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泣いていたから

いつも『白日の石刻 -Claris Epitaph-』をご覧いただき、本当にありがとうございます!


今回から舞台は王国南部の港町 サウスハーバー

穏やかな潮風が吹くこの街で、クラルらしいある出会いが待っています。


ぜひ最後までお楽しみください!


蒸気機関車が長い汽笛を鳴らした。


窓の向こうには青い海が広がっている。


白い波。


水平線。


空を舞う海鳥。


陽の光を受けて、海がきらきら輝いている。


潮風が車内まで流れ込んできた。


「わぁ……!」


クラルは窓に張り付いた。


「ノア?海だよ!」


向かいの席に座るノアが本から顔を上げる。


「そうだね」


「大きい!」


「うん」


「塩の匂いする!」


「窓開いてるもんね」


「魚いるかな!」


「いると思う」


「いっぱい?」


「たぶんいっぱい」


「食べられるかな?!」


ノアは少し考えた。


「まず見る方が先じゃないかな」


「えへへ」


ノアも小さく笑う。


「聞いてないよね?」


「聞いてるよ!」


ーー



王国南部にある大きな港町 サウスハーバー


商船や漁船が行き交い、多くの人が集まる場所。


その一方で、荒くれ者やならず者も少なくない街だ。



「だから気を付けてくださいね」

栗色の髪を束ねた若い魔法使いのリリーが言った。


今回の依頼者だ。


真面目な人だった。




「はい、特にクラルは気をつけてね」

とノアが言った。


「なんで?」


「え?」

クラルは本当に分からないという顔をした。


ノアが少しだけ微笑んで視線を逸らした。




リリーの家へ向かう大通りには、新鮮な魚や野菜、生活雑貨を並べた店が所狭しと軒を連ね、多くの人で賑わっていた。



その時、クラルの足が止まる…


路地裏。


小さな男の子がしゃがんで膝を抱えて泣いていた…


「どうしたの?」


クラルは迷わず近付く。


足音に気付き、

男の子が慌てて顔を上げた。


「なんでもないよ」


「泣いてるじゃん」


「泣いてない」


思い切り泣いていた。


クラルは男の子の前にしゃがみ込む。


「迷子?」


「違う」


「お腹すいた?」


「違う」


「じゃあなんで泣いてるの?」


男の子は黙り込んだ。


やがてぽつりと呟く。



「失敗した…怒られる」

小さな声だった。



クラルは少しだけ眉を下げる。


「そっか…」



その時だった。


「おい」


低い声が響く。


路地の奥から男達が現れた。


三人…


港町らしい荒っぽい格好で、日焼けした腕。


傷だらけの顔で、酒の匂い…



男の子の身体が震える。


「見つけたぞ!」


「また逃げてやがったな」


男の一人が男の子の腕を掴む。


「ご、ごめんなさい…」


怯えた声だった。


クラルが立ち上がる。

「その子嫌がってるよ?」


男達の視線が集まった。


…嫌な沈黙。


建物の角に居たリリーの顔が曇る…


ノアも静かに男達を見ていた。



「ガキかよ!」男が鼻で笑う。


「こいつは俺達の手伝いしてんだ」


男の子が俯く。


その拍子に服の中から小さな財布が見えた。


一つや二つじゃない…


「……盗んだの?」


男達が笑う。


「盗む?とんでもない拾ったんだよ!」


「なあ!?」



男の子の肩が震えた。



クラルの表情が静かに変わる。

「返した方がいいよ」



男達が眉をひそめる。


「は?」



男達は大声で笑った。

「あははは!」


「聞いたか?返せだってよ!」



「嬢ちゃん」

男が一歩前に出た。


「それ以上うるさいこと言うと痛い目見るぞ」


クラルは首を傾げた。


そして当たり前のように言う。



「ダメなことはダメじゃないの?」


潮風が吹く。


誰も喋らなかった。



ノアは小さく息を吐く…止めなかった。


……クラルの性格は一緒に生活していて知っていた。 




「やめなさい!」


鋭い声が響いた。


リリーだった。


「また子供を使ってるの!?」


男達が舌打ちする。


「…ちっ」


「リリーか」


「面倒なのが来たな」


明らかに嫌そうだった。



男達は男の子を連れて去っていく。


だが一人が振り返った。


クラルを見る。


嫌な目だった。


「その顔忘れねぇ」


そう言い残し、


男達は路地の奥へ消えた。



静かになる。


海鳥の鳴き声だけが聞こえた。


「変なのに目を付けられちゃったかもね」


ノアが言う。


「そうなの?」


クラルは不思議そうに首を傾げた。


「でもあの子泣いてたよ?」


「うん」


「だったら声掛けるでしょ?」



ノアは少しだけ笑う。

「そうだね」

「私もそう思う」



リリーだけが頭を抱えた。

「本当に大丈夫かなぁ…」


「それより、どうして怖い人達はリリーさんから逃げるように去っていったんですか?」


「怖いのは私じゃないですよ…」


「多分うちの親です」


その吐いて捨てたような呟きは潮風に流された。



潮風だけが静かに吹いていた。



この時のクラルは、まだ知らない。


あの小さな出会いが、


自分たちの運命を大きく変えることを…


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


クラルらしさが詰まった港町での出来事でしたが、この出来事が、思いもよらない大きな事件へと繋がっていきます。


続きは毎週 金・土・日 20時10分に更新予定です!


「続きが気になる!」と思っていただけたら、ブックマークや★★★★★評価で応援していただけると、とても励みになります!


明日、明後日も投稿しますね!

よろしくお願いいたします。

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