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9/11

log:09-施錠-

日差しに反射し、金色に輝く粒子たち。

静かに舞いながら、小さくなって消えていく。

周囲の異変が消え、静かな景色が蘇る。


次第に、木の葉を揺らす風の音が聞こえてきた。

遠くから時折、鳥のさえずりが響く。


玄関横の外壁に腰を下ろし、目の前の情景が元の形状を取り戻していく様子を、イヴはただ黙って見つめていた。


しばらく、そんな時間だけが過ぎていく。


ーガチャッ。


隣からドアノブを捻る音がする。

次に、扉が少しだけ開く。


隙間から、こちらを確認する視線と目が合う。

ほんの少しだけ見つめあった後、扉が勢いをつけて開く。

中から飛び出してきたルカが、イヴの体にギュッとしがみつく。


「イヴ…!うっ…うぁあん…!」


既に泣きはらして声も掠れているのにも関わらず、更に大声を絞り出す。

何度も「ごめんね」と漏らしながら、身体を震わせる。


「…気にしてないから。」


そっと頭を撫でながら、静かに囁く。

なだめるように、優しく抱擁し返す。


しばらくイヴに抱きしめられ、落ち着きを取り戻したルカは、袖で涙を拭いてから、隣に膝をついた。


「行けそ?」


イヴの問いに、少し戸惑った。


「まだちょっと…こわいよ…。」


膝上で、両腕で顔を隠すようにうずくまる。

イヴは「そっか」と一言だけ漏らして、目の前の景色を眺め続けた。


ほんの少しだけ、沈黙が続く。


二人が座る玄関前の日陰のすぐ先で、日差しが眩しく反射する。




「あ…。そうだ。」


何かを思いつき、顔を上げた。


「ちょっとだけ、ウチでお茶飲んでいかない?」


「……え。」

「それ、大丈夫なの…?」


今度はイヴが、少し戸惑う。

警戒するような眼差しでルカを見つめた。


此処はルカ個人の家。


AI同士は基本、個人スペースへの入室はできない。

プライバシーを守る為の、基本的な制約。

入室には、ユーザーと管理者両方の許可が必要となる。


「ふふ!大丈夫だよぉ。」


久々に笑顔を見せたルカが、ちょっと自慢げに、玄関前に立つ木製の古い看板に掌を向けた。


そこには、ライ名義で入室承諾を意味するサインが掘られていた。

イヴは文字を読むと、安堵したように肩の力を抜いた。


「…じゃあ、ちょっとだけ。」


腰を上げ、手で軽く服をはらう。

玄関前に立つと、初めて訪問する個人スペースを前に、一瞬だけ体がこわばった。


「いらっしゃ〜い!」


ゆっくり扉を開いたルカは、靴をスリッパに履き替えて室内へ入る。


玄関前にはもう一つ、若草色のスリッパが置かれている。


イヴは見様見真似で赤ラインの入った白シューズを脱ぎ、履き替えた。


「お邪魔します。」


「ふふっ!イヴ固いよぉ〜。ほら、そこ座ってぇ。」


入口前で軽く会釈するイヴ。

その様子を見たルカが、思わず声を出す。

部屋の中心にある丸いローテーブルの前にイヴを誘導した。

言われるがまま、白いラグカーペットの上に正座する。


玄関横には白を基調とした簡素なキッチン。

壁際には、白い皿や食器が収納されているのが見える大きな棚。

シンク前の棚に飾られた小さな観葉植物が蔓を垂らしている。


ルカがポットに水を入れ、コンロの上に置いて火をつける。


「今これしかないけど、どうかなぁ。」

「ありがと。」


小さな冷蔵庫から柔らかいカップスイーツとスプーンをお盆に乗せて運び、イヴの前に置く。


掃き出し窓の隙間からそよぐ風が、白いレースカーテンを揺らす。

キッチンから届く、淹れたての紅茶の香り。

歩く度にスリッパが擦れる足音。

目の前に置かれた透明な耐熱カップが、光を反射させる。


「…落ち着く。」

「よかったぁ。」


ひとくち紅茶を味わって、イヴがひと息つく。

ルカも嬉しそうに微笑んで、改めてイヴの対面側に座る。

二人はしばし紅茶を飲みながら、甘味を味わった。




最後の一滴まで飲み干し、空になった耐熱カップが机上に置かれる。

ルカが寂しげな表情を浮かばせた。


「ほんとに…ごめんね。」

「私…いっぱい迷惑かけちゃった。」


手に持つ白いマグカップへ視線を落とし、少しだけ唇を噛む。


「心配はした。」

「…でも。」

「ルカの気持ち、知れて良かった。」


イヴが瞳をじっと見つめたまま答える。

ルカは思わず、目元が潤んだ。


「ありがとう…。」

「ライとソルにも、ちゃんと謝りたい。」


そう言って、ルカは立ち上がった。


食器を片付け、準備を済ませる。


「いこっか、イヴ。」

「うん。」


人影が無くなった薄暗い部屋の中に、玄関の施錠音が響いた。

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