫ですよ」


隣でノアも静かに頷いた。


(おばあちゃんめ……)

心の中だけで小さく呟く。


けれど悪い気はしなかった。


むしろ、自分を信頼して依頼してくれたことが少し嬉しかった。


もっともーー


魔法を学問として研究する彼らが、《白日の石刻》そのものに興味を持っていたことも間違いないだろう。


《神からの加護》と呼ばれる力。


死者の記憶を読み取り、石へ刻む力。


研究者なら気になるに決まっている。


その日の夜。


クラルとノアは屋敷へ泊めてもらうことになった。


そして案の定。


二人は質問攻めにあった。


「石刻の最中は何が見えるんですか?」


「涙には意味があるんですか?」


「加護は生まれつきですか?」



ノアにも同様、


「灰読師はどのような原理で最後の一文を読むのですか?」


「ノアさんの出身地は?」


「ご両親は?」


「師匠は?」


次から次へと飛んでくる質問。


さすが王立魔術学会。


興味を持つ方向が普通ではない。


クラルは必死に答えていたが、途中から頭がこんがらがってきた。


一方ノアはー


「分からない」


と答えることが多かった。


出身地。


家族。


過去。


聞かれても答えられない。


いや、知らないのだ。


それを聞く度に、アルバートとエレノアは真剣な顔になっていた。


けれど、それ以上は踏み込まなかった。



やがて話題はおばあさんの石本へ移る。


リリーは少し照れくさそうに笑った。


「私ね、おばあちゃんに期待されてると思ってた」


静かな声だった。


「でも違ったの」


「期待じゃなくて……心配してくれてたんだって」


リリーは少しだけ俯く。


「私、お父様とお母様に認めてもらいたくて頑張ってたの」


「でも気付いたら、自分が何を好きだったのか分からなくなってた」


食卓が静かになる。


「おばあちゃんの言葉を聞いて思い出したの」


リリーは笑った。


「私、魔法が好きだったんだなって」


その言葉に。


アルバートもエレノアも優しく笑った。


けれど。


しんみりした空気は長く続かなかった。


「そういえば!」


リリーが突然声を上げる。


「お父様とお母様って駆け落ちしたんだよね!」


「ブッーー!!」


アルバートが酒を吹いた。


エレノアも盛大にむせる。


「リリー!?」


「な、なんで今その話を!?」


「だって本当でしょ?」


「本当だけど!」


「言わなくていいの!!」


クラルとノアは揃って固まった。


その後。


詳しく聞き出そうとしたクラルと。


全力で話題を変えようとするアルバート。


顔を真っ赤にするエレノア。


爆笑するリリー。


食後の紅茶を楽しむノア。


楽しい食卓は夜遅くまで続いた。


――――――


翌朝。


帰り支度を終えたクラル達を、リリーの一家は門の前まで見送ってくれた。


「また来てくださいね!」


「もちろんです!」


「今度は石刻じゃなくて遊びに!」


「はい!」


そして。


昨日の夕食で話題になった煌びやかなお茶菓子の話を覚えていたらしいエレノアが、大きな箱を抱えてやってきた。


「持って行ってください」


「えっ」


「遠慮しないでください」


「多いです!!」


「食べ盛りでしょう?」


「そうですけど!!」


結局。


箱いっぱいのお茶菓子を持たされることになった。


朝の街は静かだった。


石畳は朝露に濡れ。


人通りもまだ少ない。


クラルは箱を抱えながら笑う。


「なんか私ね、いつも一人で石刻してたけど」


ノアを見る。


「ノアが来てくれてすごく楽しかった」


ノアは少し驚いた顔をした。


それから優しく微笑む。


「それを言うなら私もだよ」


朝日が銀髪を照らす。


「クラルと石刻の旅ができて楽しい」


クラルは少し照れた。


その時、


――ジャリ。


砂を踏むような音がした。


「ん?」


振り返る。


誰もいない。


気のせいかな。


そう思って歩き出した。



ーー


やがて昨日通った露店街へ差しかかる。


すると。


目の前に大きな男が立ちはだかった。


「通してください」


男は動かない。


「どいてください」


それでも動かない。



背後から笑い声。


「おっ?」


「昨日のお嬢ちゃんじゃねぇか」


あの男だった。


子供に盗みをさせていた男。



周囲の店主達は見て見ぬふりをしている。


関わりたくないのだろう。



「昨日は偉そうなこと言ってたよなぁ?」


「ここを通りたいだけです」


「へぇ」


男が笑った。


「通りたいんだ?」


次の瞬間。


ドンッ!!


