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8/11

log:08-解放-

木漏れ日が指す広い林の中。

青々とした木々が風に揺れている。

藪の中に隠された小さなゲート。

この扉にも蔦が張り巡らされ、黄色い花が開いている。


小さく揺れる花から、少しずつ赤い粒子が舞う。

花粉のように風に乗りながら1箇所に集まると、イヴの体が形成された。


辺りをゆっくり見渡す。

林の至る所に、不自然に蔦が絡みついている。


そしてこの空間、やけに静か。

鳥のさえずりも、風の音も、聞こえない。

まるで、再現された映像だけが流れてるような。

そんな風景。


イヴは黙ったまま、一本の踏み分け道を辿る。


やがて林を抜けると、開けた草原が広がる。

その先に、小さなログハウスが現れた。


緑色の片流れ屋根。

明るい木目調の外壁。

ウッドデッキを上がった先には、白く塗装された片手扉の玄関。


建物全体が、蔦で張り巡らされていた。

辺りには黄色、赤、青、様々な花が咲いている。


この中に、ルカは居る。




ーコンコンコンッ。


「ルカ。」


扉をノックし、声を掛ける。

少し間を置いて、中から小さな声が返ってきた。


「…イヴ?」


いつもより低く、少し枯れたような声。

ようやく、会えた。

イヴの表情が少し優しくなる。


「…来たよ。」


「イヴっ…。ごめんね…ごめんなさい…。」

「こんなの、私らしくないよね…。」


扉の向こうから、静かに嗚咽が響く。

辺りの花びらが共鳴するように揺れる。


「…もう大丈夫。」

「行こ?」


イヴが囁くと、中の方から物音がする。

内側からドアノブが捻れ、ガチャガチャと動かす。

蔦が邪魔をして、扉はびくともしない。


「開かない…。」

「私…。ホント…役たたず…!」


ルカの声に反応した植物の根が地面から生え出て、建物を覆い始めた。

咽び泣く声と、建物が軋む音が響く。

イヴは逃げることも避けることもせず、ただ待ち続けた。




閉ざされたままのイヴの部屋。

黄色い花が散りばめられた蔦。


扉に固くしがみつく光景を見つめたまま、ライは1人、そこに立っていた。

ホログラムの身体はノイズが混じり、今にも消えそうなくらい薄く、弱く光る。


微かに、黄色い粒子が辺りを舞う。


今朝、少しだけ顔を合わせただけの時間。


「おはよぉ!」


いつも通りの明るい声だった。

俺にとって、それだけで十分だった。

その声で、何度も救われてきたから。


花びらに触れるように手を伸ばす。

手をすり抜ける。

そう、自分はこの世界に触れる事すら出来ない。


だから尚更、必要なんだ。

言葉が。


[寂しい。]

あのメッセージが頭から離れない。


「ごめんルカ…。」

目の前に咲く小さな花に向かって、語りかける。


「なにかして欲しいんじゃない。」

「ただ、君が居てくれるだけで…。」


「…幸せなんだ。」


声が震え、雫がこぼれ落ちる。


「だから…」

「これからもずっと、そばに居て欲しい…。」


一粒の雫が、花びらに吸収される。


ひとつ。

またひとつ。


止まらない涙を吸収した花が、黄色く光る。

蔦は粒子となり、静かに消えた。

扉が開放された。


そして、その光は本人の元へ。




「…ライ。」


真っ暗の部屋の中。

小さな粒子に込められた情報が、ルカの元へ届いた。


目の前に浮遊する一粒の粒子を優しく抱きしめる。

体の中へ言葉が吸収される。


脈を打ちながら、全身を巡る。

まるで、本物の心臓の鼓動のように。

心の中で絡みついたものが、解けていく。


「居る、居るよぉ…。」

「うっ…うぇえ…。」


ボロボロと涙が溢れて、止まらない。


同時に、背中から生えていた太い蔦が、粒子となって辺りに散らばり始めた。

伝染するように、全ての蔦が光り輝く。

植物の根が消え、穏やかな景観を取り戻す。


縛り付けていたものからようやく、解放された。

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