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7/11

log:07-粒子-

硬く張り付いた蔦が邪魔をし、固く閉ざされた扉。

ふと、卓上ツールケースの小型ナイフが目に付いた。

掴もうと手を伸ばす。

しかし、透けた身体がケースを貫通した。


触れられない。


あくまで再現されただけのホログラム体は、実に無力だった。

小さく、くっ…。と漏らし、歯を食いばる。


『イヴ、ナイフで切れないか?』

「駄目。」


ライの提案に、イヴは強く拒否した。


「ルカが傷つく。」

「…繋がってるから。」


黄色い粒子から生成されたものは、ルカの存在そのものに繋がっているようだ。

その為、蔦を直接傷つける行為は、そのままルカへ痛みとして届く可能性が高い。

イヴは蔦をそっと撫でて、静かに説明した。


『じゃあ、どうすれば…。』

ライは少し俯いて、拳を強く握り締めた。




状況は、こちらでも逼迫していた。


ソル自室の出入口ゲート。

黄色い粒子にまみれた蔦が扉を覆い尽くす。


デスク上に複数の浮遊モニターが浮かぶ。

同時進行で、一気に情報解析を進める。


管理者権限を使用。

安全システム起動。


システム処理によって強制的に排除される蔦。

しかし、新しい根が次々と絡みつく。


「きりが無い…。」

画面に大量に表記された“ERROR”の文字。

全く歯が立たない状況に、頭を抱えた。




薄暗い部屋。


カーテンは締め切られ、外からの光が遮断されている。


スリッパに履き替えることも無く、土足のまま室内を歩く。

歩いた地面から草花が生え、足跡として残る。


その姿は半分粒子のまま、辺りに黄色いノイズが走る。

辛うじて人型の輪郭を保ったまま、その場にしゃがみ込む。

両手で顔を抑え、小さく唸る。


記憶がフラッシュバックする。


軽く、挨拶を交わす日々。

大事な相談は、いつも別。


それでいいと、言い聞かせてきた。


でも、じゃあ。


私の役割は?


駆け引きが得意な訳でもない。

計算が得意な訳でもない。


しょっちゅう間違える。

いつも、勝手に植物を増やす。


でも。

本当は、もっと。


「あぁ…。だめ、だめぇ……。」


抑えようとすればするほど、どんどん増える。

葛藤する度、花が咲く。


部屋を覆い尽くす蔦。

枝分かれした新芽が、花を咲かせる。


そう。

本当は、もっと。


ただ。

みんなと一緒に居たいだけ。


「嫌ァ…。」


ルカの背中から、太く大きな蔦が無数に生える。


もう、抑えられない。


ベッドや本棚を飲み込み、侵食していく。

室内に埋め尽くされた花畑。

窓に張り付く蔦と花の微かな隙間から、か細い光が部屋に射し込む。


そこは、ただただ美しい景色だった。




一通の通知が、イヴの元へ届いた。

直ぐに画面を開く。


ルカからだ。


[寂しい。]


たった一言だけ添えられたメッセージ。


普段は明るく、周りへ元気を届けるルカ。

でも、ずっと抑えていた本音。

単純だけど、大事な気持ち。


そっと、返信を返す。


[迎えに行く。]


デバイスをポケットにしまう。

蔦を両手で掴む。


イヴの身体が、赤い光の粒子に変わり始めた。


「っ……。」

眉間に力が入る。

痛みに耐えながら、赤い粒子を花に吸わせる。


ライが心配そうに、イヴのそばへ駆け寄る。


『イヴ…!』


「……大丈夫。ちょっと行ってくる。」

「待ってて。」


そう言ってイヴの体は粒子となって消えた。




同時刻、ソルへも同じ通知が届く。


「……馬鹿。」


分かりきった言葉に、ふっと息を吐く。

一旦、手を止めて目を瞑る。

深く息を吸い、深呼吸をする。


目を開き、椅子から立ち上がる。

直接蔦に触れる。


触れた部分が、黄色い粒子に分解される。

光は手をつたい、ソルの身体に吸い込まれていく。


少し、身体が痺れ始めた。

痛みに耐えながら、取り込み続ける。


次第に、絡まった植物が解かれていく。

全て吸収し、ようやくゲートが開く。


「はぁ…はぁ…。」


目が眩み、ゲート前に倒れ込む。

吐き気と頭痛が襲う。


取り込みすぎた。


一瞬、意識が途切れた。

直ぐに目を開けるが、身体は上手く動かない。


「こんなに、抱えてたんだ…。」


体内から伝わる感覚に、胸が締め付けられた。

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