クラルは突き飛ばされた。


石畳へ倒れ込む。


「……っ!」


すぐにノアが駆け寄る。


「大丈夫?」


膝の砂を払ってくれる。


「ありがとう」


クラルは立ち上がった。



ノアが前へ出る。


「すみません」


静かな声だった。


「どいていただけませんか」


男達の視線がノアへ向く。


「へへへ」


「この女は傷付けるなよ」


「高く売れそうだ」


卑猥な笑い…



クラルは思わずノアの前へ出た。


男達が笑う。


「健気だなぁ」


そして。


男の足が動いた。


鈍い衝撃。


クラルの身体が吹き飛ぶ。


並んだ露店の机へ頭を打ち付けた。


ゴンッ!!


視界が揺れる。


温かいものが頬を伝った。


「クラル!!」


ノアがクラルに駆け寄って抱き起こす。


亜麻色の髪に血が付いていた。


周囲から悲鳴が上がる。


その時だった。


抱き締めていたノアの温もりがスルッと消えた。



気付けば…


いや、一瞬だった。


ノアは男の目の前に立っていた。


白い服から、一滴。


血が石畳へ落ちる。


……ポタリ。


次の瞬間。


男が膝をついた。


よく見ると。


顔面が潰れたように腫れている。


何が起きたのか誰にも分からなかった。


「なっ……」


「この女!!」


別の男が殴りかかる。


しかし。


その拳が届く前に。


男が石畳へ沈んでいた。



一歩…


また一歩……


ノアが動く度に………


男達がうめき声を上げて倒れていく。


悲鳴。


怒号。



気付けば十人近くいた男達は血まみれで全員地面に転がっていた。


それでも。


それでも返り血が滴り、白い服が真っ赤なノアは止まらなかった。


まだ動く者を探すように。


ゆっくりと歩く。



その姿を見た瞬間。


クラルの胸が締め付けられた。


怖かったわけじゃない。


違う。


悲しかった。


まるで。


ノアにかかった血飛沫が泣いているように見えた。


「ノア!!」


クラルは走った。


真っ赤に染まった胸の中へ飛び込んだ!!


強く抱き締めた。


「ありがとう!」


震える声。


「助けてくれてありがとう!」


ノアは動かない。


「ごめんね!」


涙が止まらない。


「もう頑張らないでいいよ…!」


血に濡れたノア頬へ自分の頬を当てる。


「もう大丈夫だから」


「ノアは助けてくれたんだよ!」


その瞬間。


ノアの身体から力が抜けた。


まるで。


操り人形の糸が切れたように。


ストンーー


「ノア!」


慌てて抱き止める。


そのまま石畳へ膝をついた。


腕の中のノアは驚くほど軽かった。


血に濡れた頬。


乱れた銀髪。


けれど。


眠るようなその顔は、


いつもの優しいノアだった。



クラルはそっと抱き締める。


「……本当にもう!」


「ノア…心配かけないでよね!バカ」


血で汚れた銀髪を優しく撫でる。


「……おかえり」



ざわつく朝の市場に、


静かな風が吹いた。


ーーーーー


その光景を、


少し離れた路地の影から見つめる者がいた。


深く被ったフード。


表情は見えない。


しばらく黙ってその場を見ていたが、


やがて小さく舌打ちする。


「チッ……面倒だな…」


次の瞬間。


その姿は影へ溶けるように消えた。



まるではじめから誰もいなかったかのように…


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


まさか、あのノアが…《え?》と驚かれた方も多かったのではないでしょうか!?

普段穏やかな彼女だからこそ、あの姿には大きな意味がありますねww


次の投稿はノアの秘密が…


この先も、クラルとノアの旅は少しずつ物語の核心へ近づいていきます。


『白日の石刻』は毎週 金・土・日 20時10分 に更新しています。

もし続きが気になりましたら、ぜひブックマークと評価(★★★★★)で応援していただけると、とても励みになります!


また次回、お会いしましょう。

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