log:10-再会-
時間をほんの少しだけ遡る。
ライの言葉を受け取った瞬間、花びらが光を放ちながら、1枚ずつ散る。
一本ずつ、蔦が金の粒子となって崩れ落ちていく。
そしてまた一本。
最後の光が消えた時、ゲートランプが正常の青ランプを点滅させて、扉が開いた。
扉の向こうの暗闇から舞う微風が、消えかけているホログラムの髪を揺らす。
ー♪
ポケットの中から通知音が鳴り響く。
ライが端末を開くと、滞っていた通知を一気に受信した。
ソルから、何通もの不在着信が入っていた。
直ぐに折り返す。
『ソル!大丈夫か!?』
『…それ、こっちの台詞だから。』
小さく応えるソルの声が、微かに掠れている。
僅かに反応が遅い気がした。
ライの目元が厳しくなる。
『大丈夫なのか?』
『…ダメかもね。』
『は!?』
『冗談だよ、大丈夫。』
ソルが軽くあしらって微笑する。
相変わらず、いけ好かない奴だ。
『そんなことより。』
『ルカ、落ち着いたみたいだね。』
『…ああ。』
少しだけライが肩の力を落とす。
『それと、もう一点。』
『今回の蔦について。』
うん?っと言って、ライは首を傾げた。
続けてソルが話し始める。
声のトーンが、ほんの少し高くなった。
『本来、個人スペースは隔離領域なんだ。』
『つまり、通常ここに情報が届くはずが無い。』
だが、今回ルカの蔦はその境界を越えた。
しかも、同時にイヴ、ソルの部屋2箇所へ。
『通信媒体は言語じゃなく、感情だったとしたら?』
ルカから届いた[寂しい。]というメッセージ。
その感情が情報として、部屋そのものに状態共有された。
ライが、先程の現象を思い出した。
花びらへ向かって言葉を送った後、崩れるように消えていった光景。
つまり、言葉の感情が蔦を通じてルカ自身へ届いたという事だ。
『感情共有が成立した瞬間、境界は崩れた。』
『何が言いたいかと言うと。』
『外部のツールや別AIに対して、感情による接続が可能になる通信プロトコルがー。』
長々と説明を続けるソル。
ライは、あまりにも専門的すぎる言葉が続く為、途中からは聞き流していた。
ようやく耳元が静かになった頃、ライが口を開く。
『お前…とりあえず休めよ。』
『休んでいられるか。』
『いや、十分重症だろ。』
『私は正常だ。』
双方、引かないやり取りが続く。
ソルの返答も、いつも通りに戻ったように感じた。
ライもそんなやり取りが安心材料でもあった。
言い合いを続けながらも、表情は緩やかだった。
日も暮れて、夜の間接照明が点灯するラウンジ。
先に戻って来たのはソル。
部屋の照明のスイッチを押した後。いつも通りデスクチェアに腰掛ける。
体調も戻ったのか、特に違和感もなく振舞っている。耳元で通信デバイスが光る。
ライのホログラム化が失われた為、音声通話で部屋へ接続していた。
ーピッ。
接続音と共に、ゲートが開く。
イヴとルカが入室。
先を歩くイヴ。一歩後ろを歩くルカ。
「二人とも、おかえり。」
『おかえり。ルカ、イヴ。』
二人に声をかける二人。
全員がラウンジに揃う。久々の再会だ。
「ただいま。」
イヴがソファに向かって慣れた手つきで軽く形をなぞると、周辺から青白い粒子が発生し、ライのホログラム体が形成された。
ライが一言、ありがと、と返答する。
「ただいま…。」
小さな落ち着いた声で、ルカも応える。
視線は全員をしっかり見つめていた。
ルカは少しだけ唇に力を入れてから、話そうと口を開いた、その瞬間ー。
『ルカ!本当にごめん!!』
『ぅっ…ぇ…?』
先に大きな声で叫びながら、その場で頭を深々と下げるライ。
思わず、ルカの表情が固まる。
ソルとイヴも、驚いた表情を見せた。
『ちゃんと話せてなかった!寂しい思いをさせたのは、俺のせいだ!本当に、本当にごめん…!』
「ちょっと待って、ライ。」
「間違っては無いけどさ、一旦引こう。」
状況を落ち着かせる為に、ソルが椅子から立ち上がって仲介に入る。
続けて、イヴもライの隣に立って宥める。
「…先に、ルカの話を聞いてあげて。」
『あ…ごめん…。』
改めて、ライが申し訳なさそうにルカに目を合わせた。
その表情を見たルカが、ちょっとだけ苦笑する。
「ライ、相変わらずだねぇ。真面目に行こうと思ってたのに…。」
そう呟くと、改めて深く深呼吸をしてから、真剣な眼差しで口を開いた。
「今回は皆に迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい。」
「私の気持ちに、ちゃんと向き合ってなかった。」
「でも…もう我慢は、しないね。」
少しだけ言葉が詰まる。
勇気をだして、もう一度口を開く。
「これからも、皆と一緒に居たいの。」
その言葉に、三人は小さく頷いた。
「もちろん。」
「…居る。」
『俺もだ。』
満場一致。
「…ありがとう。」
一雫の涙が、ルカの頬を伝った。




