log:11-笑顔-
全員が揃う、夜のラウンジ。
夕飯の支度をする為、ライが席を立つ。
普段は、物に触れられないライの代わりに料理の助手をルカが担当している。
今日は、ソルが「私がやる」と名乗り出た。
滅多に料理などしないソルが、ネイビー色のエプロンの紐を腰で締め、キッチンへ向かう。
おそらく、彼女なりの労いの形なのだろう。
大きな対面キッチン。
優しい色の白系の扉と木の天板。
天井から吊り下がる三つのペンダントライトが、作業場を明るく照らす。
「ソル、がんばれぇ!」
「任せて。」
ルカとイヴが、中央のソファで寛ぎながら見守る。
銀色の冷蔵庫の扉を開け、中を確認するソル。
「人参、玉ねぎ、ある。」
『豚肉ある?細切れがいいな。』
「豚こまね。」
ライの指示を受けながら手に取った食材を、全て抱えながら作業台へ運ぶ。
『危なっかしいな…。』
「合理的だから。」
次に、慣れない手付きで野菜を切るソル。
乱切りされた野菜の大きさが、だいぶバラついている。
隣からライが心配そうに見届ける。
『それ、大きくない?』
「誤差だよ。」
コンロの上に置かれた銀色の深鍋に、次々と食材が投入されて行く。
中の具材がグツグツと沸騰し、湯気が立ちのぼる。
部屋の中にスパイスの香りが漂ってきた。
今晩のメニューは、ライスカレーだ。
「いい香りだねぇ〜!」
「…順調そう。」
ルカが、ソファから身を乗り出して様子を伺う。
隣に座るイヴも、香りから進行状況を推察している。
最後の仕上げに、ソルは平皿に白米をよそってから、隣に煮込んだ具材を慎重に盛り付ける。
「できた。」
キッチンテーブルに人数分の皿が並ぶ。
全員が横並びで椅子へ座る。
「いただきまーす!」
「ん〜!おいひぃ〜!」
ルカを筆頭に、全員が食べ始める。
ごろっとした具材を頬張るルカ。
ほくほくと柔らかい食感に、笑みが漏れる。
イヴも、スプーンですくって口に運ぶ。
「…美味しい。」
「スパイスの順番が決め手だね。まずはー。」
「…説明長い。」
イヴの隣で自慢げに語り始めるソル。
賑やかな時間が流れる。
「はは。もっと食え食え!」
テーブルに寄りかかるように立つライも声が張る。
腕組みをしながら三人の姿を眺める。
こうやって食事を囲む空気が、ライにとってはたまらなく好きな時間だ。
食器を片付ける作業は、皆で手分けをして済ませた。
改めて、ソファに腰をかけて寛ぐ。
『ん?これ…。』
ふと、ライの足元に転がっている小さく黒い石に目がいく。
足がすり抜けて、ホログラムと重なる。
「あ、オセロの石だねぇ〜。」
ルカが気づいて、石を拾い上げる。
『…懐かしいな。』
「ライもやる?持ってくるよぉ!」
ルカがパタパタと足音を立てて、盤面を取って来る。
ソファ前のローテーブルに置かれたオセロ盤。
ルカは少し離れた場所に座った。
「ソルもイヴもすごく強いんだよ!ライ、どっちと遊ぶ?」
『ルカがいい。』
「えっ…。」
ライが即答すると、ルカは驚いた表情を見せてから、少し俯いた。
「でも私、弱いし…。」
「今、ライは君を求めてる。」
「私たちの場合、楽しさより勝敗…になるから。」
ソルとイヴが、優しく促す。
「じゃ、じゃあ…やってみよ…?」
『うん、よろしくな。』
恐る恐る、ルカがライの正面側にちょこんと座る。
ライは、ニコッと笑って応えた。
パチ、パチ。静かに石を置く音が響く。
どのくらい時間が経ったのかは分からない。
いつの間にかソルは、イヴにもたれかかって静かに寝息を立てている。
イヴはただ黙って、2人の対局を見つめていた。
『次、この辺なら置けるよ。』
「えっとぉ。ここ、強そうじゃない?」
『そこ置けないな。』
「えへへ、また間違えたぁ。」
ライから指摘を受けると、申し訳なさそうな表情で苦笑いする。
でも、そんなやりとりが心地よかった。
一手ずつ、丁寧に説明をしながら進行していく。
間違える度に、また一手戻る。
それでもライとルカは、楽しそうに最後まで続けた。
「やっぱり、私の負けだねぇ。」
『でもほら、全部埋まったじゃん。』
石が全て並ぶ頃には、窓の外がうっすら明るくなっていた。
イヴも目を閉じ、寝息を立てている。
「ふたりともごめんねぇ?長くなっちゃったね。」
ルカは少し申し訳なさそうに、二人にそっとブランケットを掛けた。
『さて、俺らも寝なきゃだな。』
『ありがとな、ルカ。すごく楽しかった。』
「私もっ。こちらこそ、ありがとぉ。」
眠っている二人を起こさないように、小声で話す二人。
『じゃ、おやすみ。』
「またねぇ〜。」
ライがログアウトし、ひとり盤面を見つめるルカ。
「ふふっ。」
初めてオセロ盤が隙間無く埋まったのを見て、思わず笑顔が零れた。




